NOT WONK 加藤修平、苫小牧の人々と向き合う“フェアな祭り”を目指して 『FAHDAY』への想いとバンドの変化
くるり、君島大空、踊ってばかりの国……ラインナップで見せたい“流れ”
一一そういう形だから、出演アーティストの話がそこまで重要だとは思わないですけど、一応出演者についても。くるりに君島大空っていう豪華なメンツはどんなふうに決めていったんですか。
加藤:まず今年は絶対くるりを呼びたくて。SADFRANKの制作の時には岸田(繁)さんに弦のアレンジで入ってもらったし。そもそものきっかけは岸田さんが『Down The Valley』(2019年)が出たタイミングで「ええやん」って言ってくれたことなんですけど、会うたびに「まだ苫小牧住んでんの?」「そうです。仕事しながらやってます」「うんうん。そのほうがええと思うで」みたいな感じで応援してくれるのがシンプルに嬉しくて。あと去年、アジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)の後藤(正文)さんが藤枝にスタジオを作る企画に、岸田さんがコメントを寄せてたんです。「東京を主語にしないクリエイティブの時代に突入している」(※)って文言があって、それがアップされたのも去年の『FAHDAY』の直前で。なんかものすごく励まされたんですよね。勝手ですけど、仲間、みたいな感覚にもなったし。だから今、苫小牧に来てほしい。苫小牧の人にもくるり観てほしいし。すごくいいホールなんで、あそこでくるり観れたら最高だし。それでお声がけしました。
一一君島大空さんは?
加藤:君島くんは同世代で同学年なんですよ。音楽のタイプはまったく違いますけど、君島くんはSADFRANKの音楽を好いていてくれて。また別の仲間というか。お互いに認め合いながら、「いいね」って言い合いながら進んできた感じがあって。最初に会ったのは10年くらい前。
一一あ、そんなに昔?
加藤:彼がまだ下北沢THREEとかでギター弾いてた時。大した話もしないんですけど「また会おうね」って言ったんですよ、お互いに。その時のことがなかなか忘れられなくて。あと去年、札幌の『しゃけ音楽会』(『OTO TO TABI presents「しゃけ音楽会」』)のステージにソロで来てて。それも素晴らしかったんですね。もう1回あの舞台で苫小牧を独占してほしくて。始まりの静かな時間を君島くんにもらってほしいなって感じですね。
一一そして最後が踊ってばかりの国。2年連続の参加です。
加藤:そうです。やっぱり下津(光史)さんにはあの場所にいてほしくて。最初は下津さんの弾き語りでオファーしたんですけど「バンドで行きたい」って逆オファーをいただいて。苫小牧のこと、あとNOT WONKのこと、すごく応援してくれるんですよね。それが純粋に嬉しくて。
一一他のエリアはどんなふうに変わります? 去年Area_2はアンビエントでしたけど、今年はちょっと違うような。
加藤:はい。去年は外でずっとダンスミュージックを流してましたけど、それを小ホールに押し込んで、Area_2は大爆音のダンスミュージックになります。あと最近のライブでPAやってくれるNancyさん。彼女は長谷川白紙さんやおとぼけビ〜バ〜のPA、あと∈Y∋(BOREDOMS)さんの最近の活動のPAもされていて、すごく面白いんですよね。ノイズセッションになると、Nancyさん自身がどんどん加わってくる感覚もあるし。だから、シンプルなダンスミュージックのフロアにはならないと思いますね。もっとエクスペリメンタルな空間になるし、それをむしろNancyさんにやってもらいたいなって。
一一Area_3はどうなります?
加藤:屋外のエリアですけど、DJはいつも苫小牧で一緒に飲んでるSHIWAさんと、去年も出てくれた苫小牧のGAKさん。あとmitome renはPROVOの若大将で。外はわりとゆったりした音楽が流れて、あとはいくつかライブもあります。今年は木でステージを設けたんですよ。幼馴染の大工と、あとそこの職人さんたちに作ってもらって。そこでCAR10や寺尾紗穂さんがライブをする。これは去年、飲食ブースの人たちが「大変すぎて何も観れなかった」と言ってたことがきっかけで。それも可哀想だな、仕事しててもちゃんとライブも観れるようにしようって。
一一その発想がとても『FAHDAY』っぽい。フェアネスを掲げるこのパーティらしさが表れています。
加藤:やっぱりみんな楽しいほうが。結局、Area_1以外は全部無料なんで。普通ならお金がかかるところにお金かける発想になるんですけど、Area_1だけがリッチになっていっても全然面白くないんで。今年は外でもライブが観れたり、ヴィンテージのスピーカー入れていい音響にしていこうって。そのほうがトータルのハッピー度合いは底上げできるような気がする。
一一あと、Area_4は市民会館内のロビー、階段みたいなところで。
加藤:そうです。乙女絵画とタデクイが出てくれます。乙女絵画は去年の『FAHDAY』、大ホールの袖にずっといたんですよ。到着したら機材車からアンプとか楽器下ろしたり、ずっと手伝ってくれて。
一一このステージに関しては、地元、もしくは北海道の若手バンドに限るという感じですか?
加藤:そうではないですね。ちょっと難しいところなんですけど。今のフェスって、フックアップされる人が出るステージみたいなものがあるじゃないですか。もう、どこもかしこも扱いが酷すぎる。
一一経験者の言葉だ(苦笑)。
加藤:あれは新しい形の搾取だと思ってる。いくら売れてないバンドだって、準備の時間とか、バイト休んで出なきゃいけないとか、車も出すなら金かかるとか、いろいろあるじゃないですか。でもギャラも出ないわ人もいないわ……(苦笑)。そこはなんとかしたいっていうのはありますね。できれば出てほしい、一緒に遊びたい仲間はいっぱいいるけど、ただ僕は新しい搾取構造に入りたくはないので。だから、そのとき本当にいてほしいアーティストだけ。乙女絵画は最近ライブも素晴らしいし。くるりとか君島ファンがライブを観た後なら、乙女絵画の音から受け取るものが何かある気がする。僕はその相乗効果を見たいんですね。ホールから出てきたお客さんを捕食するようなライブになると思うし。
一一当日のお客さんの動きが想像できますね。
加藤:お客さんがどう歩いて、どんな時間に何を食べて、1日どう遊ぶだろうっていうのはまず考えることで。エリアが4つに分かれているのはただの棲み分けじゃなくて、流れを作りたいっていうことでもありますね。
一一『FAHDAY』は会場がこじんまりとして、歩きすぎない距離もいいんですよ。巨大フェスだと何を観るかの問題で必死になっちゃうから。
加藤:詰め込めば演者も増やせるけど、大きなフェスって「せっかくだからもったいない」みたいな気持ちだけで観てる時があるじゃないですか(笑)。2曲くらい観てすぐ次に移動っていうのも辛いし。表現って、すべて批評される土俵に登るべきだと思う、「高い金を払ったから」みたいな理由に遮られるべきではないと思う。この『FAHDAY』はさいあく手ぶらで1円も持たずに行っても、音楽は聴けますから。だから、今自分ができるベストを1回提示したつもりです。街おこしのためにやってるわけじゃないけど、自分がこうして動くことが何かの一助になるんだったらいいと思いますね。
※:https://note.com/avms/n/ndae0fc9a3a5b