HAN-KUN、もうひとつの名前“VOICE MAGICIAN”の本当の意味を探す旅――SKY-HIとの共鳴、原点回帰を語る
湘南乃風と並行してソロのレゲエアーティストとして精力的な活動を重ねているHAN-KUN。彼が追求している音楽性を注ぎ込み、創作意欲を全力で解放してきたアルバムのシリーズ『VOICE MAGICIAN』の第6作が、『VOICE MAGICIAN VI ~THE SIXTH SENSE~』だ。ダンスホール、オーセンティックレゲエ、トラップ、アマピアノなど、さまざまなエッセンスが融合している作品である。熱く踊れるビートから胸に沁みるメロディまで、多彩な作風を堪能できる今作に込められた想い、制作エピソードについてHAN-KUNに語ってもらった。(田中大)
自分の第六感的な部分を信じながら今までのステージに立ってきた
――『VOICE MAGICIAN』の第6作になります。このタイトルを掲げたアルバムのシリーズには、どのようなテーマがあるんでしょうか?
HAN-KUN:2008年にソロでメジャーデビューしたんですけど、自分のa.k.a.――自分でつけた異名が「VOICE MAGICIAN」だったんです。初めて自分で作った曲で韻を辿る過程で出てきて、意味は特にないノリで作った言葉だったんですよね。メジャーデビューするひとりのアーティストとして立っていくという意志表示も含めて、何かテーマ、コンセプチュアルな部分を設定したいと考えるなかで、「VOICE MAGICIAN」という言葉の本当の意味を探しにいく旅ができたらいいなあ、と。それが、このタイトルのアルバムの始まりでした。
――6枚のアルバムを作ってきたなかで、「VOICE MAGICIAN」の意味は見えてきましたか?
HAN-KUN:いまだに見つからないというのが正直なところです(笑)。もちろん聴いてくださる方々が俺の発声法とかスタイル、レゲエで言うところのディージェイ(Deejay)、HIPHOPで言うところのライム……ラップみたいな部分とシンガースタイルとの間の振り幅、高音から低音にかけての幅とかを「VOICE MAGICIAN」と称してくださったりはするんですけどね。そういう物理的な部分を「VOICE MAGICIAN」と言ってくださるのは嬉しいです。そこを伸ばしていきたいし、今も変わらずに努力しているのは間違いないです。でも、誰かと同じものはない唯一無二の楽器が喉だとしても、その人の生き様、生きてきた道のりによっても、声の色、ノリ、雰囲気はどんどん変わっていく。そこに関しての「VOICE MAGICIAN」という意味は見えてきてはいないです。でも、そういう部分が「VOICE MAGICIAN」の真の意味に繋がっていくのかなと今は思っています。
――今作のサブタイトルは、『THE SIXTH SENSE』ですね。
HAN-KUN:6枚目だからというのが最初の発想なんですけど、自分のなかで今回のアルバムは“原点回帰”という意味も含めているんです。ステージの上で燃える情熱のような想いをいかに表現して、お客さんの心に火をくべることができるのかが大切ですし、みんなが盛り上がってる姿も燃え上がる炎のようですよね。だから、“炎”がテーマのひとつとしてありました。そして、そういう炎を起こす現場を作る原動力の根本にあるのは、“好き”という想いだ。どういうステージングをするべきなのかも考えたんです。ステージは自分の武器だけど、その具体的な武器とは何なのかを思った時に、それはフリースタイル、アドリブ、空気を感じ取って素早くお客さんとのコミュニケーションに繋げられるところだと思いました。言い換えるならば“直感”、“第六感”。「THE SIXTH SENSE」の直感的なところに矢印を向けて、自分の第六感的な部分を信じながら今までのステージに立ってきたんだと感じたんです。
――ご自身の本質とじっくり向き合うなかで見えてきたことなんですね。
HAN-KUN:はい。今までの作品やステージは、“考えて作る”という部分もあったように思います。考えながら構成して作っていくよさと向き合いながら勉強した時期を経て、あらためてもともとの自分のスタイルである直感頼りに戻ったら、ステージや楽曲制作はどうなるのか、そこに興味があったんです。だから、フィーチャリングの曲も「一緒にやりたい」というタイミングとフィーリングを大切にして、オファーをさせていただきました。
――「HEAD SHOT feat. SKY-HI」は、今おっしゃったことがすごく表れていると思います。ラバダブ、フリースタイル感をとても感じます。
HAN-KUN:SKY-HIさんとは何度かお食事を重ねて、お互いの近況とか、これまでのバックボーンの話をしていたんです。おこがましいですけど、なんか重なる部分を感じたりして。お互いにずっとグループで活動してきて、ソロもやって、ソロで音楽をする意味と意義として俺らが共通して思っていたのは、シーンに対する感謝と愛情なんです。生きてきた道もルックスもまったく違うんですけどね(笑)。話を何度か重ねてから一緒にスタジオに入ったら、今までの会話をそのまんま歌詞に落とし込めました。その日のうちに全部仕上がって、そのスピードがラバダブ感、フリースタイル感に繋がったのかなと思います。
――偏見にもとづいていろいろ言われることをひっくり返しながら活動してきたという点で、通ずるものがあるふたりだなと、この曲を聴いて思いました。
HAN-KUN:そこが数少ない共通点、すごく大きなポイントだったというか。R&BやHIPHOP、レゲエをレベルミュージックと言うのであれば、俺たちのそういう“レベル”、“反骨心”は原動力。そこがこの曲の鍵になった気がします。
――誰かに何を言われたとしても、自分の心の声に忠実に生きるべきだというメッセージを感じる曲です。「DO IT」にも通ずる想いが込められているように感じました。
HAN-KUN:この曲に最初に触れたのは、2010年か2011年くらいだったかな? ジャマイカに行って、作り始めたんです。今までも制作のタイミングのたびに聴いてきて、今回のアルバムの制作をしている時にも「そういえばこんなのあったなあ」って。俺の気持ちの周期のなかでも、今回は丁度ハマって、今だからこそあの頃の気持ちと重なるものがあったというか。アップデートしたのは〈バカバカしいとか呟きPush it またX辺りでTweeting〉というところくらいです。根底にあるのは時代に対する怒り。作った頃の対象とはまた別だったりもするけど、抱いていた想いをより広い対象に向けられるようになりました。聴いてくれた人の気持ちを鼓舞するというか、自分の気持ちを代弁していると思って聴いてくれたら嬉しいです。
――サウンド面もアップデートしたんじゃないですか?
HAN-KUN:はい。もともとダンスホールだったんですけど、今のトレンドのトラップをミックスして作りました。
――尖ったサウンドのなかに盛り込まれているキャッチーなメロディの〈立ち上がるぜ 倒れたって行くぞ〉が、独特な雰囲気を醸し出しています。
HAN-KUN:ジャマイカのミュージシャンと一緒に作った時に出てきたメロディです。もともとはストリングスだったんですけど、そこに歌詞を当てて、できあがっていきました。大きなフックになってると思います。
――「Burn It Up」もサウンドの熱量がものすごいですね。
HAN-KUN:先ほどお話ししたような炎を想像して、現場を大炎上させるイメージです。今は“炎上”はネガティブワードになっちゃってますけど、俺にとってはめちゃくちゃポジティブワード。ネガティブなワードとしてとらえる人たちのマインドを燃やすという意味でも、攻撃的な言葉選びになってます。仲間に対しては、「スクラム組んで一緒に現場を燃やしてレゲエを大きくしていこうぜ」というメッセージだったりもします。
――〈くだらん概念 んなもん知るかボケ〉とか、痛快な言葉を連発してくれるので、非常にすっきりします。
HAN-KUN:ありがとうございます(笑)。優しい言葉が歌のなかで飛び交うのも素晴らしいですけど、自分の原点、音楽が好きになった理由って、言葉を選ばない言葉選びなんです。今回、そういう原点回帰をしているので、「怒ってるの、こいつ?」みたいな曲が多いかも(笑)。
――(笑)。トラックに導かれて強い言葉が出てくることもありますよね?
HAN-KUN:そうですね。支離滅裂になっちゃって軌道修正をすることもありますけど、今こうして会話させてもらってるように、言葉をメロディにのせる感覚に近いくらいの作り方を今回のアルバムはしています。