藤井 風、Official髭男dism、back number、椎名林檎、King & Prince、FRUITS ZIPPER……注目新譜6作をレビュー
New Releases In Focus
毎週発表される新譜の中から注目作品をレビューしていく連載「New Releases In Focus」。今回は藤井 風「Love Like This」、Official髭男dism「らしさ」、back number「幕が上がる」、椎名林檎「白日のもと」、King & Prince「Deep Forest」、FRUITS ZIPPER「ピポパポ」の6作品をピックアップした。(編集部)
藤井 風「Love Like This」
今夏、数々の海外フェス出演が話題となっている藤井 風。3rdアルバム『Prema』からの先行配信となる全英語詞の一曲がこちら。シンプルながらも美しいハーモニーで魅了するソウル風のポップスは、新曲なのに、すでに世界を席巻してきた80’sヒットソングのように響く。好戦的に時代を煽る様子はない。いつどこで聴いてもリスナーの琴線をくすぐり、もう帰ってこない“あの日々”を優しく思い出させる普遍性たるや。また特筆すべきはMVで、南フランスで撮影したと見られ、初となるラブストーリー仕立ての内容は短編映画のごとし。曲調や歌詞によってキャラや表情をどこまでも変えていける藤井 風は、ミュージシャンとしてはもちろん、俳優としても相当な逸材だ。(石井)
Official髭男dism「らしさ」
2025年最初の楽曲となる「らしさ」は、松坂桃李、染谷将太らが声優を務める劇場アニメ『ひゃくえむ。』主題歌。陸上競技の100m走にのめり込む男たちの、狂気にも似た情熱を描いた本作に大きな刺激を受けながら生み出されたであろうこの曲は、鋭い疾走感に貫かれたバンドサウンド、溢れんばかりのエモーションを刻み込んだメロディがぶつかり合うロックチューン。客観的、現実的に考えれば絶対に無理なんだけど、その事実を受け入れてしまわず、何が何でも抗い、やれるところまでやってみる――という思いを込めまくった歌詞は『ひゃくえむ。』の世界観に寄り添いつつも、“コスパ”や“タイパ”という言葉に慣れてしまった我々に「本当にそれでいいのか?」という問いを突き付けているようにも感じる。そして言うまでもなく、この楽曲に説得力を支えているのは、メンバーの生き方そのものだと思う。(森)
back number「幕が上がる」
「ブルーアンバー」「ある未来より愛を込めて」に続く新曲「幕が上がる」(『劇場版「TOKYO MER〜走る緊急救命室〜南海ミッション」』主題歌)は、タイトルが示す通り、ライブに向き合う際の感情をどこまでも生々しく描き切った楽曲に仕上がっている。自分たちが弱い存在であることはわかっている。でも、どんなに震えても、足がすくんでも、幕が上がればやるしかない。怖さに慣れることはないが、逃げることもしない。その理由は、〈強くなりたい/強くありたい〉という切実な願い――。この曲を聴きながら筆者は、自分たちのありのままをさらけ出し、必死にライブに立ち向かうメンバー3人の姿を思い浮かべ、勝手に泣きそうになってしまった。どこまでもリアルな言葉を音とメロディに直結させたアレンジ/演奏も凄まじい。(森)
椎名林檎「白日のもと」
小説投稿サイトから火がついたホラー小説の実写化映画『近畿地方のある場所について』主題歌の書き下ろし。椎名のコメントには「ホラーは私の十八番です」「しかし今回はおどろおどろしさを求めてのご依頼ではなさそう」「物語に重く横たわる問題に私は只管向き合いました」(※1)との文言が。結果生まれたのは、椎名らしいオルタナ系バンドサウンドながら、実はフォーキーと言ってもいい“歌と言葉”の一曲である。伝承されてきた呪いや禁忌。あるいは何かを失った母親の後悔。後半に出てくる〈投げ捨てたいのを堪えて生き存えている〉という言葉が、日常が突然何かに脅かされるホラーとは一線を画す、原作の世界観にさらなる奥行きを与えている。(石井)
King & Prince「Deep Forest」
King & Princeによるミッキーマウスの新オフィシャルテーマソングを収録したシングル『What We Got 〜奇跡はきみと〜 / I Know』収録曲のひとつ。「What We Got 〜奇跡はきみと〜」はいかにもディズニーらしい夢の行進曲だが、EDM系ナンバー「I Know」とともに、新たな表情を見せるのがこのバラード「Deep Forest」だ。浮遊感のあるサウンドに乗る歌詞はメンバー髙橋海人によるもの。〈誰か気づいて〉〈朝が来る前に 消え去れたら〉といった迷いをストレートにさらけ出し、しかし相棒の永瀬廉と呼吸を重ねていくことで〈見知らぬ光のほうへ〉とゴールしていく、なんとも美しいワルツ。人間らしい逡巡を隠さないKing & Princeが今一番魅力的かもしれない。(石井)
FRUITS ZIPPER「ピポパポ」
8月2日のさいたまスーパーアリーナ公演の当日に「ふるっぱーりー!」とともに配信リリースされた「ピポパポ」は、FRUITS ZIPPERのアイデンティティをさらに明確にし、幅広い層のリスナーに向けて放ちまくる楽曲だ。真ん中にあるテーマはもちろん“NEW KAWAII”。反抗期も甘えん坊も食べすぎも泣き虫もみんな可愛くて、みんな素晴らしい。あらゆる人、あらゆる状況を肯定しまくり、ポジティブへと転化させる圧倒的なパワーは、このグループの真骨頂と言っていいだろう。ユーロビートのいなたさを2025年のポップミュージックへと昇華させたサウンドメイクと、どこまでも開放的なボーカルも絶好調。ガールクラッシュ系とはまったく違うアプローチで女性ファンを取り込むことに成功したFRUITS ZIPPERは、アイドルシーンの頂点をしっかりと掴もうとしている。(森)
※1:https://realsound.jp/movie/2025/07/post-2099721.html