アンジェラ・アキ、自己内省で取り戻した本当の自分 楽曲制作・ライブ・恋愛……赤裸々に語るこれまでとこれから
次作はリアリティーがテーマ「人を励ますような曲はゼロ」
ーーニューシングル「Floating Planets」の話をしましょう。これを作ったのはいつですか?
アンジェラ: ちょうど1年前ぐらい。離婚して私は40代でシングルマザーになったわけですけど、ひょんなことから知り合った人と恋愛を始めることになりまして。私とその人は惹かれあって一緒に時間を過ごすことになるわけですけど、一緒にいる幸せを感じている自分と、この恋愛は長く続くものではないなとわかっていながら続いてほしいと思っている自分がいて、幸せと終わりが背中合わせにある感覚を持っていたんです。結婚しているときには、そういう感覚って持てないでしょ? だから、これって新鮮な感覚だなと思ったりもして。だって、前にそういう体験をしたのは20代の頃で、20代だと幸せと終わりが背中合わせでもそこまで怖くないわけですよ。失う怖さよりも、その瞬間の恋のときめきのほうが勝っているから。だけど40代ともなると、私ってバカなのかな、今なら戻れるかな、でも手遅れなのかなとか、いろいろ揺らぐわけで。そういう40代のリアルな恋愛を、その揺らぎを含めて描写してみたいと思ったんです。ハッピーなラブソングでもなく、悲しい別れの歌でもなく。白でもなく黒でもない、その間にあるグレーのグラデーションの感情を描写したいと。
――僕はてっきりフィクションだと思って聴いたんですが、リアルな体験だったんですね?!
アンジェラ:リアルもリアル。1行目で〈鮮やかなタトゥー〉と出てきますけど、実際にタトゥーの入った人だったので、そう書いたし。今作っているアルバムのキーワードはリアリティなんですけど、この曲は特に自分のなかの揺らぎというものを音楽で、そしてMVでリアルに表現してみたもので。これを「Pledge」の次のシングルに選んだのは、私自身がこの曲をすごく好きだからなんです。
――こういうセンシュアルな曲って過去にはなかったですよね。初めてじゃないですか?
アンジェラ:書いたことなかったし、どっちかというとセクシュアリティみたいなものを封印していたところがあった。アンジェラ・アキと言えば、黒縁眼鏡で、ジーンズで、っていう。デビューの時点からそのイメージで、それが定着したから抜けられなくなって、オフのときに会った人からは「ステージやテレビで見ている印象と全然違うんですね」なんて言われてましたから(笑)。でも11年も空くと、イメージがどうとかどうでもいいし、変に作りこむのも嫌だし、眼鏡をかけていようが外していようが私は私ですからね。40代なんだから、こういう曲が出てくるのも自然なことだと思ってもらえれば。
――自然だし、〈大丈夫、まだ依存はしてない…はず 本当のところ 手遅れかもしれない〉というフレーズなんか、言ってみれば恋愛あるあるですからね。人間だもの、っていう。そういう意味で共感性は高いと思いますよ。因みに「Floating Planets」というタイトルはどこから?
アンジェラ:私はけっこう天体とかに興味があって、夜な夜なYouTubeで惑星に関する動画を見たりしているんですけど、数十年前に自由浮遊惑星と呼ばれる惑星が天体に発見されたそうなんですよ。惑星系から放逐されて、恒星の重力とか秩序に束縛されずに銀河を公転しながら漂っている惑星のことをそう呼ぶそうで。それを私と彼に例えてみたんです。何か定まったルールのなかじゃなく、たまたま出会ったふたりがふわふわ浮かんだりぶつかったりしているだけで、別に私はその人に救われたいと思っているわけじゃないし、約束してほしいとかそんなんでもないし。ただこの時間を楽しみたいだけ。っていう反面、でもぶつかるってことは何かこの関係に意味を求めようとしている自分がいるのかな、とか、そんなことも思ったりしながら揺らいでいる。そんなふうに浮遊しているふたりを自由浮遊惑星=Floating Planetsに例えて、このタイトルをつけたんです。
――なるほど。こんなこと聞くのもなんですけど、その恋愛は継続中なんですか?
アンジェラ:終わらせました。あははは。
――歌に昇華されたってことですね。
アンジェラ:そうです。歌になりました。だから感謝しています。
――揺らぎを表現したということですが、楽曲としては実に堂々としていて、スケール感があります。Aメロ、Bメロ、サビといった曲構成もしっかりしていて、これぞアンジェラのバラードという印象で。
アンジェラ:やっぱりこういう曲の展開の仕方が好きなんですよね。私のなかにあるポップスとはこういうものというか。ポップスにもいろいろあるけど、私はもともとアメリカのシンガーソングライターの音楽をたくさん聴いてきて、90年代にはR&Bも大好きだったし、ヒップホップも通ったし。何より90年代から2000年代にかけて登場した女性シンガー・ソングライターたち……フィオナ・アップルとかシェリル・クロウとかアラニス・モリセットとか、そういう女性の革命的時代を20代の頃に通っているから、その影響が自分の根底にしっかりあるんですよ。だからこういう曲展開になるんじゃないかな。
――こういうしっかりした曲構成でスケール感もあるバラードを歌うシンガーソングライターが最近あまり見当たらないので、尚更グッとくるし、「おかえりなさい」って言いたくなります。
アンジェラ:わあ、ありがとうございます。古臭いってことじゃないですよね?
――違う違う(笑)。曲にスケール感があって、ドラマチックだという意味です。
アンジェラ:嬉しいです。歌詞においてもメロディにおいてもストーリー性みたいなものは意識しているので。言葉だけだと強烈かもしれないけど、私のなかのポップスとしてのメロディに言葉が乗ることで緩和されるというか、いい具合に調和されるんですよ。
――サウンドの力も大きい。スペーシーなムードの音が入ったりもして、モダンに聴こえる。以前のアンジェラのサウンドとはけっこう違ってますよね。
アンジェラ:全然違うと思う。この曲はDim Starというアメリカのプロデューサー・デュオとやっていて、半分生ドラム、半分打ち込みみたいな面白い音楽をやっている人たちなので、よくあるポップスの音作りとは視点が違うんです。そこがすごく好きで。キックの一音にもすごく拘って時間をかけて録る人たちなので、低音のバイブレーションが日本の音楽とは全然違うんですよ。それと彼らは、空間作りに拘っていた。音で埋めずに、空間を作る。そこがいいし、だからこういうバラードでも古臭く聞こえないんだと思います。
――なるほど。あと、ソウルフルな女性コーラスも効いている。
アンジェラ:彼女もDim Star人脈なんですけど、制作中のアルバムのなかでも数曲歌ってくれているんです。すごくいいでしょ?
――ええ。このコーラスが入ることでソウルミュージックとしての深みがグッと増している。
アンジェラ:それはあるかもしれない。Dim Starはこういうソウルフルな味付けが得意なんですよね。
――さて、話のなかで何度か出ましたけど、もうすぐ完成するニューアルバムについて、もう少し聞かせてください。「Floating Planets」はリアルな歌詞で、けっこう攻めている曲だと思いましたが、アルバムはどうですか?
アンジェラ:攻めてない曲はひとつもないです。さっき言ったように、リアリティーがテーマですから。バラエティーに富んだ内容だとマネージャーは言っているけど、悪い言い方するなら支離滅裂(笑)。
――ポジティブな曲もあればネガティブな曲もある、みたいな?
アンジェラ:何をもってポジティブと言うかは人によって違うと思うけど、とりあえず人を励ますような曲はゼロですね。昔は「応援ソングを作ってください」とか言われて、そういう曲も作りましたけど、そういうのはひとつもない。届く人に届けばいいと思って作っているアルバムだから。
――かなり濃い内容になりそうですね。
アンジェラ:濃い曲が好きな人じゃないと受け止めきれないかもしれないですね。でも、それが今のアンジェラ・アキのアルバムなんです。
■リリース情報
アンジェラ・アキ
ニューシングル「Floating Planets」
11月26日(水)リリース
ST/DL:https://LGP.lnk.to/FloatingPlanets
アンジェラ・アキ
ニューアルバム『Shadow Work』(デジタル/CD)
2026年2月11日(水/祝)リリース
MHCL3150 価格3850円(税込み)
収録曲:
配信シングル「Pledge」(2025年5月21日リリース)「Floating Planets」(2025年11月26日リリース)含む全13曲収録予定
アンジェラ・アキOfficial Instagram:https://www.instagram.com/angelaaki_official/
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