Penthouseの真骨頂は熟練を越えた“愛嬌” 初武道館ワンマン発表で歓喜に満ちたツアー『Midnight Diner』

Penthouse『Midnight Diner』レポート

 開演から2時間が経とうとしていた。アンコール。まさに割れんばかりと形容するに相応しい大喝采がステージに降り注いでいた。

 6月12日、木曜日。平日の東京国際フォーラム ホールAが満員の観客で埋め尽くされていた。アンコールに応え再びステージに姿を現したPenthouseのメンバー。グッズ紹介の後に待っていたのは、この日最大のサプライズ。「告知があります」という浪岡真太郎(Vo/Gt)の言葉を受けて、ステージの左右に設けられた巨大なスクリーンに浮かんだのは「Penthouse」のロゴ。続いて『Penthouse 単独公演 “City Soul Society”』の写真から、歴代のアーティスト写真やMVなど、彼らの歴史が映し出されていく。次の瞬間に表れたのは、こんな文字だった。

「2026」「03.16.」「日本武道館」

 Penthouse初の日本武道館ライブ『Penthouse ONE MAN LIVE in 日本武道館 “By The Fireplace”』を2026年3月16日に開催することが発表されたのだ。満員の客席が歓喜する。その様子に「本当に嬉しい。めっちゃ楽しみ」と浪岡。大島真帆(Vo)は「本当に皆さんがここまで連れてきてくれました、ありがとう」と感謝を述べた。

大島真帆(Vo)
浪岡真太郎(Vo/Gt)

 2025年5月20日の大阪公演を皮切りにスタートしたワンマンツアー『Penthouse ONE MAN LIVE TOUR 2025 “Midnight Diner”』を完走したPenthouse。日本全国5都市と台北にて行われた本ツアーは、国内ではすべてホール会場で、グループにとっても最大規模の動員のツアーとなっている。今回レポートしているのは、その東京公演。シングル曲を中心に、既発のアルバム曲からもセレクトされたセットリストは、先に述べたスクリーン映像のように、これまでの彼らの軌跡をたどる、まさに“今のベストオブPenthouse”という内容であった。

 Penthouseは、東京大学の音楽サークルで出会った男女6人によって2018年に結成された“シティソウル”バンド。ハイペースなリリースを保ちながら、どの曲も非常によく練られており、リリースを重ねる度にポップスとしてのクオリティと普遍性がどんどん増してきている。この日の客席も、老若男女じつに幅広い客層であった。

 ライブタイトルにある“Diner”を模したライブセット。ステージ後方のバーカウンターの横にはジュークボックスが置かれている。ライブは、メンバー6人に加え、ホーンセクション3人、パーカッション1人、コーラス2人の合計12人という布陣でスタート。往年のファンクバンドを彷彿とさせるような分厚い編成だ。「フライデーズハイ」などアップチューンを続けて、序盤から観客のテンションを一気にマックスに持っていく。曲の途中、大原拓真(Ba)がステージ中央で大島と背中合わせになり、メロディと同じフレーズを弾くなど、観ている側も思わずニヤリとするようなPenthouseらしい見せ場も飛び出した。熟練、でもそう感じさせない愛嬌が、Penthouseというバンドの大きな魅力のひとつだ。

 「真夜中の秘密のパーティがコンセプト」だと浪岡がMCで語ったとおり、グルーヴィなナンバーでグイグイ観客を引っ張っていく前半。ラップパートで浪岡が流暢な英語を聴かせたかと思えば、大島は高音でヘッドボイスをスパーンと響かせる。洒脱なミディアムチューンでリズムに合わせて小粋なステップを踏んでいた大島は、グランドピアノを演奏しているCateen(Pf)に歩み寄り、その椅子の端に腰かけて歌う。矢野慎太郎(Gt)はステージ前に出てきてギターソロを披露。非常にタッチが柔らかく、音色も繊細。オーセンティックなフレーズにきらめきを添える。ステージ右側、前方に設置されたドラムセット。タイトなリズムを刻む平井辰典(Dr)は、スネアやタムの叩く位置、シンバルを止める左手の位置もすべて同じながら、余韻(響き方)を叩き方で調整しているのがわかる。浪岡に至っては、ギターを弾き、スタンドマイクやハンドマイクを自在に操りながらボーカリスト&パフォーマーとしての実力をいかんなく発揮。ローボイスの安定感や声圧の一定感など、ライブでなければわからない新たな発見もあった。

Cateen(Pf)
大原拓真(Ba)

 中盤、恒例のカバー曲コーナー。Cateenがグランドピアノの前でスタンバイする。ミュージカル部出身の大島が選んだのは映画『ウィキッド ふたりの魔女』から、エルファバ役のシンシア・エリヴォがミシェル・ヨーと歌った「The Wizard And I」。大島曰く「(ミュージカル部で)緑の魔女の役をどうしてもやりたくて。勝ち取った」という思い入れのある1曲だ。発音も変え、ミュージカル然としたアプローチで聴かせる大島。伸びやかな歌声に聴き入っていたが、驚いたのはラストの声量。ボリューム最大をこの瞬間までとっておいたのかと思わせる見事なボーカルで魅せた。

矢野慎太郎(Gt)
平井辰典(Dr)

 浪岡がステージに上がると、「SNSを見てくれている人はわかると思いますが、最近ギターばっかり弾いていて……」と語りながら、ギターを肩にかけスツールに腰掛ける。「去年からギターを2本買ったんです。買ってよかった」と言った後、話は買ってよかったものへ展開。浪岡曰く「段ボールストッカー。ぜひ皆さんも」という一言に、観客は半分ぽかーん。しかし「次のグッズで段ボールストッカー出します、自分のために」という浪岡の畳みかけに客席は大爆笑となった。Cateenのピアノ、浪岡のギターで披露された曲は、アリシア・キーズ&ジョン・メイヤーのカバー「If I Ain't Got You / Gravity」。浪岡の歌声はこの2年くらいで変化が見られ、初期はハードロックに通ずるようなハスキーなハイトーン、そしてそこを踏襲した掠れた声を生かす中低音をメインに勝負していたように思うが、最近は“掠れ”を出さずに歌うパターンも増えてきた。ハイトーンでもクリアな高音を聴かせることが多い。少し力を抜いて歌うことで響かせ方にバリエーションを加えているのだろう。途中から大島もステージに現れ、アリシア・キーズのパートを歌唱。他のメンバーも曲の途中から順次スタンバイし、「恋標」へつないでいった。この曲では浪岡と大島の高音が交差し、時には溶け合うように楽曲を彩っていく。バンドアンサンブルが丁寧に、そして大胆に楽曲を描写し、音源よりも優美なスケールを感じさせた。歌と演奏の実力に、全身が“耳”になった瞬間だった。

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