細美武士、ELLEGARDENとMONOEYESの制作に挑んだ濃密な1年 アニメソングの影響からLAレコーディング秘話まで

MONOEYES、マイク・グリーンとの共同作業で新鮮な仕上がりに

――そして「カーマイン」の制作後は、ELLEGARDENのヨーロッパツアー中にMONOEYESの楽曲を作っていたと、先ほど話されていました。切り替えなども必要だったと思うんですが、どのような感じだったんでしょうか?

細美:ゼロからMONOEYESの楽曲をELLEGARDENのツアー中に書くのはできなかったと思うんですけど、そもそも『The Unforgettables E.P.』の頃から書き溜めていたネタはたくさんあったので、どれをアルバムに入れるのかっていう。この曲のここがいいとかメモして、絞っていって。この曲のサビとあの曲のAメロがいいからって、テンポとキーを揃えて組み合わせるみたいな作業を、いろんなところでやっていました。ただ、これは0からの創作ではないので、ツアーバスの中や、ツアーから帰ってきて半日だけスタジオで作業したりして進められました。

――なるほど。

細美:それで、録りたい曲を11曲ぐらいに絞ったのかな。そのうち、スコット(・マーフィー/Ba/Cho)の曲も入るから、自分の曲は6曲ぐらい。もともとプロデューサーのマイクに編曲を担当してもらうつもりだったので、エレキギターのクリーントーンで弾き語りとコーラスだけ入れたものをワンコーラスだけ作って、みんなで選曲会をやって。ある程度アタリをつけて、ロサンゼルスに飛んで、マイクに聴いてもらって。レコーディング期間が3週間しかなかったので、絶対にこの曲は入れるよねっていうものから録っていきました。マイクの場合は、1曲ずつ完成させてから次の曲に取り掛かるので、この曲がこうなるなら次はこの曲を録ろう、次はこれを録ろうっていう感じで進めていきました。最後の1日だけは絶対オフにしようね、ってメンバーで言ってたのでそこは死守したんですけど、残りの日はべったり作業して、最後の夜に終わりました。

MONOEYES

――最初に録ったのはどの曲だったんですか?

細美:1曲目の「Let It Burn」ですね。自分の中では使ったことがないコード進行っていうのがあって。このコード進行で曲が書けたのは嬉しかったですね。

――『The Unforgettables E.P.』はメロディックパンクに寄った方向性を感じたんですが、今回はそれだけでなく、明るいものは明るく、深いものは深く、それぞれの楽曲のよさが引き出されていて、全体的にバランスが取れているように感じました。

細美:マイクの中での最近のトレンドみたいなものもあったんだと思います。アメリカのラジオで流れてる曲だと、3分だともう長いじゃないですか。イントロやギターソロがある曲もほとんどないし。Cメロがある曲もほとんどなくて、アウトロもなくパッと終わりますよね。だから、今の時代の音にしてくれてるなって感じですね。

――まさに「Let It Burn」はそんな仕上がりですね。

細美:そもそもマイクと仕事をするときにあらかじめ細かく作り込んでいくと、もったいない部分があるんですよね。新たなアングル、視点を加えてくれるので。特に感情的にネガティブな要素、ものすごい悲しい音とかを入れてくれる。ただ、そこが入るスペースを空けたまま持っていくのは、自分にとってわりと冒険だったんですけど。だからセルフプロデュースで作り切ったものとは、ちょっと違う感じに仕上がっていますね。

――それを聴いて、細美さんやメンバーはどう受け止めていますか?

細美:プロデューサーと初めてきちんと仕事をした作品だから、評価自体はまだできないというか。リスナーのみんながどう受け取るかもわからないので。『The Unforgettables E.P.』でマイクと仕事をしたときも、ほとんど全ての部分を自分で作り込んだし、わりと意見も押し通したし。ELLEGARDENの『The End of Yesterday』(2022年)も、アレンジに関してはほとんど自分でやってます。今作が初じゃないですかね、自分じゃない人がパートを入れたり、コードやテンポを変えたりしてくれたのは。でも、それを「この人とだったらやってみたいな」と思わせてくれたマイク・グリーンとの出会いが大きかったです。

――マイクはどんなアレンジをしてくれましたか?

細美:基本的には、リズムパターンにこだわりのある人で。どこでシンコペーションするかとか。あとコーラスワーク、ハーモニーラインはほとんどこっちで作らせてもらえない(笑)。ただ、日本語に関してはマイクはわからないので、ボーカルコンプと言って、何テイクかのボーカルテイクからベストテイクを作る作業があるんですけど、日本語の曲のコンピングは自分でやりました。あとマイクが入れたリズムの上に、「Cメロ考えてきて」って言われて俺が新しいメロディを足すような作業もありましたね。だからもちろん、全部が全部マイクのアレンジじゃないですけど。

――新鮮ではあるんですけど、細美さんやバンドのよさは活かされている印象がありました。

細美:プロデューサーによっては、1番のサビを歌って、2番のサビの歌詞が同じ場合は1番の歌をコピーして貼ったりするんですけど。っていうか、普通はみんな貼るんですよね。でもマイクは、日本語の歌詞も英訳して渡しているんですけど、「この内容なら2番、3番は別テイクで歌ったほうがいいんじゃない?」って、ちょっとオールドスクールな録り方をしてくれる。自分は歌の表現にめちゃくちゃこだわっているので、そこはすごいありがたかったです。

――ELLEGARDENの「カーマイン」では新たな日本語詞の書き方にチャレンジされたわけですけど、今作のMONOEYESの日本語詞の書き方は、どんな感じだったんですか?

細美:これはいつもと一緒。全曲英語で仮詞が入っていて、そのうち日本語になりそうな曲にチャレンジして。ならなかった曲もあります。「Good Enough」は、3週間のうちの4日ぐらい使って日本語詞を10通りぐらい書いたんです。でも、歌ったときに曲が壊れちゃう感じだったのでボツになりました。3曲は日本語詞にしたかったんですけど、結果的に「アンカー」と「世界が眠る日」だけですね。MONOEYESは現時点でかなり英詞が多くなっていて、スコットは当たり前ですけど英語の曲しか書かないので、もっとライブでお客さんが歌える曲が多いほうが楽しいと思っていたんですけどね。

――「Good Enough」には〈エンシーノ・パーク〉とか出てきて臨場感がありますけど、これはアメリカで書いたんですか?

細美:この曲の英詞はもともとほぼできていて。そこは別の言葉……なんかスケーターパークみたいなのが入っていたんですけど、「せっかくだったら近くにある公園にしたらいいんじゃない?」って、マイクだったかスコットだったかが言ってくれたので、近くのエンシーノ・パークになってます。

――様々な楽曲がある中で、「Skippies」は異色と言っていいほど楽しい楽曲でした。

細美:これは冗談で入れた曲ですね(笑)。たまに悪ふざけをやりたくなるんです。最近は、ずっと真面目に音楽を作っているし、あんまりやってなかったんですけど、そういうのがフッと湧いてきたので、捕まえたいなって。SKIPPYっていうピーナッツバターが好きで、朝によく食べるんです。そこでSKIPPYに対する想いを書いてみました(笑)。5分ぐらいでできた歌詞です。

――早い! これ以外にサクッと書いた歌詞はあるんですか?

細美:基本的にはめちゃくちゃ時間がかかっています。「アンカー」は特にかかりましたね。ド直球じゃないですか、誤解のしようもないほど。こういうのを日本語詞で歌うと、深夜に書いたラブレターみたいになりがちなんですよね。独りよがりになりがちだし。できた時は感動してても、翌日に聴いたら「いやいや、これは人には聴かせられない」って思うことも多いです。この「アンカー」も1回そうだなと思って、もう少しレトリックに寄った歌詞に書き直したり、いろいろやってみたんですけど、なんか引っかかって。最初の歌詞のままメンバーに聴いてもらったら、絶対にこのままでいいって言ってくれたんで、元の歌詞で歌ってます。

MONOEYES - アンカー[MUSIC VIDEO]

――あと、スコットさん作の「At the World’s End」と、細美さん作の「世界が眠る日」、タイトルが近しいですよね。もちろん歌詞や曲調は違うんですけど。そこは細美さんも感じましたか?

細美:まあ普通だったらどっちか避けるんでしょうけど、今回は避ける時間もなかったです(笑)。ただ、制作をしている1カ月とかの間、毎日一緒に生活しているじゃないですか。特に今回、トランプ大統領になったあとのロサンゼルスにいたので、感じることもすごく多かったですね。公園を走っていてもアスファルトに「NO ICE」ってスプレー缶で書いてあったりして(ICE=不法移民を取り締まる政府の移民関税執行局)。あとは、海外にいると世界のニュースが、日本にいるときよりめっちゃ入ってくるんですよ。そういう影響を同じように受けていたんじゃないかなっていう気がします。

「MONOEYESの明確なアイデンティティを確立できる1枚」

――そういう共通点ってバンド感があって私は好きですよ。あと『Running Through the Fire』というタイトルは、アルバムのラストナンバー「Shadow Boxing」の一節ですよね。

細美:(アルバムのタイトルは)いつも最後に、全曲の歌詞の中から最もアルバム全体を体現しているような一節を抜き出すようにしてます。これまでもインタビューで何度か話しているけれど、アラニス・モリセットのアルバム『Jagged Little Pill』も歌詞の一節がタイトルになっていて。曲のタイトルがアルバムのタイトルになっているものはたくさんあるけど、歌詞の一節がタイトルになっているのがすごく斬新に感じて。だからその影響で、自分の作品は1作を除いてはずっとこうなってます。スコットの歌詞も含めて20個ぐらい抜き出して、メンバーと「どれがいい?」ってやって、残ったのが『Running Through the Fire』でした。

――「Shadow Boxing」は細美さんにとってどんな曲ですか?

細美:俺が個人的にアルバムのなかで一番好き、みたいな曲。歌詞も曲も好みなんですね。この歌だけは最初から、3週間で一番コンディションのいい日に録ろうと思っていました。ちょっとでも声の調子が悪いときにこの曲は録れないと思ったし、歌う前日は少しだけナーバスになりましたね。他の曲の歌詞を書きながら、レコーディングの作業をしながら、帰りにジムに寄ったり、朝1時間早く起きて走ったり、フィジカルのコンディションをしっかり整えて録れたので、とても満足しています。

――ピアノも入っていますよね?

細美:この曲は、元のデモがピアノだったんです。普段はそれをギターに置き換えるんですけど、今回はアレンジがマイクだったので、歌入れの日に聴いたらピアノがそのまま残っていた感じです。まあ、MIDIで打ち込んでるピアノだから、これぐらいだったらスコットもイッセ(一瀬正和/Dr)も弾けるし、ライブでもなんとかやれそうだったので、そのまま採用しました。マイクのプロデュース哲学って、まず曲の本質を理解することらしいんですね。その曲の確信となる部分が何なのか、芯だけにして、周りを自分がつけていくのが彼のやり方だとあるインタビューで語ってました。「Shadow Boxing」は、ピアノも芯だったんでしょうね。

――歌詞も深く刺さりました。人生、もっと言うと死が匂うというか。

細美:死生観の歌ではありますね。自分の現状とかいろいろ考えた、とても主観的な歌詞です。でもスコットの歌詞もそうだと思います。イッセがドラム叩いているときも、戸高(賢史/Gt)がギター弾いてるときも、バックグラウンドにあるのは自分の人生で、みんな主観なんですよね。で、その4つが重なっているのがバンドなので。

――細美さんの歌詞が最近の発言と重なるのは、そういうところがあるからでしょうね。

細美:まあ、あと何作アルバムを作れるかもわからないので、今書けることは全力で書いておきたいと思っています。今回のアルバムがどう受け止められるかによって、またMONOEYESの自分の中での立ち位置がくっきりしてくれそうだなって。ファンのみんなにとっても、MONOEYESっていうバンドが何なのか――特に「カーマイン」と同時期に出るし、ELLEGARDENが復活してからスピードアップしてギアが上がってる中で、MONOEYESの明確なアイデンティティを確立できる1枚になったんじゃないかなって気がしています。本当はね、もっとロックンロールなアルバムを作ろうと思っていたんです。すすけたライブハウスの、タバコの煙と酒が似合うようなレコードになるんじゃないかなって予想していたんですけど、俺が思っていたよりMONOEYESの音楽は心優しい、包み込むようなものでした。組んだ頃よりそうなっているように感じていて。このアルバムを作っていて、MONOEYESにしかない優しさ、柔らかさを大切にしていきたいと思いました。

――MONOEYESは12月までツアーもありますよね。ぜひ伺います。

細美:はい。楽しみにしていてください。

▪️リリース情報①
ELLEGARDEN「カーマイン」
配信中:https://lnk.to/EG_carmine
(C)尾田栄一郎/集英社・フジテレビ・東映アニメーション

▪️リリース情報②
MONOEYES『Running Through the Fire』
2025年9月3日(水)リリース
価格:2,860円(税込)
購入:https://lnk.to/monoeyes_4th
対訳特設サイト:https://sp.universal-music.co.jp/monoeyes/rtf/
<収録楽曲>
1. Let It Burn
2. Good Enough
3. Ladybird
4. アンカー
5. At the Worldʼs End
6. Adrenaline
7. Skippies
8. 世界が眠る日
9. Reflections
10. Ghosts of Yesteryear
11. The Unforgettables
12. Shadow Boxing
CD購入者特典:スマホサイズ“MONOEYES”ステッカー

▪️ツアー情報
『MONOEYES “Running Through the Fire Tour 2025”』
9月11日(木)千葉LOOK OPEN 18:30 / START 19:00
9月16日(火)新潟LOTS OPEN 18:15 / START 19:00
9月18日(木)金沢EIGHT HALL OPEN 18:15 / START 19:00
9月29日(月)Zepp Haneda (TOKYO) OPEN 18:00 / START 19:00
9月30日(火)Zepp Haneda (TOKYO) OPEN 18:00 / START 19:00
10月3日(金)Zepp Sapporo OPEN 18:00 / START 19:00
10月10日(金)長野CLUB JUNK BOX OPEN 18:15 / START 19:00
10月14日(火)Zepp Nagoya OPEN 18:00 / START 19:00
10月15日(水)Zepp Nagoya OPEN 18:00 / START 19:00
10月22日(水)Zepp Osaka Bayside OPEN 18:00 / START 19:00
10月23日(木)Zepp Osaka Bayside OPEN 18:00 / START 19:00
11月1日(土)大船渡KESEN ROCK FREAKS OPEN 18:30 / START 19:00
11月2日(日)KLUB COUNTER ACTION MIYAKO OPEN 18:30 / START 19:00
11月4日(火)石巻BLUE RESISTANCE OPEN 18:30 / START 19:00
11月7日(金)青森Quarter OPEN 18:30 / START 19:00
11月9日(日)仙台GIGS OPEN 18:00 / START 19:00
11月27日(木)高松festhalle OPEN 18:00 / START 19:00
11月29日(土)BLUE LIVE HIROSHIMA OPEN 18:00 / START 19:00
12月1日(月)松江canova OPEN 18:30 / START 19:00
12月11日(木)鹿児島CAPARVO HALL OPEN 18:15 / START 19:00
12月13日(土)熊本Django OPEN 18:30 / START 19:00
12月15日(月)Zepp Fukuoka OPEN 18:00 / START 19:00

▪️関連リンク
ELLEGARDEN Official Site
MONOEYES Official Site

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