Worldwide Skippaが注目を集める理由 最新作『Skipping Tape Vol.3』の現代性と時代を見つめる視線

 Worldwide Skippaのラップの中毒性とはなんなのか。綿密に散りばめられた言葉遊びと気怠げでクールなフロウ? もしくは時代を見つめたコンシャスなリリック? あるいは確かな審美眼で選択された同時代性のあるビートとラップの相乗効果?

 結論から言えば、その全てを混ぜ合わせたのが彼のラップミュージックであり、独自の絶妙な調理こそが、ほかにない中毒性の正体だ。それはまるで、甘くて美味いシャトレーゼのケーキ……というよりは、噛んでも噛んでも味のなくならないチューイングガムのような。

 昨今チャートを駆け上がり、その名を多くのトピックとともに広める、名古屋出身の23歳のラッパーは、常に上を向いていて、率直で身軽で、何よりも本人が自称するくらいの自由さに溢れている。今年10月に3作目のアルバム『Skipping Tape Vol.3』を発表した『Skipping Tape』シリーズ(前2作も今年中のリリースだ)は、Worldwide Skippaの青写真のようであり、魅力の結晶だ。それは、ラップミュージックに人々が求めるような欲望を、満遍のない形で満たしているからだろう。

Worldwide Skippa - シャトレーゼやめた (Official Music Video)

現代的なヒップホップ感覚と同時代性の意識

 まず、Worldwide Skippaの味はほかとは違う。それを本人も意識している。現在の日本語ラップシーンへの愛情と懐疑的な部分(ここがスパイスだ)が混ざった彼のリリックはスリリングであり、自らのスタイルを明確にしながら、自身のラップ自体でそれを証明する説得力にも溢れている。

〈みんな同じ歌詞でつまらん立てる波風/ラッパーが擦り倒した言葉味はありません〉
(「徳利とブラピ」/『Skipping Tape Vol.1』)

〈俺沢山使う固有名詞〉〈抽象的なrapおもんないやん〉
(「メタナイト」/『Skipping Tape Vol.2』)

 インターネットネイティブな感覚をもって、多くの固有名詞を巧みに散りばめ構成されるリリックに凝縮された文脈の数々は、一度聴いただけでは決して拾いきれない。その敷き詰められた様は、特に文脈性の高いヒップホップというカルチャーそのものを、ある種現代的に体現しているとも言えるかもしれない。

 さらに、Worldwide Skippaの味は新鮮だ。それは『Skipping Tape』シリーズ3作全てを2025年のあいだにリリースしたスピード感にも表れている。彼が乗る多彩なビートの数々は、クラウドラップやクランク、フォンク感のあるサウンドを混ぜており、それは、ミックス/マスタリングで本作へ参加しているSIX FXXT UNDXRをはじめ、自分たちのスタイルと解釈でこれらのジャンルへと接近している若きラッパー、ビートメイカーたちの感覚と同時代性を共有していると言えるだろう。当然、Worldwide Skippaのフロウも、統一したテンションを保ちながら、マンブルやメロディを加えるなどして、柔軟にサウンドを乗りこなしている。それは、確かな感覚や耳の良さを感じさせるところでもある。

Worldwide Skippa - Tee Shyne Flow (Official Music Video)

コンシャスラッパーとしての側面

 同時に、彼のコンシャスな側面も避けては通れない。社会的、政治的トピックについての言及と同時に、自らの半径の生活における実感も曝け出すことによって、結果的に現代の日本の空気感を刻んだような音楽作品になっているのは確実である。ただ同時に、本人がインタビュー(※1)で言っているように、それが彼の音楽の全てではなく、さまざまな要素のひとつとして、楽曲のなかに絶妙なバランスで混ぜ込まれているものであることも重要だ。彼の音楽の“リアル”を確実に補強しているが、それはあくまで一側面であるということこそが、彼の本当の凄みと言えるだろう。

 とはいえ、最新作に収録されている「Take Back Orange」は、最もメッセージが全体を覆っているポリティカルラップで、今年最も鮮烈な曲のひとつだ。

〈発達障がいは存在する/移民は税金を払っている/社会的弱者を笑ってるお前も/いつの間にかこっち側にいる〉
(「Take Back Orange」)

 当然のように、同じシーンにいるアーティストのネームドロップも多く、日本語ラップを追っているヘッズほどニヤついてしまうようなラインも散見されるし、シャトレーゼでバイトをしながら音楽活動をする彼のストーリーも、この一連のシリーズを追うことでリスナーに共有される。このようにWorldwide Skippaの歌詞は、自らの思考や動きを細かく、そして率直に曝け出しているからこそ、ほかにはないリアルタイム感に溢れている。フレッシュなビートにフレッシュなリリック。彼が提供するのはどこまで噛んでも新鮮な味なのだ。

 それに、Worldwide Skippaの音楽は味変だってする。ハードでダークな空気感から、メロウで刹那的な抒情まで。さらに『Skipping Tape Vol.2』収録の「俺が出るライブで痴漢したら殺す」や先述の「Take Back Orange」といった一見激しく攻めた楽曲の曲調が、思いのほか軽やかでキャッチーだったりする、そういう意外性にも溢れている。

 彼はアルバムを通して、多くの要素から立体的なものを浮かび上がらせている。Worldwide Skippaという人間が生み出す音楽に宿る社会性や人間性、そのスキルフルで遊び心を忘れないラップ、そしてサウンドとしての快楽性、全てがこの味を生み出している。

 そういうわけで、最新作の『Skipping Tape Vol.3』はもちろんのこと、この短期間でリリースされたシリーズ作をできれば連続的に味わってほしい。そして、思う存分に味わい尽くしてみてほしい。味がなくなることはないと保証する。

※1:https://natalie.mu/music/column/631423

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