高野寛、YMOというルーツに見出した“新しい未来” バンドでの再構築に挑んだライブ『Modern Vintage Future』

 昨年11月にデビュー35周年を記念した新作『Modern Vintage Future』をリリースした高野寛。10代の頃に影響を受けたYMOやテクノ/ニューウェイヴにオマージュを捧げたような、エレクトロをベースにしたサウンドで新境地を切り拓いたが、その新作のリリースライブが8月30日に有楽町 I'M A SHOWにて開催された。

 この日、前座を務めたのは、20代の若手3人組バンド CHO CO PA CO CHO CO QUIN QUIN(通称 チョコパ)で、民族楽器とエレクトロを融合させたサウンドはモダンでエキゾチック。高野がYMOチルドレンならば、彼らはグランドチルドレンだ。実際、メンバーの細野悠太は細野晴臣の孫。彼らの実験的でありながらも人懐っこい音楽は、高野のファンの心を掴んだようで観客のリアクションも良好だった。チョコパの3人が舞台を降りると10分休憩。セットチェンジが行われて、いよいよ高野のステージだ。

CHO CO PA CO CHO CO QUIN QUIN

 この日、高野はバンドセットでライブに挑んだ。多重録音やプログラミングを駆使して高野一人で作り上げた新作を、コンピューターと同期させながらバンド編成で再構成するという試みだ。バンドメンバーは白根賢一(Dr)、ゴンドウトモヒコ(Hr/Key)という気心の知れた2人。客席から見て左から白根、高野、ゴンドウと横一列に並ぶ。衣装は黒で統一され、高野だけ白いシャツ。ステージには必要最小限の機材しか配置されず、ミニマムなステージの奥には大きなスクリーンが設置されて、曲ごとに映像が映し出されるという趣向だ。あとで知って驚いたのが、「青い鳥飛んだ」「僕ら、バラバラ」以外の映像は高野自身が制作したという。DIY精神で曲を作ってきた高野だが、ライブの映像も手がけるとは徹底している。

高野寛

 新作のオープニングを飾るインスト曲「LOOP」が流れるなか、3人がステージに登場。ゴンドウがトランペットを吹いて曲に血を通わせる。そこから「青い鳥飛んだ」へと繋がるのは新作と同じ。バックのスクリーンには高野と親交のある漫画家/アーティストであるウィスット・ポンニミットが手がけたMVの映像が映し出される。少女とドラゴンを主人公にして、独自の解釈で曲から新しい物語を生み出している。そこからアップテンポな「声は言葉にならない」へ。約20年前の曲だが、原曲のエレクトロニックなサウンドをアップデートして「青い鳥飛んだ」から気持ち良い流れを生み出している。

 曲が終わると最初のMC。「待ちに待った『Modern Vintage Future』のライブ。今までとはガラッと違う雰囲気でやりたいと思います」と高野は意気込みを語って、新作から2曲続けて披露。高野の繊細な歌声をじっくりと聞かせる「isolation」。白根のドラムが心地よいグルーヴを生み出すソウルフルな「STAY, STAY, STAY」ではグッと大人な雰囲気になる。曲が終わると高野は白根とゴンドウを紹介。「この2人とはいろんな形で(高橋)幸宏さんやYMO周辺のステージに立ってきました。その想いを込めて次の曲をやります」と、HASYMO「The City Of Light」を演奏。打ち込みに絡みながらタイトなビートを刻む白根のプレイに高橋幸宏のドラミングを思い出さずにいられない。スクリーンには都会の日常を切り取った写真。モノクロの画像に都会の光と影が映し出されて曲にフィットしているが、この写真も高野自身で撮影したものだ。続いて新作から「サナギの世界」。高野が在籍した高橋幸宏のバンド pupa(さなぎ)を思わせるような、エレクトロニックなサウンドとフォーキーなメロディが溶け合った曲で高野の柔らかな歌声が優しく耳に触れる。

ゴンドウトモヒコ
白根賢一

 ライブがクライマックスに向けて走り出したのは、白根のドラムでビートに力強さを増した2019年の曲「Wanna be」あたりから。続いてThe Rolling Stonesの、というよりDEVOの「(I Can't Get No) Satisfaction」のカバーへ。『TOKIO COVERS』(2013年)に収録されていたカバーだが、ゴンドウのエフェクトをかけたトランペットのソロが加わることでエレクトロファンク的な味わいが出て太いグルーヴが曲を貫いている。すっかりダンスモードになったところで、新作にボーナストラックとして収録された「Instant House」と「テレパシーが流行らない理由」(1991年)をマッシュアップした「Dance with Telepayhy」を披露した。

 今回のライブでは過去に発表したエレクトロ色が強い曲を織り交ぜることで、これまで高野がエレクトロニックなサウンドを独自に昇華してきたことが改めてわかった。それは『Modern Vintage Future』への道筋を見せているようでもあった。そういった流れを象徴しているのが、時を超えて2つの曲が融合した「Dance with Telepayhy」だろう。エレクトロなサウンドにトーキングブルース風のボーカルが乗ってKraftwerkとボブ・ディランが合体したようなユニークなアレンジで、フレッド・アステアのダンスをデジタル処理した映像も楽しい。

 そして、会場の熱気が高まっていくなか、新作から「Head’s Talking」「僕ら、バラバラ」を続けて披露。この2曲では高野はギタリストとしての存在感も発揮。ファンキーで鋭利なカッティングや荒々しいソロも聞かせながら、白根とゴンドウの演奏とスリリングに絡んでMETAFIVEを思わせるダイナミックなバンドサウンドが炸裂する。その演奏に圧倒された観客から歓声が飛び交うなか、ライブの締めくくりに演奏されたのは人気曲「ベステンダンク」。しかも『City Folklore』(2019年)に収録された、冨田恵一がアレンジを手がけたバージョンだ。力強いビートとシンセで味つけされたエレクトロニックなバンドサウンドで会場を沸かせて、3人はステージを後にした。

 拍手が鳴り止まないなか、白根とゴンドウとともに再びステージに上がった高野は「今日は新人気分です」と笑うと、「夢の中で会えるでしょう」「相変わらずさ」とシンガーソングライター色が強い曲を続けて披露し、会場は暖かな雰囲気に。そして、高野はチョコパの細野悠太をステージに呼びこんだ。高野のMCによると、細野と初めて共演したのは2019年に開催されたコンサート『Yellow Magic Children 〜40年後のYMOの遺伝子〜』だったとか。思えば、そのコンサートには白根とゴンドウも参加していた。そして、細野がベースで加わった4人編成でYMO「CUE」をカバー。メロディの美しさを際立たせたアレンジが、ライブの高揚感をゆっくりと解きほぐしていく。YMOからの影響を見つめ直した新作のリリースライブにふさわしいフィナーレだ。

 コンピューターによるサウンドと生演奏を同じ質感で融合させる。それだけでも大変なのに、曲ごとに映像と演奏を同期させるという手の込んだ演出で挑んだ今回のライブ。アルバム発表から半年以上の準備期間を要したのもよくわかる。エレクトロニクスを取り入れながらもオーガニックなグルーヴを生み出す演奏には、pupaやMETAFIVEをはじめYMO関連の作品で吸収してきたことがしっかりと反映されていたし、同時に自分が先輩たちから受け取ってきたものをチョコパのように若い世代に託していきたい、という想いも伝わってきた。高野の視線は自分のルーツという過去を通じて未来に向けられている。その眼差しの凛々しさに胸を打たれたライブだった。

高野寛「青い鳥飛んだ」:Official Music Video
高野寛:2025.08.30 LIVE Modern Vintage Futureダイジェスト

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