ソニン「記憶を消していかないと生きられなかった」 激動の25年――今生きる場所と新しい挑戦を語り尽くす

私、つらいことは記憶に残っていないんですよ

――今振り返ると、ポジティブな思い出とネガティブな思い出、総量で言うとどちらが多いと感じていますか?

ソニン:同じくらいな気がします。30代以降は、常時ポジティブでいられるようになりました。20代の頃は、キャパがないから気持ちが沈んでしまうことも多くて。ネガティブな顔をしていたら「そんな顔するな!」と怒られることもあったんですけど、29歳でニューヨークに留学してから、すごく前向きになりました。つらいことや苦しいことを“楽しい”に変換する力がついたし、「笑顔が増えたね」と言われるようになりました。大変なことはたくさんありましたけど、30代からは真のポジティブになったと思います。

――ニューヨークには演劇の勉強をするために留学していたそうですが、その経験はソニンさんのマインドまで変化させたんですね。

ソニン:そうですね。ニューヨークにいる人たちって、とにかく笑っている方が多い印象なんですよ。「そんなに面白かった?」という状況でも、「ハッハッハー!」って大笑いしてるんですよ(笑)。やっぱり、そのくらい笑って明るくしてないと生き抜けない街なんだな、と。

――へえ、そういう側面もあるのですね。

ソニン:私がそう感じただけなので、真相わかりませんけど(笑)。とはいえ、そのくらいの心持ちで行かないと、私はニューヨークに飲み込まれると思っていました。旅行するだけなら楽しい街だけど、住むとなると全然違う。今ほどじゃないけど当時も物価は高かったし、サービスひとつとっても親切ではないことも多く、そこにいちいちストレス感じてたら疲れ果てるし、強い自分でいることでぼったくりに合わないようにしたり、スリにも遭わないように常に気を張らないといけない。

――ずっと気を張っていないといけない。

ソニン:大きな目標を胸にやってきたぶん、「私は何につまずいているんだろう?」とニューヨークで毎日生き抜くのに精一杯で、何も結果を出せてない自分に最初は落ち込んでばかりでした。だけど、どんなにつらくても泣くのはその日だけ。夜ベッドで泣いたら、次の日には笑顔で「グッモーニング!」みたいな(笑)。もう、嘘でもいいから「とにかく明るく笑顔に」を意識して過ごしていたら、日本に帰ってきてからも明るいままでいられるようになりました。20代の頃は疑似ポジティブでしたけど、ニューヨーク留学を経てコアからポジティブになれましたね。今ではもうつらいことは全部忘れられます。

――忘れてしまうんですね。

ソニン:うん。私、つらいことは記憶に残っていないんですよ。都度記憶を消していかないと生きられなかったんだと思います、たぶん。

――本能的にそうしていた?

ソニン:そうそう。取材を受けた時に思い返すことで記憶が蘇ることはあるんですけど、自分で振り返るだけだと「そんなことありましたっけ?」となります。それくらい、残していてもしょうがないというか、私にとっては役に立たないことなんですよね。

――それも、留学を経て変わったことなのでしょうか?

ソニン:そうかもしれないですけど、どうなのかな。「生きるためには」と、気づいたらこうなっていました。つらい思い出がないって、悲しいことなのかもしれないと思うこともありましたけど、ポジティブに生きられるのなら、断然今の生き方がいいですね。

経験値は上がっていると思うけれど、いつまで経っても「力がついた」とは思わない

――この25年間、役者や歌手だけでなくクリエイターとしてもキャリアを重ねていますが、どんな実感がありましたか?

ソニン:「力がついてきた」なんていうことは、1ミリも思ったことないですね。まわりから「成長したね」と言われることがありますが、当の本人は「そう見えるんだ〜」と思うくらい。経験値は上がっていると思うけれど、いつまで経っても「力がついた」とは思わないですね。よく言えば、自分に満足せず高みを目指して磨き続けているということなのかもしれません。自分に厳しすぎる、とも言えるでしょうね。

――12月13日には、25周年のアニバーサリーライブを開催予定。ライブ構成/演出をソニンさんが担当するとのことですが、クリエイターとしての経験値が上がってきたからこの決断に至ったのでしょうか?

ソニン:機会があれば、いつかやりたいなとは思っていたんです。ワークショップで講師を務めたり、ミュージカル『ラフへスト〜残されたもの』(2024年)では出演だけでなく訳詞としてもクレジットが載ったので、ファンの方には裏方のイメージもついてきたと思うんです。そんなタイミングだから、「25周年ライブの構成と演出を自分でやります」と言ってもあまり違和感はないんじゃないかと思い、踏み切りました。

 表向きに演出をしたり脚本を書いたりするのは初めてなんですけど、自分のライブだったら自分の責任ですし。何より、初めて構成/演出を担当するライブを私のファンの方々の前で初披露できるというのがいいなと思ったんですよね。といっても、台本はまだ書いている途中なんですけどね。今はプロットに肉付けしているところです。

――まだ10月上旬ですが、早めに書き上げるのですね。

ソニン:10月中頃にはロンドンに行くので(ミュージカル『SIX』日本キャスト版のロンドン公演のため)、それまでに仕上げないといけないんですよ! 「ロンドンに行く前に、全部仕上げてくださいね?」というプレッシャーを受けながら、今まさに書いているところです(笑)。

――何人分もの裏方の作業をひとりでされている。

ソニン:舞台演出って、演技だけはなく照明や動線など全部をプロデュースするので、先日、会場に行って照明や設備などを確認してきました。一つひとつの作業を経験できて、すごく勉強になります。

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