NOT WONK 加藤修平、苫小牧の人々と向き合う“フェアな祭り”を目指して 『FAHDAY』への想いとバンドの変化
NOT WONK/SADFRANKで活動する加藤修平(Vo/Gt)が発案者となり、地元のライブハウスやクラブ、飲食店や雑貨屋なども巻き込んだ共催パーティとして始まった北海道・苫小牧での『FAHDAY』。舞台は、2026年3月に取り壊しが決まっている苫小牧市民会館と駐車場の全域。大ホールでのライブ以外はすべて無料。昨年秋に初開催され、地元の子連れ家族から全国のNOT WONKファンまで約2000人を動員したこのパーティが、今年は9月23日に再び戻ってくる。バンドが主催者として旗を振る地元フェスも珍しくない時代だが、その言葉をあえて避けようとする『FAHDAY』とはいったい何なのか。これまでも苫小牧在住を貫いてきた加藤が、今になり街の「名前」ではなく「人々」と向き合い始めた理由とは。さらに、NOT WONKの最近のライブでは近年遠ざかっていた爆音パンクロックが次々と放出されているのだが、デビュー当時のルーキーみたいな輝きはこれらの動きとどう関係しているのか。加藤にじっくりと話を聞いた。(石井恵梨子)
“苫小牧という街”を巻き込んだパーティである意味
一一今年の『FAHDAY』、去年が終わった瞬間から次のことは考えていました?
加藤修平(以下、加藤):終わった瞬間……でもやろうと決めたのは、翌日、翌々日くらいでしたね。もうこれやんないとダメだな、みたいな感じでした。
一一どういう心の動きだったんです?
加藤:やる前は「来年またすぐとか、無理だろう」と思ってたんです。野外って考えると北海道は10月がギリギリで、そうなると開催はもう1年後じゃないですか。去年の『FAHDAY』は準備に1年半かかってるので、あんまり現実的じゃないと思っていて。でも終わって、借りてたテントとか発電機を返しに行ったり、お世話になった人に挨拶回りをしていくと、シンプルに「最高だったね! 本当ありがとう!」みたいに感謝されることが多くて。同時に「次はもっと、ここがこうでさ」っていう話を、会う人会う人が言い出すんですね。次のこと考えてる人がこんなにいるのかと思って。自分以外で自走し始めた人が出てきた。それが理由になりましたね。
一一去年、現場では「スタッフとして仕方なく駆り出されてます」みたいな顔の人がいなかったのが印象的だったんです。これは街の人みんなのやる気を巻き込んで作られたんだな、と思ったんですが。
加藤:そうですね。「みんな」って言うと主語がデカくなってしまうんですけど。ただ、少なくとも会える人たちは味方になってくれました。
一一だからなのか、『FAHDAY』は最初から地元開催の音楽フェスとは言わず、パーティと銘打ってましたよね。
加藤:そうです。音楽フェスを嫌っているわけではないけど、フェスティバルって言葉が、元のお祭りの意味からだいぶズレてきてる気がするんですよ。もちろん祭りにもいろんな種類があるのはわかってますけど、子供の頃に見た盆踊りのことを考えると、今の音楽フェスって巨大になりすぎていて。ライブイベントを外でやってるだけにも見えるし、巨大なコマーシャルを見てる気持ちにもなる。さらにはそれが「若手の登竜門」とか言われちゃったり。
一一音楽興行ですよね。少なくとも街の人たちの話ではない。
加藤:はい。やっぱりそこに住んでいる人がみんなで一個の神輿を担いだりする感覚がほしくて。自分がその神輿の上にいたいわけではなくて、神輿を作ったり、一緒に担いだり、あとはそこに集まる人たちのことを考える。“Fair At Heart”ーーフェアであることを保ちたいっていう意味でも『FAHDAY』なので。ちゃんとお祭りって言葉の意味を取り戻せるまでは、あえてフェスとは言わないつもりですね。
一一NOT WONKの名前も含め、出演アクトを宣伝したいわけじゃなくて、町内会の中の人として動きたい?
加藤:そうですね(笑)。そうだと思います。
一一ただ、町内会って当然ボランティアだし、声の大きい人、頓珍漢なことを言う人も出てくるから、まとめるのにすごく時間がかかる。
加藤:超面倒くさいですよ。やっぱ昼仕事してる人もいれば夜仕事してる人もいるから。これは半分愚痴に近いですけど「駐車場のレイアウトを考えるから朝10時集合でお願いします」って言ったら誰も来なくて……だから俺は1週間かけて一軒一軒に同じ話をしにいく(笑)。その面倒くささはありますけど、でも、誰もがやったことないことをやってるんで、使ってない筋肉を使うんですよ。それは実際体を動かすこと、頭で考えることでもあるし、たとえば朝起きれなかったことに対して申し訳なさを感じることもそうで。それってあんまり普段ないはずなんですよね。
一一あぁ。「朝起きれなくて申し訳ない」と思うことが「じゃあ俺、次にこれ協力するわ」って言葉になったりする。
加藤:そうです。だからもう、貸しを作りまくる(笑)。自分のカラーだけ、ワントーンで塗り潰せないことも大事で。いろんな人の意見が出てきて、いい意見もあれば悪い意見もある。そういう一個一個を取捨選択していくと全体の精度は上がっていくんですね。今までないことをやっているんだっていう実感を、本当に苫小牧の人たちが持ち始めている感覚もあるし。
一一その過程で、何か気づきってありましたか。
加藤:向いてるな、とは思いましたね、自分が。人と話すのが嫌いじゃない。今日は面倒くさいなと思う日もあるけど、結局行ったら楽しくなっちゃうし。たとえばフライヤーを置くにしても「一杯飲んでいかないと」みたいな気持ちになりますし。コンビニでトイレ借りたらジュースぐらい買う、くらいの感覚ですけど。そのことで特にフレッシュなアイデアが出てきたりはしないんです。人と人の話って超どうでもいいことなんですよ、大体が(笑)。昼間は暑かったけど夜になったら冷えて霧が出てきたとか、誰と誰が付き合ったとか別れたとか。でもそれって音楽だけやってると見えなくなることで。自分も本当は社会のミクロのひとつなのに、ミュージシャンである私、みたいなキャラクターを引き受けすぎちゃうのは残念だと思うし。だから、超どうでもいい話をしてると、自分もちゃんとみんなの仲間であれている安心感がある。自分がどれだけ特別なことをやっているかって気負わなくなるし。それが自分にとってプラスに働いているような感覚ですね。
「守ってきたものを何も捨てないで、やりたいことを楽しくやる」
一一NOT WONKの最新作『Bout Foreverness』は、すごく小さな音が大事にされていますよね。これって今の話と関係ありますか。
加藤:そうですね。なんかフォーキーな感覚なんですよ、僕の中であのアルバムは。ぽつぽつと小さな声がいっぱいあって、それを拾っていった感覚に近いのかな。強い一個の意見があって、それで曲を書く感じではなくて。
一一えぇ。フェスの旗振り役をやるなら、メインテーマとなる曲をまずドンと書いたと思うけど。でも出したかったものはそうじゃない。
加藤:うん、そうですね。去年1年間は「ずっとやれなかったことがある」っていう感覚だったので。
一一それはフジくん(藤井航平/昨年10月に脱退したベーシスト)の不参加が続いていた時期の話?
加藤:いや、それももちろんあるけど、音楽的なフラストレーションはそんなになくて。サポートメンバーを入れてライブをやればそれなりの充足感はあったし。それよりは、吐き出してない気持ち、具現化していないアイデアみたいなものが溜まりに溜まってた感じ。もともと『Your Name』(2019年から苫小牧で行われたDIYライブ企画『NOT WONK presents “Your Name”』)をやった時、苫小牧の人が全然いなくて、結局これじゃあんまり意味ないなって気持ちがずっと払拭できてなかったんですよ。だから苫小牧の人と何かやらなきゃいけないと思ったのが『FAHDAY』の着想のひとつでもあって。あとNOT WONKに関しては、コロナ禍があって、僕のソロ(SADFRANK)制作があって、フジの不参加の時期があって……空白がずいぶん長いイメージなんですよ。出してないアイデア、本当はライブでやりたかったこととか、結構溜まっていって。気づいたら30歳になっちゃうな、みたいな感覚もあったし。モヤモヤした気持ちを抱えたまま「それでも明るくやってます」って言うのは無理なんで、だからあのアルバムを作ったところもあるんですね。
一一あぁ。小さな音や小さな声っていうのは、街の人たちというより、自分の中に溜まっていたもの。
加藤:そうです。で、作ったことで一個精算が終わったような感覚で。今はもう、すごく未来を向きながら日々いろんなことを頑張れる(笑)。具体的な仕事も増えてますけど、でも全部自分のやりたいことだから。
一一今のNOT WONKのライブ、1stとか2ndアルバム時代のパンクロックがガンガン出てきますよね。あれは何なんです?
加藤:なんか、パンクロックやれるなぁって感じなんですよ。まぁ本村くん(サポートベーシストの本村拓磨)っていう偉大なベーシストがいて、彼のフィールが入るとまた全然違うものになるし。一周したとか、古い曲で昔のファンを喜ばせようみたいな感覚じゃなくて、なんかすげぇ新しい音楽に聴こえるんです、自分でやってても。さんざんやって飽きた時期もありましたけど、結局は昔取った杵柄なんで超得意なんですよ(笑)。
一一ははは。クソ速いパンクやら爆音のエモやら。
加藤:もう、やらせたら超得意(笑)。この緩急を後年でゲットしたんだなって思う。ちゃんと一個のレンジの中に置けるようになった。ワイドレンジの中に、70年代からのパンク、90年代のUSインディ、今好きなソウルとかジャズまで全部置ける。全部が横並びの手札になった気がする。だから今、ライブもめっちゃ楽しいですね。
一一それくらい気持ちがフレッシュになっている。それは『FAHDAY』が自走を始めたことと関係しているんですか?
加藤:なんか景気づいてるのかもしれません、自分たちがちょっと大人になって。僕はもう30歳になったし、尭睦(高橋尭睦/Dr)は今年30歳になるし。そうなるとだんだん若いヤツらが出てくるわけじゃないですか。1stアルバムからもう10年経ってて、自分が10代の時に書いた曲、出した当時はさんざんおじさんおばさんたちを喜ばせてきた曲たちが一一。
一一ははは! 確かに、最初NOT WONKに反応したのは中年層でした。
加藤:でも2025年になって、今あの曲たちを若い子たちが目をキラキラさせて「新しい、かっこいい!」って言ってくれる。めちゃくちゃ気持ちいいなと思って。「俺は10年前からそう思ってたよ?」って感じですけど、ようやく意見が一致し始めた感覚があって、それがむっちゃ楽しいしヘルシーだなって。僕もフロアのことを素直に信じられる。勘ぐったりする時間がないんですね。
一一自信とともに、信頼も生まれてきた。
加藤:はい。一昨年の『ライジングサン』(『RISING SUN ROCK FESTIVAL in EZO』)で、自分のライブとは別に、カネコアヤノと2人でワンステージやったんですよ。それはPROVOのオーナーの(吉田)龍太さんから「加藤ちゃん、なんかやってよ」って言われて始まったことですけど。カネコも普段はそういうことあんまりやらないタイプなのに 自分から相談したら快く引き受けてくれて、それでライブにもすごい人が集まって、俺も楽しい時間を過ごせて。そしたら終わった時に龍太さんが「いや、加藤ちゃんは今日もたくさん人を幸せにしたね」って言ってくれて。今までそんな感覚はなかったんです。でも言われたら妙に合点がいったんですね。人を幸せにするっていいことだな、目標にしてもいいかもしれない、ぐらいの感じ。金稼ぎじゃなくて、ズルいこともしないで、今まで守ってきたものを何も捨てないで、自分がやりたいことを楽しくやる。それでお客さんが幸せになるんだったら最高じゃんって。それを今は明確に目指し始めてる。
一一今の言葉、そのまま『FAHDAY』が主語になりそうです。誰もズルをせず、みんなでやりたいことをやって、幸せになっていこうって。
加藤:そうですね。