keinは“現在進行形”のロックバンドだ――未来へ向かうためのツアー『delusional inflammation』を振り返る

 kein再結成後に多く耳にする話題として、楽曲のテイストの変化という声が挙がるだろう。しかしながら、それは必然であり、地続きで続いてきたバンドではないからこその面白さなのではないかと筆者は考える。20年以上前の初期衝動を詰め込んだ楽曲と、解散後それぞれがいくつかのバンド活動を経てミュージシャンとして得た経験を還元した新曲、その空白を埋めるのがkein以外の活動で培ってきたものなのだから、否が応にも変化せざるを得ないし、変化していなければ、きっとkeinの再結成は叶わなかっただろう。空白の22年間で各々が腕を磨き、Sallyが加わった新体制で一流の音楽家として再び集まった時に、keinという幹に対してそれぞれが放射線状に別の方向を向きながら音を重ねるのが彼らのスタンスで、「どんな音楽をやるか」ではなく、「このメンバーが鳴らすもの」「このメンバーによる化学反応と混濁」こそがkeinというバンドの定義であり、“らしさ”なのだ。

眞呼(Vo)

 逆説的に言えば、当時の楽曲に宿る初期衝動は当時だからこそ出せたものであり、それはそれで現在のkeinでは作ることができないものであることにほかならない。イントロの前に人差し指を口元に当てて会場を鎮めてからプレイした「君の心電図」やキラーチューン「グラミー」では、当時と変わらない、もはやそれ以上の熱量でフロアが熱狂する。その様子は楽曲が時代を超えたことを証明したようにも思う。そういった意味では、この稀有なバンドの過去と現在を繋ぐ楽曲が、本編ラストに演奏された「波状」なのかもしれない。音源を超える眞呼の叫びにも似た文字通りの絶唱と、それに呼応するようにエモーショナルなアレンジの効いたaieのギターソロは圧巻で、間違いなくこの日いちばんのハイライトであった。その凄まじさは彼らがステージから去った後の拍手の大きさが物語っていた。

 凄まじいボリュームのアンコールの声に再びステージに舞い戻った彼らは「Be Loved Darlin’」、「an Ferris Wheel」と初期の楽曲を立て続けにお見舞いし、極め付けに「keen scare syndrome」でとどめを刺すと、眞呼は最高潮に達したフロアに対してオフマイクで「最高だ! ありがとう!」と言い、ステージを後にした。しかし、場内の客電がついたにも関わらず、熱にあてられたオーディエンスのアンコールは鳴り止まない。5人はまたステージに戻ってきた。keinの真骨頂とも言える「暖炉の果実」で正真正銘のラストとし、「10月に会いましょう」という言葉を残してこの日のライブは幕を下ろした。

 去り際の言葉の通り、10月にツアーの追加公演がSpotify O-WESTにて行われることが決定したわけだが、この日会場入りしてから追加公演の検討を始め、開演の10分前に決まったというのだから驚きである。それと同時に、つくづく“持ってる”バンドだなと思わざるを得ないのだ。しかしながら、今回のツアーをもってセットリストを構成する楽曲が再結成後の新曲のほうが多くなったことで、keinというバンドが来年以降を見据え、ようやく現在進行形のバンドとしてスタートラインに立ったという事実とその手応えこそが、追加公演に結実したことは間違いない。

 この新人でありベテランでもあるという特殊な立ち位置にいる唯一無二のバンド・keinが、それぞれの経験を還元するための器であるとするならば、メンバー各々が並行して別の活動を行っていく限り、“らしさ”はさらに広がり、バンドの可能性もより拡大していくことになるだろう。この感覚は普段なかなか手にできるものではないのだが、奇しくも最新作となる『delusional inflammation』においてもリスペクトを示していたのはLUNA SEAやBUCK∞TICKであり、結果としてバンドの本質までも敬意を表す形となるのはさすがとしか言いようがない。keinが彼らたちのように、ほかのどこにもないバンドとして、万華鏡のように見るたびにその見え方が変わる特別な存在になっていくのだろうという予感が確信に変わった刺激的な夜だった。

※1:https://realsound.jp/2025/07/post-2083526.html

<セットリスト>
01. 斧と初恋
02. リフレイン
03. Spiral
04. 幻想
05. Toy Boy
06. 絶望
07. 幾何学模様
08. 思い出の意味
09. 嘘
10. FLASHBACK THE NEWSMAN
11. Puppet
12. Rose Dale
13. 君の心電図
14. グラミー
15. 晴レノチアメ
16. 波状

EN01. Be Loved Darlin'
EN02. an Ferris Wheel
EN03. keen scare syndrome

WEN01. 暖炉の果実

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