冨岡 愛はハイブリッドな感性で“リアル”を叫ぶ 進化の先で辿り着いた1stアルバム『愛'sCREAM』レビュー

 洋楽と邦楽を行き来するサウンド、懐かしさと新しさを共存させた楽曲、そして、自らの感情を自然に反映させた、幅広い層のリスナーの共感を呼び起こす歌声。冨岡 愛は、ハイブリッドな感覚を備えた新世代のシンガーソングライターだ。

海外で過ごした幼少期、シンガーソングライターとしての転機

 2002年東京生まれの冨岡は、4歳から中学卒業までオーストラリアで過ごした帰国子女。ポップミュージックに興味を持ったきっかけは、小学生のときに聴いたテイラー・スウィフトだ。カントリーミュージックをルーツにしたコード感と現代的なトラックメイクを併せ持ったテイラーの楽曲は、冨岡の音楽的な原点と言っていい。高校入学のタイミングで帰国し、楽曲制作をスタート。同時に路上ライブやTikTokを介してライブ活動も行うようになった。

 転機となったのは、2023年9月に配信された楽曲「グッバイバイ」。前作「ぷれぜんと。」以来、約1年ぶりのリリースとなったこの曲は、素朴なアコギの音色、〈EyeとEyeが合ったの/気のせいじゃないよね〉というフレーズで始まる失恋ソング。思いを伝えられず、何も起こらないまま終わった〈曖昧な片思い〉を描いた歌詞は同世代のリスナーを中心に大きな支持を獲得し、リリース直後からアジア6カ国のSpotifyバイラルチャート入りを果たし、国境を越えて共感を集めた。英語と日本語を交えたリリック、生楽器の響きと洋楽的なトラックメイクを融合したアレンジを含め、彼女の音楽的な特性が活かされた楽曲と言えるだろう。

冨岡 愛 - グッバイバイ (Music Video)

 さらに「恋する惑星「アナタ」」(Netflix シリーズ『恋愛バトルロワイヤル』挿入歌)もSNS総再生数8億回を突破し、大きな話題に。付き合っている「アナタ」を惑星に例えたユニークな歌詞、90年代ギターロックを想起させるサウンドが1つになったこの曲は冨岡の新機軸。どこか淡々とした雰囲気のボーカリゼーションからは、彼女の表現の幅広さが感じられる。

冨岡 愛 - 恋する惑星「アナタ」 (Music Video)

 昨年9月に、自身初となる韓国・ソウルでの単独公演『BLUE SPOT』を開催。今年の春には初の東名阪ツアー『Let’s meet on the Dance Floor』を成功させるなど、ライブにおいても着実に成長を続けている冨岡。11月12日リリースの1stフルアルバム『愛'sCREAM』は、彼女のこれまでの軌跡と、進化を続ける音楽性が込められた作品だ。「これまでの22年間の人生の中で自分が感じてきたことや、 そこから生まれた価値観をリアルに落とし込みました」(※1)という本作。1stシングル「あなたは懐メロ」、ヒットチューン「グッバイバイ」「恋する惑星「アナタ」」を含む12曲から、新録曲を紹介したい。

『愛'sCREAM』を紐解く 表題曲に込めた自身の想いとは

 3曲目の「愛 need your love」は、“あなた”の愛を求めていながら、自分の愛情を伝えることができない“わたし”の感情を描いた楽曲。海外のインディーポップとも重なるトラックメイク、洋楽的なメロディ、抑制を効かせたボーカルのバランスには、彼女のプロデュースセンスがしっかりと反映されている。〈君に聴かせたあの曲/書き下ろしてみた感情〉という歌詞も、曲を書くことに対する根元的なモチベーションが感じられて興味深い。

冨岡 愛 - 愛 need your love (Music Video)

 6曲目の「デジャヴ」からも洋楽のインディーロック、ドリームポップの影響が感じられる。幼少期を海外で過ごした彼女にとって、現行のUSポップとリンクすることは自然なことなのだろう。“あなた”は今、“あの子”と一緒に、“わたし”との思い出の場所を回っている……という切なさと諦めが入り混じるような歌も印象的だ。

 鋭利なグルーヴをたたえるギターのアンサンブルを軸にした7曲目の「劣り」は、このアルバムのなかでも特に冨岡自身のリアルな感情が映し出された楽曲だ。曲のテーマはおそらく、まるでタイムラインがあらかじめ決まっているかのような社会の在り方。次々とやってくるタスクによって踊らされるのではなく、〈劣っても 劣っても でも踊りたいよ/私だけのダンスを〉と願う。劣等感を逆転させ、セルフラブへと結びつける冨岡愛流のポジティブソングだ。

冨岡 愛 - 劣り (Music Video)

 10曲目の「831」は、〈あなたの教えてくれた/好きなバンドのあの曲も〉というフレーズなど、1stシングル「あなたは懐メロ」とのつながりが感じられる楽曲。別れてしまった恋人がくれた言葉、教えてくれた映画や音楽が今になって“そういうことだったのか”と腑に落ちる。一緒にいなくても愛おしい、時間の経過とともに深まっていく関係を描いた珠玉のラブソングだ。

 彼女自身から溢れる“叫び”(Scream)と名前の“愛”を重ねてタイトルにしたアルバム『愛’sCREAM』。本作に込めたリアルな思いをもっとも端的に示しているのが、11曲目の表題曲「愛’sCREAM」だ。愛した“あなた”がいなくなって、いつもどこか不安を抱えながら過ごしている“わたし”。愛されたい、夢を叶えたいという叫びのような欲望を表明しつつ、〈いつか思える日まで生きていこう〉と決意するーー生々しさと豪華さを併せ持ったサウンドのなかで、自分自身のエモーションを思い切り響かせる、渾身のバラードナンバーだ。

 ソングライティング、サウンドメイク、ボーカルを含め、自分自身のポテンシャルをさらに引き上げてみせた『愛’sCREAM』。初のアジアツアー『TOMIOKA AI ASIA TOUR 2025』をまもなく終え、冨岡愛のアーティストとしてのスケールは確実にアップするはず。海外での活動の拡大も含め、今後の彼女の飛躍を大いに期待したい。

※1:https://realsound.jp/2025/09/post-2164769.html

■リリース情報
1stアルバム『愛ʼsCREAM』
11月12日(水)リリース
購入:https://www.jvcmusic.co.jp/-/Linkall/VICL-66102.html

・通常盤[CD]¥3,300(税込)
・VICTOR ONLINE STORE限定セット[CD+トートバッグ+特製フォトブック]¥8,800(税込)
トートバッグ、撮り下ろし写真と「言葉」を綴った全44Pの特製フォトブックがついたオンライン限定グッズ付セット。
・VICTOR ONLINE STORE完全生産限定アナログ盤[クリアピンクカラーヴァイナル仕様]¥5,000(税込)
本人直筆サインが入った、クリアピンク仕様。

〈収録曲〉
01.あなたは懐メロ
02.恋する惑星「アナタ」(Netflixシリーズ『恋愛バトルロワイヤル』挿入歌)
03.愛need your love
04.delulu
05.アイワナ
06.デジャヴ
07.劣り
08.beat up(フジテレビ系TVアニメ『デジモンビートブレイク』エンディングテーマ)
09.MAYBE
10.831
11.愛'sCREAM
12.グッバイバイ

冨岡 愛 オフィシャル HP

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