水平線が見せたロックスターの片鱗――おとぎ話と繰り広げた夢のような一夜、自主企画『潮の目 -む-』東京公演を振り返る

 おとぎ話が生み出した余韻が漂うフロア。Creedence Clearwater Revivalの「Sailor's Lament」が会場に響くと水平線がステージに現れた。安東瑞登(Vo/Gt)が「水平線です、よろしく!」と言い、「ノスタルジア」でライブはキックオフした。1曲目から彼らの武器であるコーラスワークでフロアを自らのフィールドへと誘う。初期衝動的な音の葉はフレッシュでありながら、彼らの背骨には日本語ロックのDNAとUKオルタナティブなど多くの音楽ジャンルが混在していることが理解できる。「トーチソング」での衝動的なギタープレイは見事だが、かき鳴らされるサウンドの中心には、必ず安東と田嶋太一(Vo/Gt)の歌声がある。それが非常に心地好い。彼らの最新曲であり、ドラマ『晩酌の流儀4 〜夏編〜』(テレビ東京)OPテーマである「たまらないね!」を歌い終わる頃には、オーディエンスは彼らの虜。クラップが包むフロアで、安東が「いつもは土日にイベントを打っていたんですが、平日でもこんなにきてくれるんですね」と集まったオーディエンスの多さに驚き、感謝を伝える。そして、ゲストであるおとぎ話との出会いについて回顧しながら、「(おとぎ話の音楽は)心がぽかぽかするんです」「好きで観ていたバンドと対バンできることは、夢のあること。ずっと続けていきたい」と彼らへのリスペクトを言葉にすると、ギターの音色がフロアに響く。

 「シリウス」がスタートする。オーディエンスはステージから目を離せないでいる。田嶋と安東、異なる世界観を放つ声を持ったふたつの才能が織りなすハーモニー、水野龍之介(Ba)と川島無限(Dr)が支えるサウンド――。これは完全に私感だが、私は水野のベースが好きだ。クネクネと体を揺らしながら、ステージやフロアに視線を配り、圧倒的なベースサウンドを生み出している、その姿がとても魅力的なのだ。儚くも力強く歌い奏で、極上のバンドアンサンブルを「シリウス」で表現すると、間髪入れずに「かすみ草」へ。ピンスポットに照らされながら、安東がギターを爪弾く。彼の声を中心に広がっていくアンサンブル。田嶋のギターソロはアグレッシブながら、どこか我々に語りかけているようで、その世界観に浸れることが嬉しい。彼らの一挙手一投足から目が離せない、それほど強力な魅力を水平線は持ち合わせている。

 「好きなように楽しんでください」と田嶋の言葉を合図に始まった「潮の目」。インタールードの役割を持ったこの曲、青く光るステージの上で4人はスキルフルに音を奏でる。力強く我々の心に訴えかけるような川島の的確でヨレないビート、そこに乗っかるのはそれぞれの個性が光る竿隊の抜群なサウンド、田嶋の言葉通りそのサウンドに“好きに”乗るオーディエンス、最高な空間がO-nestで完成している。そのまま「Throwback」に移行すると、田嶋は歌声を轟かせた。衝動のなかにある静かな炎、水平線は静と動のバランスが素晴らしい。ライブは終盤戦、ラストに向けてさらに熱を帯びるフロア。「颱」で魅せた極上のコーラスワーク、声が重なることで生まれる強度たるや、凄まじいものがある。

 「無茶苦茶いい感じですやん! ほんまに嬉しいです!」と田嶋が今の気持ちを吐露する。そこから自主企画を長く続けたいという決意表明、そしておとぎ話を含む最高のロックバンドを越えていかないといけないという強い思いを言葉にし、「ここからどんどん大きくなっていきたいと思っています!」と「ロールオーヴァー」を投下。〈Let’s go ロックンロール!〉と声高らかに歌う彼らに、フロアは熱く拳を突き上げる。今目の前には未来の――それもそう遠くない未来――ロックスターがいる、圧巻のパフォーマンスを見せると、「Downtown」へ。「ラスト一曲です、自由に楽しんでください!」と安東が口にすると、オーディエンスは自由に踊り出す。ステージの上では縦横無尽に動き回る水平線、水野はステージを降りて自由にベースを奏でている。飛び跳ね、走り回り、この最高のライブはエンディングを迎えようとしている。自由に音と遊び、オーディエンスとはエネルギーの交換、彼らが作り上げた最高の空間で思うことはただひとつ。水平線はもっとすごいバンドになるということ。それほどまでに、圧倒的なライブを披露してくれたのだった。

 ライブが終わっても鳴り止まないクラップ。アンコールで再び登場すると、「次の東京でのライブはいつ?」と田嶋が安東に問うと「『サマソニ』です!」とひと言。すると大きな歓声がフロアを包んだ。『SUMMER SONIC 2025』に「出れんの!?サマソニ!?」を勝ち抜き出演を勝ち取った喜びをあらためてオーディエンスと分かち合う。「バンドをやっている期間は長いけど、水平線はようやく動き出したと言っても過言ではない。ここから新しい気持ちでやっていけたらと思います。最後にそういう曲をやって終わります!」と田嶋が言葉を紡ぎ、スタートしたのは「旅ははじまり」。たしかに彼らはまだ旅の途中だけれど、この日の彼らはロックスターの片鱗を見せていたと思う。あらためてスタートラインに立った水平線がこれからどんな音楽を生み出していくのか、そしてどんな旅を続けていくのか、未来が非常に楽しみだ。

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