Spotify年間ランキングから振り返る、2025年音楽シーンの傾向は? 芦澤紀子氏×柴那典氏によるトークセッションをレポート
Spotifyが、年末恒例企画「Spotifyまとめ2025」の公開にあわせ、音楽やポッドキャストなどの今年のリスニングデータから2025年を振り返る各種ランキングを発表。それに伴い、12月3日、Spotifyオフィスにて「2025年Spotify年間ランキング メディア向け先行説明会」が行われた。本稿では、スポティファイジャパン 音楽部門企画推進統括 芦澤紀子氏と音楽ジャーナリスト柴那典氏によるトークセッション「ランキングからみる2025年音楽傾向」の模様をレポートする。
「初めて見た光景」Mrs. GREEN APPLE、楽曲部門で上位席巻
芦澤紀子(以下、芦澤):「国内で最も再生された楽曲」部門で1位を獲得した楽曲は、Mrs. GREEN APPLEの「ライラック」です。TOP10のうちなんと7曲がミセスの楽曲でした。
柴那典(以下、柴):これはすごいですね。このランキング企画が始まってから、ここまで一つのアーティストが上位を席巻したことってなかったんじゃないでしょうか。
芦澤:そうですね、初めて見た光景です。「ライラック」は昨年、この部門で2位を獲得。リリース自体は2024年4月なので、年をまたいで聴かれ続けるロングヒットとなりました。7曲の内訳を見ると「ダーリン」「クスシキ」は今年の楽曲ですし、幅広い楽曲がランクインしている印象もありますね。
柴:今年は「ミセスの年」だったということが、ここからも分かるんじゃないかなと思います。彼らはメジャーデビュー10周年のタイミングで、華々しい活躍を見せました。山下ふ頭で大規模なライブ(『MGA MAGICAL 10 YEARS ANNIVERSARY LIVE 〜FJORD〜』)をやったり、ベストアルバム(『10』)をリリースしたり、今はドームツアー(『DOME TOUR 2025 ”BABEL no TOH”』)を開催中です。さらに、ボーカルの大森元貴さんは映画で主演を務めたり(『#真相をお話しします』菊池風磨とW主演)、朝ドラ(NHK連続テレビ小説『あんぱん』)に俳優として出演したり……メンバーの活躍もすごかった。
芦澤:音楽の領域を超えた、国民的エンタメコンテンツと言いますか。
柴:そうですね。まるで、バンド全体が一つのアミューズメントパークのようだと言いますか。これは実際に僕も彼らのライブを観に行った時に思ったことなのですが、本当に彼らのライブ、特に山下ふ頭での『FJORD』は、ロックバンドのライブというよりは、魔法の王国、夢の国のような感触がありました。音楽コンテンツの領域を超えたエンタメとしての異常なくらいの存在感を見せた一年だったなと思います。
芦澤:そんななか6位につけているのが、サカナクションの「怪獣」です。バンドにとっては3年ぶりの新曲で、日本での配信初日のストリーム数最多記録を塗り替える、記録的なヒットになりました。
柴:この曲は、アニメ『チ。 ―地球の運動について―』のオープニング主題歌として書かれた楽曲なのですが、山口一郎さん(Vo/Gt)が時間をかけて苦労して書き上げたぶん、ファンにとっては待望の1曲だった。そのこともおそらく、配信初日のストリーム数に結びついたんじゃないかなと思います。
芦澤:待ってました感というか、その反応と爆発力がすごかった印象があります。「怪獣」のリリースは2月でしたが、9月にリリースされた米津玄師の「IRIS OUT」がその記録をさらに更新するという、今年は非常にレベルの高い年でした。
柴:現状のSpotifyのランキングを見ると、1位は「IRIS OUT」になっているので、この楽曲が入ってきてもおかしくないとは思うのですが、集計期間が11月下旬までということで、全体のTOP10には入ってこなかった。ですが、おそらく来年のランキングではかなり上位に入ってくるでしょう。
アーティスト部門でも無双のミセス 米津玄師、複数主題歌タイアップで上位に
芦澤:続きまして「国内で最も再生されたアーティスト」部門に移りたいと思います。トップを獲得したのは……
柴:これ、ミセスじゃなかったらどうなるんだってことですよね(笑)。確実にミセスです。
芦澤:はい。Mrs. GREEN APPLEが1位を獲得しております。3年連続の1位です。Spotify JAPANがデイリーで発表しているトップアーティストランキングでは、12月1日時点でなんと1503日連続1位を記録しています。
柴:ミセスが一番聴かれているアーティストであり続けているということですか?
芦澤:この4年以上そうです。この記録は何年も続くのではないかと思えるほど、すごい勢いで無双していると感じています。
柴:すごいですね。本当にとんでもないことになっているなという印象です。
芦澤:そして先ほど少しふれた米津玄師ですが、「IRIS OUT」と「JANE DOE」(宇多田ヒカルとのコラボ曲)は今年の後半にリリースされたヒット曲です。楽曲ランキングには入ってきませんでしたが、アーティストランキングとしてはグッと順位が上がりました。
柴:「IRIS OUT」と「JANE DOE」は劇場版『チェンソーマン レゼ編』のオープニング/エンディングテーマですが、それ以外でも「BOW AND ARROW」(『メダリスト』主題歌)、「Plazma」(『機動戦士Gundam GQuuuuuuX ジークアクス』主題歌)と、このところ、米津玄師さんのアニメタイアップ楽曲が続いてます。米津さんは作品の世界観を楽曲で表現する主題歌制作のスキルが非常に高い。『チェンソーマン』のキャラクターになぞらえられて「解釈の悪魔」とも言われています。近年のヒット曲のポイントとしては、米津さんだけではなく、アニメタイアップ楽曲は、やはり大きなものだと思います。アニメのファン、そしてアーティストのファン両方が喜ぶもの。そして、楽曲の世界観をどれだけアニメの世界観と隣接したもの、かつ単なるアニメの主題歌ではなく、アーティストとしての表現として説得力あるものにできるか。非常に難しいことではあると思うんですが、それを今のJ-POPアーティストはクオリティ高くやっているのが面白いところだと思います。
HANAとCUTIE STREET(KAWAII LAB.)が集めた“新たな支持”
芦澤:「国内で最も発見されたアーティスト」は、今年初めて発表する部門になります。「今年日本で最も多くのユーザーに新しく聴かれたアーティスト」という解釈となりますが、トップを獲得したのはHANAです。
柴:オーディション番組で注目を集めて、デビューからすぐに人気が出るというのは、ボーイズグループ、ガールズグループ、いろんな例があるのですが、HANAの場合は、プロデューサー・ちゃんみなさんが打ち出した価値観、コンセプトが受け入れられたというのが一つ。それから「Blue Jeans」や「ROSE」といった楽曲が受け入れられたというのが大きい。「グループが人気になりました」だけではなく、音楽として人気と支持を広げた。それからメッセージ性、グループのあり方が支持を集めたと言えると思います。
芦澤:そして2位は、CUTIE STREET。FRUITS ZIPPER、CANDY TUNEも含め今年は“KAWAII LAB.旋風”が吹き荒れていましたね。
柴:今年『SUMMER SONIC』でFRUITS ZIPPERのライブを観たのですが、同性のお客さんが非常に多い。かつ、未就学児から小学生ぐらいの女の子もすごく多かった。これまでのアイドルグループとはちょっと違う支持の広げ方をしていますよね。HANAと共通するところとしては、CUTIE STREETはじめ、KAWAII LAB.はこれまでの「カワイイ」を更新した新たな価値観を提示していたり、「自己肯定感」が一つのキーワードになっている。歌っているメンバー自身の自己肯定感が高まる楽曲でもあるし、ひいてはTikTokでそれを歌ってみたり踊ってみたりしているファン、リスナーの自己肯定感も上がるような、そういう楽曲が印象的でした。
芦澤:また、5位にはアイナ・ジ・エンドがランクインしていますが、7月にリリースされた「革命道中 - On The Way」は、国内外で多くのリスナーを集め、彼女のリスナーベースを広げた楽曲となりました。
柴:これもアニメ『ダンダダン』の主題歌(第2期オープニングテーマ)ですが、先ほどお話ししたアニメの世界観とマッチしたタイアップであるというのが一つと、この曲がきっかけになって、アイナさん自身の代名詞のような楽曲ができましたよね。アイナ・ジ・エンドというソロシンガーソングライターにとっても飛躍のきっかけになったと思います。
芦澤:来年以降、グローバルでのランクインも期待させる楽曲ですね。
“楽曲を聴いて/シェアして応援する”ストリーミングの楽しみ方
芦澤:続きまして、「国内で最も再生されたダンス&ボーカルグループ」です。このランキングもこうして発表するのは初めてですが、1位を獲得したのはNumber_iでした。「推し活ブーム」の広がりで、ストリーミングで楽曲を聴いて応援する、コミュニティの中でSNSなどを使って拡散して応援するカルチャーがより定着・認知を得た一年だったように思いますが、いかがでしょうか。
柴:1位Number_i、2位BE:FIRST、3位TWICEという上位3組だけみても、国境の壁も言語の壁も越えている。男性グループ、女性グループも混在していて、バラエティ豊かなランキングになっている印象です。
芦澤:そんななか、Snow Manが今年ストリーミング解禁をしたことでも話題になりましたが、このランキングには入っていないですね。
柴:Snow Manはベストアルバムの解禁ということで、全カタログがストリーミングで聴けるわけではないことも影響しているかもしれません。グループによってストリーミングへの力の入れ方や楽曲の出し方は、まだまだグラデーションがあるように感じます。
芦澤:また、「国内で最もシェアされたアーティスト」部門で1位を獲得したのは、Vaundyです。このランキングを発表して以来、Vaundyがランクインするのは初めてになります。
柴:これまで数年間、基本的にはダンス&ボーカルグループ、それも男性のJ-POPのダンス&ボーカルグループが上位を席巻していた印象があるのですが、今年はちょっと様相が変わってきている。1位がVaundyで、2位がMrs. GREEN APPLE。そこにSixTONES、KinKi Kidsなどが入ってきているという。
芦澤:藤井 風、米津玄師なども含め、多様なアーティストがランクインしています。Vaundyは今年アリーナツアー、ホールツアーをやりながら、配信限定シングルなども含めたリリースがコンスタントにありました。史上最年少での4大ドームツアー発表も話題になったことが寄与したのかなと思います。