湘南乃風、レゲエへの葛藤や解散危機を乗り越えて築いた居場所 それぞれの思いが交差するデビュー20周年インタビュー
湘南乃風が8月12日に開催した『湘南乃風 二十周年記念公演「風祭り at 横浜スタジアム」』の模様が、WOWOWにて10月15日に放送・配信される。湘南乃風は、2003年7月30日にアルバム『湘南乃風~REAL RIDERS~』でメジャーデビュー。ダンスホールレゲエのリズムやエッセンスをJ-POPに落とし込んだ楽曲が注目を集め、「純恋歌」や「睡蓮花」などのヒットで一躍知られるようになった。
10周年のタイミングで開催された『十周年記念 横浜スタジアム伝説』以来となる、今回の横浜スタジアムでのライブは、「祭り」とタイトルについている通り、お祭りの神輿のようなセットでメンバーははっぴ風の衣装で登場し、メドレーやアンコールを含めて全33曲を披露した。
序盤から「COME AGAIN」や「爆音Breakers」などのナンバーで会場を熱くさせ、「曖歌」ではメンバーと一緒に歌う観客の声が会場にこだまする。「Summers」や「炎天夏」などの“夏ナンバー”では客席にウォーターキャノンを発射し、観客はびしょ濡れになりながらライブを楽しんだ。また、本編ラストでは「睡蓮花」の大合唱が会場に響き渡ったほか、アンコールでは生バンドによるロックサウンドで湘南乃風の新しいスタイルを提示し、21年目以降の湘南乃風に期待が高まる内容となった。
番組ではライブ映像と合わせて、このライブに寄せる思いを赤裸々に語った貴重なインタビューも放送する。そこから浮き彫りになったのは、決して一筋縄ではなかった、今回の横浜スタジアムへの道のりだ。20年を振り返る場面もあり、それぞれの思いが交錯する。(榑林史章)
「レゲエか、レゲエじゃないか」気持ちの落とし所を作れなかった(HAN-KUN)
ーー横浜スタジアム(以下、ハマスタ)でのライブ直前の心境はいかがですか?
HAN-KUN:リハーサルを3日間やって、みんなといろんな話をして、やっと実感が湧いてきました。徐々にスタジアムとの距離が縮まってきたところかなと思います。
ーーハマスタについては、どんな印象ですか?
HAN-KUN:言い方は間違っているかもしれないけれど、近所にある一番でかい場所(笑)。できれば地元・湘南でやりたい気持ちがあって、大きく見て神奈川県が俺たちの地元だとしたら、その中で横浜スタジアムは聖地だから。そこが自分たちの帰る場所になったのはすごく喜ばしいことだし、帰らなきゃいけない場所でもある。それが今の俺たちから見た、横浜スタジアムです。
ーー二十周年記念公演『風祭り』を開催するにあたって、どんなお気持ちですか?
HAN-KUN:『風祭り』というタイトルだから、少しでも“お祭り”にできるように、みんなが一心不乱に楽しめる部分をイメージしています。その上で、届けたい、残したいメッセージもあるから、それをいかに届けるかもポイントです。汗を流して一心不乱に踊って楽しんだ先に、初めて心に少し余裕ができて、もしかしたら誰かが流してくれる、汗の代わりの涙があったらうれしい。心に埋まったピースを大切なお土産として持って帰ってもらって、それがまた明日から始まる新しい人生の活力になってくれればいいなと思います。
ーーアンコールでは生バンドとの共演もあります。
HAN-KUN:若旦那から提案があって、「それいいじゃん!」となって。限られた曲数なので、自分たちのアイデンティティを強く打ち出したいと思って、これまでやってきたダンスホールレゲエのマナーから学んだ、バンドアレンジをみんなに聴いてほしいです。4人でやるステージで、バンドでやったことがなかったから、そこは楽しみつつもどこか挑戦する気持ちもあります。メンバーとそういったスタイルでライブができる機会はなかなかないので、湘南乃風としてバンドでできるのは楽しみですね。
ーー今のメンバーとの関係性はどのような感じでしょうか。
HAN-KUN:これは俺たちに限らず、友達同士でも家族でも兄弟でも夫婦でも、一定のバイオリズムがあると思っていて、離れる時もあるし近い時もある。そのバイオリズムで言うと、今はすごくいい周期なのかなって思います。いい周期で距離が近づいたからこそ、気になることや思うこともあるから、それを強くぶつけ合う瞬間もあるけど、それを包み込む空気感もあって。いい周期の中で起きている事柄の一つとして横浜スタジアムがあるんじゃないかなと思います。
ーーコロナ禍を経てという部分では、どんな気持ちでしょうか。
HAN-KUN:コロナ禍の時は、様々な方から「俺はこう思っているけどHAN-KUNはどんな感じなの?」といった連絡がたくさん来ました。良くも悪くも空いた期間が適正な距離感を構築してくれた気がします。近ければいいとか、遠いと悪いということではなく、それぞれとの距離感がある種リセットできて、そこからリスタートできたと思います。いい関係の距離を保ちながら、それを崩さない。これ以上踏み込んだら、またお互いの思いをぶつけ合う瞬間が生まれるかもしれないけど。それが良いか悪いかは別として、思いをぶつけ合うことも、もちろん大切だけど必要以上にぶつけ合わなくていい距離感を、お互いが何となく感じながら今やれているというのがあります。
ーーハマスタのセットリストから思い入れのある1曲を選んでください。
HAN-KUN:「恋時雨」です。正直最初は、めちゃくちゃ嫌いでした。それで言ったら「純恋歌」もそうでした。歌ってリリースもさせてもらっているのに、「何を言ってるんだ」という話ですけど(笑)。葛藤してリリースに至ったし、ライブで歌っても最初の頃は、どうしても気持ちが乗らなかった。「純恋歌」の時もそうだったけど、「レゲエか、レゲエじゃないか」をずっと考えていて、気持ちの落とし所をずっと作れなかったんです。制作はさせてもらっていたけど、歌詞とかメロディとかじゃなくて、この曲に納得いかないみたいな。それまでの曲でもレゲエじゃない曲はあったけど、どこかにつながりを見つけて、どこか落とし所があったと思いますが、これは完全に違っていた。レゲエ界に対して「俺はもう何も言えなくなった」みたいな。
湘南乃風としての自分の立ち位置はどうしようとかいろいろ悩みました。その時点の俺には「レゲエ界か、湘南乃風か」の二択しかなかったけど、自分は一緒に歩んできた仲間を取って、その結果として今があるんです。その中で俺はレゲエをやっていけばいいと思うようになって。そういう葛藤の中で曲を書くのは辛かったけど、俺もちょっとズルくて、できあがった楽曲が良いかどうかのジャッジは別の感覚だったので、曲自体は良いと思ったりもしていて。聴いてくださる方がいて、その方が喜んでくれて、実際にライブ会場で涙を浮かべてくださっているのを目の当たりにすると、自分の中で感覚がいい意味でちょっとねじれてくるんです。お客さんに対する感謝やありがたみ、この曲があったから今歌える喜びを感じて、そうやって思いが重なっていった時、いつしか俺の中で「恋時雨」が湘南乃風の楽曲の中で一番好きな曲に変わっていました。
その時から湘南乃風というアーティストの曲たちの見え方、色がガラッと変わりました。20周年にあたってメロディだけとか歌詞だけを読む時があるんですけど、「当時の俺たちも結構いい歌詞書いているじゃん!」って(笑)。こんな思いを持っていた俺ともみんなは一緒にやってくれて、本当にありがたいなって。振り返って「いいな」と思える曲を、一緒に作ってくれていたんだなって。
ーーHAN-KUNさんにとっての湘南乃風とは?
HAN-KUN:家族みたいな、湘南乃風という家かな。それこそ戻る場所であり、実家みたいな感じ。家出もしちゃうけど(笑)。
ーー未来にはどんな思いを馳せていますか?
HAN-KUN:20周年イヤーは日本武道館から始まり、ツアーがあって、今現在の気持ちで言うと“楽しくやっていけたらいいな”というのはすごくあります。楽観的かもしれないし、もっとストイックに向き合って良い曲を作るとか、いろいろあるかもしれないけど。でも何より、仲良しこよしという意味ではないけど、みんなで楽しく、過去を振り返りながら笑い合いながら曲を書いて、「良い曲ができたらいいね」というくらいの感じ。アイリー(幸せ、嬉しい、楽しい)な空気というか。もちろん強いメッセージやハードな部分も書いていくけど、そういうマインドの俺たちが紡ぐ言葉が、どう成長していくかを今後は楽しみにしたいです。