シンガーズハイ『HeartBreak』ツアー最終公演で目撃した爆発的な熱量 日本武道館へと向かうバンドの勢い

 例えば一度諦めてしまったことをうじうじ悩みながらどうしても諦められなかったり、大切な誰かが去ってしまうことに何も手立てを打てなかった後悔だったり、生きていく上で直面するスカッとしないもろもろをこんなに曝け出してる人がいる。シンガーズハイのフロントマン、内山ショート(Vo/Gt)の表現がハイティーンや20代前半世代に刺さるのは、彼らが物心ついたときから存在するネット社会やSNSの言説もあって本音を吐露しにくい世代感の裏返しなんだと思う。必ずしもメンバーは内山と同じメンタリティを有していないように見える。が、曲という接着剤とミュージシャンとしての矜持が、昔も今も変わらないバンドという共同体の面白さであり、現在のシンガーズハイの勢いは普遍的なバンドとファンの関係性の表れだと感じるのだ。

 そのシンガーズハイがミニアルバム『HeartBreak』を携え、かつ3人体制になって初のツアー『HeartBreak tour 2025』を完走した。9月2日の神奈川 CLUB CITTA’を皮切りに前半は各地のライブハウス、後半は全国のZeppを巡り、ファイナルの11月7日、Zepp Haneda公演を目撃した。開演のアナウンスにこれほどラウドな歓声が上がるライブはいつぶりだろう。満員のフロアに充満する熱量は異様だ。登場SEもなく暗いステージに一人ずつ現れて最敬礼するメンバーには期待と覚悟が見て取れる。口火を切ったのは新作からの「サンバースト」。ほりたいが(Gt)が弾くイントロのフレーズに上がる嬌声の大きさ、内山の「歌え!」の煽りに轟くシンガロングはもうライブのクライマックス並みだ。世界に喧嘩を吹っ掛けるような内山と互角に反応するファンの熱狂は続く「Kid」でさらに輪をかけて広がる。曲のフックにシンクロするように照明が暗転と強い光で反復することで生まれる効果も絶大。オーセンティックなロックバンドのライブでありつつ、観たことのない驚きもある。この面白さそのものがまさにシンガーズハイのライブだ。

内山ショート
ほりたいが
りゅーいち

 一転、「かすみ」の後のフロアの静けさは対照的で、ライブの行方を全員が息を詰めて見守るような空気が会場を覆う。続くブロックは内山の高低差のある歌メロが耳から離れない、忘れがたい存在を歌う「燁」、内山が自分が壊したギターを友人の提案で燃やしたエピソードが元にある「Youth」と、新作からの2曲を披露。自分の心が壊れる音を聞いた、その先を今生きる人間が見えるような2曲だった。

 その感慨もつかの間、一気に人気の高いこれまでのキラーチューンを連投するセクションは、鋭いサウンドやストップ&ゴーがエクストリームな「エリザベス」から突入。さらにガレージロックっぽい肌触りの「パンザマスト」と、ほりのギターヒーロー、りゅーいちのドラムヒーローっぷりも堪能させてくれる。サポートベースの辻 怜次(from.Bentham)がメンバー同様、フロントを張っているのも見応えがある。レーザーがフロアを突き刺すような視覚効果を見せ、ファストなビートも相まってフロアの盛り上がりも一層高まる。

 そして、ホラーっぽいSEが真っ赤なライティングとともに効果を上げる「ニタリ」。ヘヴィでクランチなリフ、バイテンでBPMを上げる後半の畳み掛けも相まって、シンガーズハイ流のライブアンセムを加熱させていく。それにしても冗長なエンディングは一切なく、次の曲へシームレスに繋ぐほりのリフやコードの的確さに目を見張ることしばしばだった。この潔さとコンパクトさはDJ的なミックスセンスすら窺わせ、現代のロックバンドであることの証左かもしれない。ファストチューンの畳み掛けのあとはブギー調のロックンロール「サーセン」。トーキングボーカルに近い内山の表現とブルージーなほりのギターに、“フォークmeets GUNS N' ROSES”なんて突飛なキャッチフレーズが浮かぶぐらいだった。

 だが、若いオーディエンスにそんな先入観は皆無だろう。「らーらったらーら」のシンガロングは言いたいことを代弁してくれる内山、そしてシンガーズハイへの共感と憧憬とリンクしてどんどん大きくなるようだった。そしてこのブロックは内山の打ち込みで作られた原曲「Liquid」を、そのニュアンスを残しつつ、メロウなほりのフレーズが効果的に色を加えてライブでも際立つ1曲として成立していた。ファストなマイナーチューンでの強気の本音のあとにこの曲での逃避的な本音が顔を出すことで、さらに内山の想いが際立つ気がした。

 MCではツアー各地でのエピソードも話しつつ、その土地、土地で音楽で繋がった人たちの現在に会いたいのだと内山は言う。生活や仕事に変化があっても、それを含めてその人の人生を確認したいという意味なのだろう。この発言からのミディアムチューン「紫」の説得力はスポットライトにひとり浮き上がる内山という後半の演出も相まって、とても沁みた。さらに端正な8ビートの「純」で足元を確かめるような体感をもたらしたあとは、続いていく毎日を歌う続編めいた「延長戦」へ。新作からの新曲とは思えないほどのBメロのシンガロングの大きさに、この曲の浸透を実感した。と、いい流れで今回のセットリストが醸す物語性を乗りこなしてきたが、内山が「STRAIGHT FLUSH」の入りのタイミングを逃して、リトライ。一旦演奏が走り出すと、内山の速いストローク、ほりのタッピングにギターバンドのスリルが炸裂した。

 フロアを照らすライトも点いた中、内山が「なんやかんや下手くそだからモテないんだろうな。こんなワーキャー変な声出したり、ギター弾くことしか、ドラム叩くことしかできない人間で。歳とってどうにもならなくなってもこれだけは続けたい」と、改めてなぜ自分たちはバンドを止めないか? を表明し、「僕ら生きる、愛の屍!」とタイトルコールを超える渾身の自己紹介とともにショートチューン「愛の屍」を解き放った。

 そして、今回のセットリストでファンですら意外だったという「朝を待つ」を演奏した理由が、内山のMCの中にあった。曰く新作リリースに伴う特典会でもこの曲の名前を聞くことが多かったこと、音楽を始めた頃は伝えたいというより、歌わずにいられなかったのだということを伝えてくれた。「少し長いですけど、聴いてください」と、歌い始めたこの曲は、さまざまな音楽要素を持つシンガーズハイのなんの武装も飾りもない、夜を越えるための歌だと思う。ここでさらにバンドへの求心力が高まったことは間違いない。歌いきった内山が続く「エイトビート」の突き抜けるようなハイトーンの歌い出しをキメたことにこちらも感情が乗る。ラストの「薄っぺらい愛を込めて」が、大きな歩幅で歩き出すようなテンポだったこともすでに次に向かうような前向きさで、本編を通じてシンガーズハイというバンドの物語を示唆する、素晴らしい締めくくりだった。

 アンコールでは彼らの名前を知らしめた「ノールス」の演奏前に内山が初の日本武道館公演を発表。日程、そして場所と順番に発言した際の「日本武道館」に対する爆発的な反応には鳥肌が立った。若い世代に圧倒的な人気を誇るシンガーズハイだが、人生を歌う歌詞、歌謡としての強度を誇るメロディが世代を越えて浸透するのは時間の問題じゃないだろうか。

■ライブ情報
『We are SINGER'S HIGH from Tokyo.』
日程:2026年11月24日(火)
会場:日本武道館
チケット情報:https://eplus.jp/singershigh/

『DOG RUN MARCH tour 2026』
3月1日(日) 秋田 Club SWINDLE
3月7日(土) 福井 CHOP
3月8日(日) 富山 SOUL POWER
3月13日(金) 埼玉 HEAVEN'S ROCK 熊谷 VJ-1
3月23日(月) 愛媛 Wstudio RED
3月25日(水) 島根 松江AZTiC canova 
3月26日(木) 山口 周南RISING HALL
3月28日(土) 長崎 DRUM Be-7
3月29日(日) 鹿児島SR HALL
4月3日(金) 三重 四日市CLUB ROOTS
4月4日(土) 滋賀 U☆STONE
4月5日(日) 奈良 NEVER LAND
詳細:https://singershigh.tokyo/live_information/schedule/list/

■関連リンク
シンガーズハイ Official SITE:https://singershigh.tokyo
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