“令和のラジオスター”アンジェリーナ1/3、ソロプロジェクト始動! aillyとして向き合う音楽と言葉の正義

 Gacharic Spinのアンジェリーナ1/3がソロプロジェクトを始動させた。その名も「ailly」である。言葉と声と人と向き合ってきたという自負、だからこそ生まれる音楽、それがこのプロジェクトの核である。“令和のラジオスター”としても名高い彼女は、なぜ今ソロプロジェクトを始めなければならなかったのか。第1弾リリースとなる楽曲「Radiory」について、一つひとつ丁寧に話してくれた。(編集部)

「バンドの名前を広めるため」から「今アンジーが何を言いたいのか」へ

――ソロプロジェクト・aillyを始動した経緯を教えてください。

ailly:2019年にGacharic Spinに加入してから、アンジェリーナ1/3として本気で音楽に向き合ってきました。そんななか、今の自分だったらバンドと違うアプローチができるんじゃないか、と思ったんです。これまではバンドで音楽を届けることだけが正義だと思っていたんですけど、ラジオのお仕事とかいろんな経験をしたなかで、ひとりだからこそできる音楽の表現があるんじゃないかなって。バンドと並行してソロの活動を始めることで、ガチャピンにも還元していける活動にできたらと思ってスタートしました。

――いつからソロ活動を考えていたんですか?

ailly:2025年からガチャピンの活動が緩やかになる期間に入りまして。メンバーそれぞれがいろんなアーティストさんのサポートをするとか、個人でワンマンライブをやってる姿を見て、「私にも新しい表現の仕方があるのかもしれない」と思いました。本腰を入れてソロをスタートしようとなったのは、バンドの活動が緩やかな期間に入ることを世間に発表すると決まったタイミング。そこからガッと動き始めました。

――ソロプロジェクト始動を決めた当初は、音楽性とか活動のスタンスについてどのように考えていましたか?

ailly:ガチャピンは6人バンドなので、ほかのバンドさんよりも個性が強いと思うんです。だからこそ6人のバランスを考えながら作っているし、作詞もガチャピンだから映える歌詞を大切にしていた。aillyのプロジェクトがスタートするにあたって、今アンジーが何を言いたいのか、何を表現できるのか、いい意味でバランスを考えずにガンガン発信していきたい。それをいちばんに考えて動き始めました。

――7月13日にアンジーさんのレギュラー番組『Angie radio!!~夢は口に出せば叶う!~』(TBSラジオ)でソロプロジェクトを発表されました。「言う前はすごくドキドキした」と話していましたね。

ailly:私はこれまで、ラジオやテレビなどの個人活動については「バンドの名前を広めるためにやってる」と公言してきたんです。だから、あの日何に緊張していたのかというと、「言ってきたことと違うじゃん」「ソロ活動をしたら意味がなくなっちゃうじゃん」と思われかねないな、と。実際マイナスなことも言われたんです。でも、それはaillyの活動をするなかでわかってもらえればいいなって。私は、受け取り手のために美しい作品を届けたい。手にしてもらったあとにどう思うかは自由なので、そこに対していちいちこちらが何かを言うのも野暮なんです。だけど、“ソロプロジェクト”という表面の言葉だけで判断されたくない。ここに至るまでの葛藤は私にしかわからないことだし、私のまわりで動いてくれてる人にしかわからないことだから、という気持ちもあって。緊張と同時に、そういう自分のなかのプライドも発表の瞬間にあったので、すごくドキドキしてました。

――1stシングル「Radiory」は、どのように楽曲制作をされたのでしょう?

ailly:曲作りにガッツリ携わってくれてるのが、銀杏BOYZのサポートギターなどをしてるPちゃんこと加藤綾太さん。スタッフさんの紹介で出会ったんですけど、ものすごい独特な空気を放ってる人というか。芯がしっかりしてるけど、そのまわりにふわふわとした優しいオーラとか温かさを感じる。何より、とてもまっすぐな人だから「加藤さんとなら楽しく曲作りができる!」と初対面で思ったんです。私が今までどんな思いで音楽をやってきたのかも、Pちゃんはとても丁寧に聞いてくれて、「今のアンジーが表現できることを一緒に作らせてもらえたら嬉しい」と言ってくれて。いざ楽曲制作をするにあたり、Pちゃんがポンと曲を送ってきてくれて。それが「Radiory」だったんです。夜中の1時にデモを聴いて「歌詞が書けるかも」と思い、2時ぐらいに書き始めて、3時、4時くらいにはワンコーラスができて。すぐに仮歌を録ってPちゃんに投げたら、速攻でワンコーラス分のミックス音源を作ってくれて、それをウチのスタッフに投げて……という、すごいスピード感で曲ができていきましたね。

――1曲目からスムーズにことが進んだんですね。

ailly:制作がこんなに楽しく感じたのは初めてで。「制作しなきゃ」よりは「気づいたらできてた!」みたいな感じでしたね。

「自分がかけてほしかった言葉を思い返しながら」――歌詞に込めた思い

――楽曲のテーマが“ラジオ”というのは、非常にaillyさんらしいですね。

ailly:嬉しいです! 去年の10月から、10代の子たちとお話をするラジオ番組『SCHOOL OF LOCK!』で教頭先生として出演させてもらっていまして。月曜日から金曜日まで毎日10代の子たちと本気で向き合って、バカな話もすれば、しんどい思いをダイレクトに打ち明けてくれる子もいて。大人に悩みを話すのって、自分が10代だった時は命がけだったなって思うんです。誰も理解してくれないだろうし「子どもだな」とか「大人になればわかるよ」だけで済まされちゃうことが多かったから、私には心の拠り所がなかった。だからこそ、今自分が10代の心の拠り所になりたい。そして「自分が何で喋るのか」「何で音楽をやるのか」を気づかせてくれたのが、生徒(『SCHOOL OF LOCK!』のリスナー名)の子たち。なので、自分の声を通して辛い思いを抱えてる生徒たちの晴れ間になりたい。Pちゃんから曲がきた時、そのことを歌いたいと思いました。

――「Radiory」をお聴きして、2番の〈こぼれた隙の光/嫌になる目覚ましの音色/上手くこなせない生活が/排水口につまったまま〉以降の光と影を感じる歌詞が、この曲の核に思いました。

ailly:今、自分がやらせてもらってるラジオの時間も、夜から朝にかけてがいちばんの戦いで。夜10時から12時までのあいだは私たちがギャーギャー声を出してるので、生徒たちも「ちょっと気が紛れた」とか「嫌なことがあったけど笑えるな」と思ってくれてるけど、いちばんしんどく感じるのは12時を越えてから。

――放送が終わって、部屋が静かになった時間ですね。

ailly:オンエアが終わったあと、生徒たちがどう過ごしてるのかを私はわからないし、そばにいてあげられないやるせなさもある。だからこそ、夜明けをともにできる曲を作れたらいいなって。1番が夜から深夜にかけて、2番が深夜から朝にかけての話になっていまして。普通だったら、朝から夜にかけての歌詞を書くのがベターだと思うので「時系列ってこのままでいいのかな?」とスタッフさんに聞かれたんですけど、私は「夜から朝にかけてが、あの子たちがいちばん戦ってる時間だから、この時系列で書きたい」と言いました。私自身も言葉を発してる時間とか、日が出てる時ってなんとか頑張って立ってるけど、放送が終わった後の眠りにつくまでの時間がいちばんしんどかったり、いろいろ思い返す瞬間があったりして。君とは違う僕だけど、同じようなことで笑ったり、同じようなことで泣いたりするから……「ひとりじゃないんだよ」って。「どこかで同じようにリンクしてる人はいるからね」ってことを、曲に残せたらなと思って書きました。

――僕はこの仕事を通して、学校に通えない子とか、クラスでいじめにあっている子の話も数多く聞いてきまして。みんな「朝がくるのが怖い」と言うんですね。

ailly:うんうん、わかります。

――夜、ひとりぼっちの時間帯に『SCHOOL OF LOCK!』を聴いたら、同じように悩んでいる子がいると思えたり、スピーカーの向こうからaillyさんが自分に話しかけてくれてる感覚になれる、という意見も目にします。きっとラジオという目に見えないメディアだからこそ、近くに思えるんだろうなって。

ailly:放送時間は限られていて、CMも入るし「ここまでに次のコーナーが終わらせないといけない」みたいな、いろんな縛りがあるなかで、この一瞬しか生徒とは話せないのに、その時間をずっと続けることができない。本当にもどかしい気持ちになりながら、悩んでる子に対してうまく言葉をかけられない自分もいて。「もっとこの子たちの日々と一緒にいられたらいいのにな」って思いつつ、「一緒にいるよ」って言葉はすごく温かいんだけど、「その子たちにとってはすごくキツいのかな」とも思う。当時10代だった自分も大きな孤独を感じていて、誰のことも信じられなくなってしまった。そんな夜に、自分がかけてほしかった言葉を思い返しながら、慎重に言葉を選んで歌詞を書けたなって思います。

ailly「Radiory」Official Music Video

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