“令和のラジオスター”アンジェリーナ1/3、ソロプロジェクト始動! aillyとして向き合う音楽と言葉の正義

無責任ではない歌を目指して――「明るく強い言葉を使いたくなかった」

――アンジーさんは中学1年生の時にお父さんが亡くなり、人と関わることが苦手になって中1から高校2年生まで不登校だった。学生時代に辛い経験をしているからこそ、今生きることに悩んでいる子に対して、どんな言葉をかければいいのかを丁寧に探っているし、優しく投げかけられているのかなと思います。

ailly:「頑張れよ」「大丈夫だよ」とか「そばにいるよ」って言葉が温かく感じる時もあれば、すごく無責任で冷たく感じる時もあって。なので、この曲では明るく強い言葉を使いたくなかった。「光」を「晴れ間」に置き換えてみたりして、10代だった自分がかけてもらいたかった繊細な言い回しや表現を模索していきました。

――前に、別の媒体でインタビューをした時に「神田伯山さんから言ってもらった『ラジオを大事にしてきた人が、自分の本業に返していけるんだよ』という言葉を大事にしてる」と話していましたよね。まさに、「Radiory」はその賜物に思えます。

ailly:本当にそうですね。今まではラジオと向き合うことで、音楽の活動を知っていただいてましたけど、今回は逆方向というか。今までは音楽がいちばん大事だし、音楽を続けて行くための選択肢としてラジオをやっていたけど、「Radiory」が完成した時は「ラジオを続けたい」「ラジオを大切にしたいから音楽にしよう」と思えた。自分のなかで「音楽とラジオはどっちも本業」と言えるくらいすごく大切な居場所になってるんだなって、曲が完成して思いました。伯山さんの言葉がふたつの意味でとらえられるようになったのは、今日までラジオにちゃんと向き合ってきた証だし、それを体現した曲だなって。

――これまでラジオを通して、様々なリスナーさんと接してこられたと思いますが、そのなかで印象深い方はいますか?

ailly:『SCHOOL OF LOCK!』のなかで「しんどー相談室」という授業をやっていて。ちょうど昨日の話なんですけど、電話を繋いだのが「自分の居場所がない」と言ってる子だったんです。それまでにも学校でいじめられていて、しんどい思いをしている子とお話しをしてきたんですけど、昨日話した子は特に強烈で。

――強烈というのは?

ailly:家に自分の居場所がなくて、親と仲が悪いわけではないんだけど、生きた心地がしないから家を出たと。それでシェアハウスみたいなところで暮らしながら、頑張って学校に通っていたけど、クラスでいじめられてしまって。行くのがツラいから、学校を辞める選択をしたそうなんです。今度はシェアハウスでも人間関係がうまくいかなくなって。今は、高卒資格を取るためにバイトをしてお金を貯めてるけど、そのバイト先でもうまくいかない。「何度死のうと思ったかわからないです。何でもいいので話を聞いてください。聞いてくれるだけでいいんです」という書き込みをしてくれて。電話を繋いだんですけど、私がその子にかけてあげられる言葉が何もなくて。「少しでいいから話を聞いてほしい」と頑張って書き込みをしてくれて、電話をしてくれて、自分の思いを話してくれたのに……自分の人生経験が浅すぎて「とにかく君が生きてくれてることだけが尊い」しか伝えられなかった。きっと、その子は今も暗闇のなかにいると思うんです。

――その子を思って胸を痛めた?

ailly:はい。昨日、家に帰ってからも何もできなかった自分が情けなかったです。でも、その子について考えるのは、今の自分にとって大切なことだなって思う。その子と声を交わせたことが、私には意味のある時間に感じたし、また話ができたらいいなって思ったんですよね。要はラジオとか音楽って、そういうことだなって思っていて。その子に対して私は解決策を見出してあげることとか「こうしたらいいよ」って、生半可が気持ちで言ってはいけない。心の声を一生懸命聞いて、言葉を交わすことが自分にできる最大限のお返し。その子が私と話せない時は、私の音楽を聴いてくれることで、少しでも気持ちが落ち着いたら嬉しいし、「自分が生きててよかった」と思える瞬間はほかにない。お互いに“生きる”ということを共有できた瞬間が最も尊いんです。

声を出せない子たちに声を届けられるアーティストでありたい

――テレビやYouTubeなどのメディアだと、視聴者は発信者の声を受け取る一方だけど、ラジオは「自分の話を聞いてください」と書き込みをしてリアルタイムで繋がることができる。しかも、その子が言った「話だけでも聞いてください」には、公共の電波を使ってみんなに訴えたいのではなく、教頭に話を聞いてほしいという意思を感じます。

ailly:そうですね。その子は声を出すことができたけど、その後ろにはもっと声を出せない子が大勢いて。「自分を見てくれる人がいるんじゃないか」という、細い糸で命が繋がってる。そういう子たちが本当にいるんだな、って思いました。

――極限のなかで生きている人が、ね。

ailly:はい。壮絶な体験をしながらも懸命に生きてる人がいる、って頭でわかっていても直接話を聞かせてもらう経験って滅多にないんですよね。aillyの活動で「その子たちを救いたい」というか、そんな大きなことはできないんですけど、声を出せない子たちに声を届けられるアーティストでありたい。そういう気持ちは強くあります。

――「Radiory」に〈スタジオの小さなプラネタ〉という歌詞がありますけど、この曲を聴くとラジオの電波を全国各地のリスナーが、それぞれの場所からキャッチして、その点と点が星座となって浮かんでいる画が浮かぶんですよね。その“ラジオ”という名の星座を見ていると、aillyさんが歌っているんだけど、この曲を聴いている人たちの声も聴こえるというか。

ailly:めちゃくちゃ嬉しいです、自分が伝えたかったことを完璧に汲み取っていただけて! スタジオに小窓があって、そこに反射した明かりが小さい星のように見えると思って書いたフレーズなんですよ。それぞれにいろんな生活があるし、私は太陽より星のほうが好きで。帰り道に星が見えると、すごく安心するんです。人それぞれの“暮らし”という小さな惑星があって「そこで必死に戦いながらみんな生きてるよね」ってことを伝えたくて書いて。

――1曲目「Radiory」はそういった壮大な景色を感じる一方で、2曲目「Radiory─acoustic─」はaillyさんの声の温度や表情を如実に感じます。

ailly:アンジーのボーカルはストロングスタイルだったんですけど、今回のレコーディングはPちゃんに「力を抜いて」とディレクションされまして。「6年間ずっとこれで歌ってるから、抜き方がわからない!」と言っても「それでもいいから力を抜いて、なんならほぼ歌歌わなくていい。アンジーは喋りで評価されてるんだから、喋ればいい」って。なので1曲目は喋りながら歌って、アコースティックは丁寧に声の緩急や温度感を表現しようと臨んだので、まさに言っていただいたとおりです。そこを見抜くのはすごい! この2曲は歌い方も違ければ、キーも少し違っていて。その時の気持ちに合わせて、聴いてもらえたらなって思います。

――スタッフさんの反響はどうですか?

ailly:「aillyになったね」って言われましたね。今まで歌詞を書くことが好きじゃなくて、ガチャピンで歌詞を書く時はヒイヒイ言いながら、いつも納期ギリギリに仕上げる感じだったんです。今回、歌詞を書くにあたってスタッフさんに「何言ってるかわかんない」みたいに言われ、ちょっとカチンときてバトった瞬間もありました(笑)。

――お互いにヒートアップをして(笑)。

ailly:これって初めてのことなんですよ。ガチャピンは6人の色もあるから「こういう表現じゃなくて、もっと別の感じで……」と言われたら「はい、書き直してきます!」とすぐに変更したりするんです。それが、aillyではちゃんとディスカッションもできたし、自分の曲げられない意見も初めて言えた。今までない自我が芽生えた分、歌詞を書くのも楽しくて。いろんなことを言ってくれるスタッフさんに対して、自分の意見もぶつけながら、ブラッシュアップしてできあがったのが「Radiory」。レコーディングが終わった時はチームのみんなが「本当にいい曲ができたね」「アンジーの綴る言葉がすごく好きだよ」と言ってくれて自信になりました。

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