King Gnu「TWILIGHT!!!」はなぜ『名探偵コナン』のすべてを描いたのか? ストーリーと完全な共鳴
『隻眼の残像』における最大のテーマとは、“大切な人の喪失”だ。本作のキーマンとなる大和敢助と上原由衣、諸伏高明、その弟である景光、毛利小五郎と本作のオリジナルキャラクターで小五郎の元同僚で警部の鮫谷浩二、そして本作で重要な鍵を握る銃砲店強盗傷害事件の関係者である舟久保英三とその娘である真希――。本作ではさまざまなキャラクターにとっての大切な人の喪失が、物語における重要な要素として描かれる。とりわけ、以前事件の調査中に雪崩に巻き込まれ行方不明となった大和と、想い人であったはずの大和が死んだと思い込み、別の事件の真相を探るためにほかの人物と結婚したというバックグラウンドを持つ由衣、刑事時代の同僚だった鮫谷の射殺現場に居合わせた小五郎と、それぞれのキャラクターの大切な人を失う経験がストーリーで重要な鍵を握っている。
これは『隻眼の残像』に限った話ではなく『名探偵コナン』というシリーズそのものにおいて重要なテーマだ。ほかでもない江戸川コナン=工藤新一がその正体について周囲の人間に隠しているのは、まわりの人間に危害が及ぶ(=大切な人を失う)ことを危惧してのことだが、毛利蘭にとってはこの新一の選択によって、いつだってそばにいた新一がある日突然姿を見せなくなるという、結果的に大切な人を失うに近い状況だ。劇場版10作目『探偵たちの鎮魂歌(レクイエム)』でも、犯人の伊藤末彦が「愛する人を失くすことがどんなに辛いか」とコナンに説くシーンがある。何よりも殺人をはじめとした“事件”を取り扱う『名探偵コナン』シリーズにおいて、“人を失う”ということは常に描かれ続けている事象だとも言えるだろう。
主題歌であるKing Gnu「TWILIGHT!!!」は、そんな『隻眼の残像』ひいては『名探偵コナン』シリーズの根幹を成すテーマを描いている。〈行かない行かない行かないで〉〈足りない足りないあなたが〉というフレーズは、たしかに“大切な人の喪失”を歌っている。〈悔やんでも帰っては来ないならBYE BYE BYE〉〈もう届かない過去は思い出の侭〉〈お願い逢いたいわ〉など、キャッチーでありながらもシリアスなフレーズが一層聴く者の胸を刺すとともに、『隻眼の残像』における大和や由衣、高明と景光、小五郎と鮫谷、そして『名探偵コナン』シリーズにおける数多の愛する人の喪失を思い起こさせるのだ。
そのうえでKing Gnuは、〈明けない夜はない〉と高らかに歌い上げる。それは、愛する人を失うという絶望の先にも希望は残されているのだというメッセージ。『名探偵コナン』だけでなく、この世界における悲しみ、憎しみ、苦しみ……そうしたこの世界で生きる我々をとりまくすべての感情に連なるメッセージと言っていいだろう。
また、〈点と点を繋いで夜空を結んで〉というフレーズは『隻眼の残像』終盤における灰原哀による天文台のレーザー投影描写を彷彿とさせる。〈正体は/ちっぽけ〉というフレーズにコナンや灰原をリンクさせつつも、すぐ後ろに〈だもの誰しも〉と続くことで人間の儚さ・無力さを説いていると言えそうだ。アニメ『名探偵コナン』シリーズにおけるCM前後での扉のサウンドエフェクトは、リリース当初大きな話題を呼んだが、そこにはKing Gnuらしいミクスチャー性を交えつつも遊び心も感じさせる。テーマだけでなく、細かな歌詞フレーズや細部のサウンドに至るまで『名探偵コナン』尽くしの楽曲となったのが、この「TWILIGHT!!!」なのだ。
これまでの劇場版『名探偵コナン』主題歌を振り返ってみても、これほどまでに歌詞、サウンドで『コナン』に接近した楽曲は例がない。それは『名探偵コナン』シリーズそのものがこれほどまでに国民的作品としての地位を確立しただけでなく、なにより『名探偵コナン』世代とも言えるであろうKing Gnuメンバーが、遊び心と『コナン』へのリスペクトをもって楽曲制作に挑んだからこそだろう。劇場版『名探偵コナン』シリーズの主題歌の歴史に大きな跡を残したKing Gnu。『名探偵コナン』ファンの筆者としては、もう今から来年誰が主題歌を担当するのかが楽しみである。それと同時に、音楽ファンとしても「TWILIGHT!!!」以降のKing Gnuの動向にも期待したいところだ。