弌誠、変化に富んだステージで圧倒! “衝動と求心力”を存分に発揮した『チャイルドレストラン』追加公演
暗転したステージに、ピアノのインストゥルメンタルが流れるとバックモニターの映像に印象的な真紅の球体がキラキラと舞い上がっていく。そうして真っ赤な照明がフロアを照らしたその刹那、観客側から見て中央よりも少し左側に設置されたピアノの椅子に、うつむきながら身を沈めたのが、この夜の最高のディナーをもてなすシェフ、弌誠だ。8月27日、Zepp Shinjuku (TOKYO)で開催された『1st ONE MAN LIVE「チャイルドレストラン」』の追加公演。8月12日に開催された、弌誠として初の試みとなったLIQUIDROOMでのワンマンライブから実質2度目の公演とは到底思えない。シンガーソングライターとしてどこにも埋もれないと確信できる並外れた存在感に加えて、すでに団結力を備えている観客たちがそこにはいた。
動きのついた「チャイルドレストラン」のライブフライヤーがバックモニターに映し出されるその下で、両手を鍵盤に預けた弌誠が、インストゥルメンタルに続く形で確かな重めのタッチで音を紡いだ。ライブタイトルのモチーフとなった「しあわせレストラン」が“1品目”として供された途端、豪快なバンドサウンドとともに勢いよく跳ね上がり、ドライブ感をまとう。ここぞとばかりに輝ける場所をすでに知っている水を得た魚さながらだった。そこに歌声が投下されると、その香ばしさに一層両の眼の視点は奪われた。腰を深くかがめて歌っては、次の瞬間には風を自ら巻き起こして踊り狂う。挙動も歌声もすべてがハイパーだ。モニターにはMVが投影されていた。次にアクションRPG『ゼンレスゾーンゼロ』のキャラクター、エレン・ジョーのファンメイド作品で、TikTokを起点に大バズを生んだ「モエチャッカファイア」も演奏され、ひとつ確信したことがある。それは、このバズは一時的なバズではなく、弌誠の才能を見越して起こるべくして起きたものだったということ。歌に溶け込ませた煽りも自然で、彼が鳴らす音は、すべてが純度の高い輝きを放っていた。
音程を崩したり、原曲より高くしたり、斬新な変化を加えていく弌誠の歌という名の料理。意図しない驚きをくれる弌誠のパフォーマンスによって、フロアには1秒単位で常に最新の空気が送り込まれる。歌を歌うよりは、呼吸をするに近い歌唱とも言うべきか。聴く側もつい自然とレスポンスしたくなる温度感がある。
「ガタゴト」や「通リ魔」で、足元に視線を落としながら歌う姿は、いわば、完全に自分の内側とだけ向き合っているかのような感じがした。不思議とステージの中でピアノの置かれたスペースと弌誠の立つスペースが切り取られ、小さなワンルームとして目に映る。そこでは、彼にとっての制作とライブの境界が消えていたーーそう思わせるほどに、日常の延長にある“制作の部屋”をそのまま公開しているような光景だった。音楽を通してならステージ上で素を隠すことなく、この夜にありのままを託してしまう弌誠の大胆さが、周りへの映し鏡となっている気がした。
「あられやこんこん」は、弌誠の広いボーカルレンジを知る上で象徴的な1曲で見事に圧倒された。サビの高音がロングトーンで響いた瞬間、ステージに空間そのものが吸い込まれていくかのような妙な錯覚とともに。終盤に忍ばせたメタルの鋭利な断片も、その声に宿る太さと共鳴して、儚さや苦しみまでも抱えた彼の音楽性を確固たるものにしていた。
「晴れの日ってやっぱり踊りたくなっちゃいますよね……じゃあ、どういう音楽ジャンルで踊りたいですか?」
「タンゴ!」と快活に声の合った観客たちに向けて、アコーディオンが豊かな響きを奏でる「よなべのタンゴ」が繰り出されると、ギターをかき鳴らす弌誠。ユーモラスな世界が幕を開ける。フロアに視線を投げ、今この瞬間を観客と分かち合おうとする姿が目に焼きついた「謝祭」は、祝祭でありながらもどこか影を孕む。彼の紡ぐ音楽には、狂気めいた色がしみ出しながらも、寂しさや薄闇、そして時折触れる温もりがある。「なんだか眠そうですね」「はろー。」と続いた2曲は、そんな心のよりどころを求める優しい響きとして漂った。アクションRPG『鳴潮』に登場するザンニーのキャラクターソング「デビデビデビット」では、ライブならではの大胆なアレンジが光り、ボーカルの色気が増幅されていたのも良かった。
鬱屈した感情を抱えた曲たちとは裏腹に、弌誠は観客たちとローなトーンで楽しそうにコミュニケーションを取っていた。サポートメンバーたちもまた、クールな風刺の裏に隠れている弌誠の意外な“可愛らしさ”を支えていたし、観客たちから返ってくる声も、温かく力強い。その誠実な人柄が、そうした温かさを寄せつけていると感じた。
TVアニメ『多数欠』 (日本テレビほか)の第1クールエンディングテーマ「GAME OVER」の咆哮に近いハイトーンの解放感にはこの夜にしか生まれない美しい線が描かれていた。このライブのために作ったという初披露の「新曲」もギターの金切音をはじめとした音の弾丸がハイトーンとともに放たれる、これまたロックの衝動そのものに突き動かされる圧巻の一幕だった。
「高校の頃、軽音学部に入っていて。そこから作曲とかギターを始めたんです。7〜8年で今に至るんですけど、今これだけいろんな人が来てくださるのは本当に考えられないことで」と驚きを滲ませる。さらに、高校時代を振り返りながら「テスト期間中、勉強しないけど罪悪感だけが残っている学生だったので、音楽だけは真面目にやってきて良かったなって感じました」と加えた後、今後の意気込みを語った。
「なので、マイペースになっちゃうかもしれないんですけど、1個1個の作品は今まで以上に100%、200%。いや、1億%の気合いを入れて作っていくので、気長にチャンネル登録して待っててもらえると嬉しいです!」
そして、「じゃあ、あと1曲。皆さん、何が聴きたいですか?」と弌誠が呼びかけると、フロアのあちこちから声が飛ぶ。「俺の超いい耳で全部聞き取ったんで、一番声が多かった曲をやります。これで皆さんと楽しくお別れしたいと思います」と告げ、そこで再度供されたのが、「モエチャッカファイア」。“2品目”として一度堪能したものの、終盤に差し出されたそれはさらに研ぎ澄まされ、熱量を増した珠玉の一品だった。文字の羅列だけでは本音は伝わらないこともあるが、弌誠の生の歌声には、すべてを包み込んでしまうほどの余裕が漂っていた。
全17曲に及んだライブは、ギター、ベース、ドラムのサポートメンバーがウェイターを思わせる衣装をまとい、最後にはモニターにスタッフロールが流れるなど、細部に至る構築された世界観で満ちていた。そのコンセプトは確かにライブをひとつの物語へと押し広げていた一方で、それ以上に感じられたのは、緻密に作り込まれたものを超えて滲み出る“自然さ”への強い吸引力だった。弌誠と生のバンドが生み出すここでしか鳴らせない音は決して凡庸な枠には収まらない。12月14日には、東京キネマ倶楽部での2ndワンマンライブも開催されるという。今後、彼が得る新しい経験の一つひとつが、血となり肉となっていくのだろう。今でも十分に強い光を放っている。それでもさらに磨かれていったとき、どんな景色がそこにあるのか。期待は尽きない。
弌誠、キャラクターの輪郭を露わにする“憑依型の歌声” 意外性とスリルに徹した予測不能な表現力
2024年に「モエチャッカファイア」がバイラルヒットした弌誠。初オリジナル曲投稿から約5年で積み上げてきたタイアップ曲、キャラク…弌誠、満員の初ワンマンで見せた瑞々しい衝動 音楽から溢れる優しくも激しい“人間味”
弌誠(いっせい)が8月12日、恵比寿LIQUIDROOMで初のワンマンライブ『チャイルドレストラン』を開催。その様子をレポートす…■弌誠 2ndワンマンライブ情報
公演日:2025年12月14日(日)
会場:東京キネマ倶楽部(鶯谷/東京)
公演時間:OPEN 17:00 / START 18:00
チケット価格:1F席(スタンディング)6,500円、2F席(指定)7,500円 ※ドリンク代別
eplus:https://eplus.jp/issey/
主催:VAP INC.
企画制作:VAP INC. / HOT STUFF PRESENTS
問い合わせ:HOT STUFF PROMOTION(050-5211-6077 ※平日 12:00~18:00)