HAN-KUNが語る、初のカバーアルバムで目指した“J-POPとレゲエの架け橋”

HAN-KUNが繋ぐJ-POPとレゲエ

 HAN-KUN(湘南乃風)が初のカバーアルバム『Musical Ambassador』をリリースする。「湘南My Love」(TUBE)、「もっと強く抱きしめたなら」(WANDS)、「ひまわりの約束」(秦 基博)、「空も飛べるはず」(スピッツ)、「Tomorrow never knows」(Mr.Children)、「上を向いて歩こう」(坂本九)といった昭和、平成のヒット曲をレゲエアレンジでカバーした本作は、ジャマイカで制作。オーセンティックレゲエとJ-POPの名曲がナチュラルに融合し、「日本とジャマイカの音楽を繋げたい」というHAN-KUNの思いがしっかりと具現化されたアルバムとなった。ソロ活動10周年を迎えた彼に、『Musical Ambassador』の制作とレゲエに対する深く、強い思いについて聞いた。(森朋之)

HAN-KUN 「空も飛べるはず」【カバーアルバム『Musical Ambassador』5/29発売】
HAN-KUN 「あなたに」【カバーアルバム『Musical Ambassador』5/29発売】

レゲエはもともとカバーが盛んな文化

ーー初のカバーアルバム『Musical Ambassador』、素晴らしいです。オーセンティックなレゲエアレンジ、独特のボーカルを含めて、HAN-KUNにしか作れない作品だなと。

HAN-KUN:ありがとうございます。うれしいです。

ーーJ-POPのカバーアルバムというアイデアは、スタッフの方から出てきたものですか?

HAN-KUN:そうです。ソロ活動では、レゲエ、ブラックミュージックなどの自分のルーツを追いかけて、自分から出てきたメロディやメッセージを表現してきました。スタッフのみんなは自分がやりたいことを理解して、協力してくれているんですが、今回はどちらかというと、自分のアイデンティティは横に置いて、日本のなかで通ってきた道、過ごしてきた時間を一緒に感じられるような作品にしたくて。ずっと一緒に制作してきましたが、人生観、音楽観はそれぞれ違うわけで。お互いの距離をもっと近く感じられるようになるためには、カバーアルバムがいちばんいいだろうなと。もちろん、聴いてくださる方のことも考えて、J-POPの名曲を自分らしくカバーしてみたいと思ったんですよね。

ーー選曲もスタッフのみなさんと話しながら決めたんですか?

HAN-KUN:はい。みんなでカラオケに行って、「この曲、歌える?」とか、実際に歌ったことがある曲を改めて聴いてもらったり。そのなかで「これはハマるね」という曲をピックアップしながら、ディスカッションを重ねて、この10曲を選ばせてもらって。これ以外にも好きな曲、素敵な曲もたくさんあったんですけど、“自分の声で表現できる”という楽曲をカバーすることが、オリジナルを制作したアーティストのみなさんへのリスペクトになるのかなと。

ーー中心は90年代の楽曲。HAN-KUNさんが10代の頃のヒット曲ですね。

HAN-KUN:そうですね。当時は世の中に音楽が流れていた時代だし、自然に耳にすることも多くて。友達がカラオケで歌っているのもよく聴いていたし、ヒット曲、名曲に触れる機会が今よりも多かったと思うので。いまの自分と同じくらいの世代だと、お子さんをお持ちの方も多いと思うんですけど、下の世代のみなさんにもぜひ聴いてほしいですね。俺もそうでしたけど、親とドライブしているときに車の中で聴いた曲を覚えて、自然に好きになったりするじゃないですか。それと同じ現象が起きるといいなって。

ーーなるほど。サウンドの軸になっているのは、オーセンティックなレゲエ。ルーツミュージックの魅力を伝えるとともに、じっくりと歌を堪能できるアレンジですね。

HAN-KUN:自分のオリジナル曲の場合、“現場を盛り上げる”というのが一番のプライオリティになるんですよ。メッセージを入れつつ、ダンスホールやクラブに来てくれた人たちに楽しんでもらって、騒いでもらうのが大前提なんですが、今回のカバーアルバムは、世の中の人にレゲエをもっと知ってほしいという気持ちもあったし、俺に興味がなくて、「この曲が入ってるから聴いてみよう」という人にも届けたくて。タイトルに“アンバサダー”を入れさせてもらったのも、J-POPとレゲエを繋ぐことで、レゲエの入り口になれればいいなという意味なんです。

ーー「ミスチルの曲が入っている」というきっかけでアルバムを聴いた人に、オーセンティックレゲエの楽しさを知ってほしいと。

HAN-KUN:そうですね。レゲエってもともと、カバー文化が盛んなんです。ソウルの名曲などをカバーした楽曲も多いし、そこでさらに音楽の世界が広がるというか。俺はレゲエから入っているので、「すげえ好きな曲が、実はカバーだった」ということも結構あって。それを自分の音楽でも体現してみたかったんですよね。

ーーMr.Childrenの「Tomorrow never knows」にはトロピカルハウスのテイストも入っていて。

HAN-KUN:アルバムの大枠はオーセンティックなんですが、ずっと同じ雰囲気のサウンドだと、せっかくの名曲の違いが際立たないし、オリジナルの曲にも失礼になると思ったんですよね。どうしたらいいか悩んでるときに、一緒に制作していたトラックメイカーから出てきたのが、「『Tomorrow never knows』をトロピカルハウスのテイストでアレンジする」というアイデアで。現代的なアプローチだし、それもおもしろいなと。このアレンジはフロア映えするというか、DJのみなさんもつなぎやすいだろうし、もしこのトラックがダンスホールやクラブでかかったら、いちばん最高の出口だなって。

ーートロピカルハウスというジャンル自体、レゲエとかなり近いですからね。

HAN-KUN:本当にそうなんです。レゲトン、ソカの要素もあるし、トロピカルというくらいだから(笑)、南国の雰囲気があるというか。確かに親和性は強いですよね。

HAN-KUNが例年ジャマイカを訪れる理由

ーー制作はジャマイカ。HAN-KUNさんは毎年のようにジャマイカを訪れていますが、1年ごとに変化も感じていますか?

HAN-KUN:経済や社会情勢はそこまで変わってないというか、ある時期から安定していると思いますけど、ミュージシャンは目まぐるしく変わっているし、ずっと進化してますね。俺が毎年ジャマイカに行くのは、ずっと一緒に制作している現地のミュージシャンに対して、「いつか認めさせたい」という理由もあるんですよ。1年間、自分なりに努力を続けて、それをジャマイカの制作にぶつけて。それを自分の成長のものさしにしているというのかな。毎年「少しは縮まったかな」と思うんだけど、彼らは彼らで伸び続けているんですよね。時代にフィットしながら進んでいるし、一緒に音楽を作るたびに新しさを感じて。新しい世代のアーティストもどんどん出てきてますね。いまはKoffeeという19才の女の子がブレイクしていて、国中がフックしているような状態。意図的にムーブメントを作ろうという雰囲気もあって、それもすごくいいんですよね。

ーーレコーディングの現場にも若いクリエイターが多かったり?

HAN-KUN:あ、そうですね。エンジニアにしても、以前は大御所の方にお世話になっていたんですが、前回のソロアルバム(『VOICE MAGICIAN V ~DEEP IMPACT~』)から若い世代のミックスエンジニアと仕事をしていて。ジミー・クリフみたいなレジェンドとも一緒にやっているし、時間もきちんと守ってくれて、若いのにしっかりしてるんですよ(笑)。

ーー伝統もしっかり引き継がれているんですね。

HAN-KUN:はい。数年前からジャマイカではルーツリバイバルが起きていて、さっき言ったKoffeeもそのなかの一人なんです。そのムーブメントの中心的なアーティストにChronixxという人がいて。つい先日、彼の「I Can」という曲をアリシア・キーズがピアノ1本でカバーして、Instagramにアップしてたんですよね。ただただ「すげえ!」という感じですね。

ーーそういうニュースがもっと日本にも伝えられるといいですね……。

HAN-KUN:そう思います。ちょっと話がズレちゃうけど、ジャマイカの有名なアーティストが海外でライブをやると、自分以外の曲をけっこう歌うんですよね。彼らはすごくプライドが高いし、自分たちの音楽に誇りを持っていて。「なのに、どうして人の曲を歌うんだろう?」と思って、質問したことがあるんですよ。いろいろ話を聞かせてもらったんですけど、要は「自分が注目されることで、興味を持った人がジャマイカの音楽にもっと触れて、みんなが潤えばいい」ということなんですよね。だから、少しでもお客さんが知ってそうな曲を歌うんだと。その柔軟性もすごいですよね。

ーーHAN-KUNさんが今回のカバーアルバムでやろうとしていることも、かなり近いですよね。

HAN-KUN:現地のミュージシャンに直接教わったわけではないけど、自分で学んで、得てきたことを、カバーのなかで昇華できたらなと。さっき言ったカバーとレゲエの距離の近さもそうですけど、レゲエという音楽を通さないとできないカバーがあることを感じてもらえたらうれしいですね。

ーーJ−POPの名曲と向き合うことで、シンガーとしても新たな発見があったと思うのですが。

HAN-KUN:そうですね。メロディと歌詞をしっかり取り込んで、自分で綴って、歌ったかのように仕上げたくて。自分で作る場合は、韻を踏んだり、スキルを伝えるために早口で“間(ま)”を埋めることも多かったんですけど、今回カバーさせてもらった曲は“間”を大切にしているし、だからこそ、一行一行が心に残るんだなと感じて。韻を踏んでいないこともあって、こちらに話しかけるように歌っている感じもあったから、カバーするうえでもそこは大事にしていましたね。間の捉え方は自分にとっても新しい挑戦でした。

ーー音と音、言葉と言葉の“間”というのは、J−POPの特徴なんでしょうね。

HAN-KUN:レゲエも“間”の音楽なんですよね、じつは。自分レベルの解釈になっちゃいますけど、音楽はもちろん、エンターテインメントは間が命なのかなと。そのことはわかっていたつもりなんですが、自分の枠のなかだけでは気づけない部分もあって。J−POPの名曲をカバーすることで「なるほど」と思うことも多かったし、勉強になりましたね。

ーー「これはHAN-KUN節だな」と感じる部分もすごくありました。たとえば「ひまわりの約束」(秦 基博)なんて、完全に自分のものにしてますよね。

HAN-KUN:歌い方にクセが出ちゃってる感じですよね(笑)。原曲の良さを伝えることがいちばんなんですけど、そこにレゲエを添えることができないと、自分がやる意味がないというか。それはしっかり形にできたと思うし、あとはオリジナルを制作した方々に聴いてもらうことが、リスペクトにつながるのかなと。さっきの“間”の話もそうですけど、カバーアルバムを作ったことで、自分のオリジナル曲にもかなり影響があるんですよ。ジャマイカでも(カバーアルバムと並行して)オリジナルの制作もやっていたんですけど、それはすごく感じました。J-POPをカバーすることで、自分のなかに新しい感情が生まれることを期待してたんだけど、まさにその通りになったし、そこで見えた新しいものをオリジナルとして形にできたらなと。まだまだ途中ですけどね。

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