イープラスが仕掛けるイベント『FAVOY』は何が新しいのか? ネット音楽の“つながり”を生むプロジェクト誕生の背景

イープラス新イベント『FAVOY』の狙い

 チケット販売事業で知られるイープラスが、“クロスオーバー”がキーワードとなる新規イベントの立ち上げに注力していることをご存知だろうか。一つは、2024年、幕張メッセ国際展示場 9-11ホールにて2日間に渡り開催された『GO-AheadZ』。日本・韓国のビビッドなヒップホップ〜ロックアーティストが一挙に集まる場として注目を集め、以降もスピンオフイベントを開催するなど継続的な発信が行われている。

 もう一つが、このたび新たに立ち上げられた『FAVOY TOKYO -電鈴合図-』(以下『FAVOY』)だ。2025年8月7・8日の2日間、Zepp Shinjuku (TOKYO)にて初開催された本イベントは、“細分化されたネット音楽を網羅するためのプロジェクト”として始動。1日目には缶缶、Sou、超学生、2日目にはEmpty old City、水槽、DAZBEE(ダズビー)が出演し、ここでしか観ることのできない貴重なコラボパフォーマンスも披露された。共通のルーツを持ちながら、それぞれのスタイルで進化してきたアーティストたちを組み合わせることで、インターネット音楽の楽しさや広がりをリスナーに体感してもらう場を目指していくという。

 今回リアルサウンドでは、『FAVOY』のプロデューサーを務めるイープラス・鈴木渓介氏にインタビュー。イベント立ち上げの狙いから、初開催の手応え、イベントの展望について話を聞いた。(編集部)

アーティストやユーザーにとってきっかけをつくる場に

鈴木渓介氏

ーー『FAVOY』立ち上げの経緯を教えてください。

鈴木渓介(以下、鈴木):現在、イベント制作の部署でイベントプロデューサーと、イープラスの根幹であるチケットの仕入れの部署での営業を兼務で担当しています。自分が個人的に通ってきた音楽はバンド文化だったのですが、チケットの仕入れの業務でインターネット音楽に触れ合う機会が増えていったことで興味を持つようになりました。

 また、コロナ禍を経たライブエンタメにおいて、ネット音楽の需要が増えている感覚がありました。「実際にイープラスのユーザーは、どういう割合でチケットを買っているんだろう」というのが気になって調べた結果、10代のユーザーだと約4割がネットアーティストのチケットに需要を感じてイープラスに会員登録してくださっているということがわかったんです。もともとイープラスは、インディーズを含む日本のロックバンドたちのチケットを多く取り扱っていることが特徴で、そういったお客さんがユーザーに多くいらっしゃるという認識だったのですが、コロナ禍を経て変わってきているんだなということを実感しました。

 そうしたデータと、クラシックやヒップホップの自主興行に続いてイープラスが新たにイベントを立ち上げるとしたら何をやるべきか、というところでうまくマッチしたのが、インターネット音楽に関するイベントというアイデアでした。

ーーたしかにイープラスは、歌い手やボカロPなどのチケットを多く取り扱っているイメージがあります。

鈴木:ありがたいことに扱わせていただく機会がすごく増えていて、主に歌い手の公演はイープラスの比重としても大きいです。加えて今回の『FAVOY』2日目に出演いただいたような、インターネット音楽出身で独自の世界観を持ちながら音楽を作っているクリエイター兼アーティストも多いので、そこがイベントとしての強みというか、イベント立ち上げのきっかけになった大きな部分ですね。

ーーユーザーの需要が増えている一方、アーティストサイドのライブ開催の需要も増えているのでしょうか?

鈴木:もちろん増えてきていると思いますが、インターネット上で活躍されている方々は、主戦場がインターネット上であるが故、どうやったらライブができるのか、そのノウハウがないということもありますし、そういう方々がいきなりワンマンライブをやるのもハードルが高い印象です。なので、『FAVOY』が表舞台に立つきっかけになっていったらいいなとも考えています。彼らがリアルな場所でユーザーと一緒にふれあう機会を作っていきたいというのも、このイベントを立ち上げたきっかけの一つです。

ーー『FAVOY』というイベント名にはどのような由来がありますか?

鈴木:2010年代、Twitterで投稿に星マークを押すことを「ふぁぼる」と言っていたと思いますが、インターネット文化にみんながふれあうきっかけになった頃の気持ちを思い出せるような言葉にしたかったのと、いま海外で推しのことを「Favorite」を略して「Fave」と言ったりするところから造語っぽく作ってみました。海外の人たちも親しみやすい語感だと思いますし、「FAVOY」という言葉が「なんか推せるよね」とか「いいよね、このコンテンツ」という意味で使われていったらいいなと。僕の意見だけではなく、インターネット音楽が好きな社内のメンバーと一緒に打ち合わせをしながらこの言葉を考えました。

ーー多様化するネットシーンの音楽をあらわす言葉になる未来も想像したくなる素敵なネーミングです。『FAVOY』は歌い手やボカロP、ネット出身アーティストを組み合わせるブッキングがイベントの柱になっているそうですね。

鈴木:インターネット音楽って「歌ってみた」「踊ってみた」「弾いてみた」など、それぞれのカテゴリの中でそれぞれが発展してきたものだと感じていて。例えば、インターネットでアップされる作品はボカロP・歌い手が共同で作っているのに、ボカロPが好きな人はボカロP、歌い手が好きな人は歌い手、それぞれの中にファンダムがあって大きくなってきた文化だと思っているんです。

 僕はその理由がアーティスト同士が一緒になる機会がそもそも少ないから、横のつながりが生まれにくいのかもしれないな、と感じてまして。インターネット上で作品を一緒に作っていてもリアルで会ったり、関わること自体が少ない。そこを繋げられるハブになれるものがあったら新しい音楽の可能性、インターネット音楽の中で今までできていなかったことができるようになるのではないかと思っています。リアルなコミュニケーションによって新しい楽曲が生まれたり、ユニットが生まれたりするきっかけに『FAVOY』がなっていけたらいいなと。なのでそういうことも意識した組合せというか、あえて歌い手だけというように絞るのではなく、さまざまなカテゴリのアーティストをもっと混ぜていくのが理想です。

ーー歌い手だけ、ボカロPだけのイベントはありましたが、ネットシーンの音楽に特化したイベントは意外となかったかもしれません。

鈴木:そうなんです。ボカロPはDJとしてライブパフォーマンスをする人たちが多いのでクラブシーンに近しいカルチャーだったり、歌い手はアイドルに近いような楽しみ方が多かったり。そこが一緒に観れる機会ってあまりなくて。例えば音楽フェスで自分が好きなアーティスト以外のステージをたまたま観て、それ以降聴くようになることってあると思うんですけど、そういうことがネットカルチャーに通じている方々のなかでも起きていったらいいなと思っています。ワンマンだけじゃわからない魅力を届けたいというのも目標ですね。なので、今回は3組ずつ2日間でやりましたけど、観たことがなかったアーティストを好きになって帰ってもらうというのが今回の目標でもありました。

ーーそう考えると、新しい音楽を好きになる余白といいますか、イベント側からの提案が少ないシーンだったのかもしれないですね。

鈴木:毎回そういった組合せを考えていくハードルは高いと思うんですけど、いいと思ったものを届けられるイベントがあった方がいいなと素直に思っていて。この音楽が好きな人にはこの音楽も聴いてもらいたい、というのが『FAVOY』で打ち出せていければと思っています。

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