いそうでいなかった女性アーティストの誕生――浜野はるき、アルバム『NET BaBY』で鳴らす新時代のポップ

 いそうでいなかった、女性アーティスト――。

 浜野はるきの初となるアルバム『NET BaBY』を聴いて、まずそう感じた。

 「CuL」や「Princess GaL」、「ギジコイ」といった楽曲がTikTokでバイラルし、MVはどれもカラフルでキュート。Y2Kやギャル文化といったモチーフも随所に取り入れられ、クリエイティブ全体からは確かな時代感覚が滲んでいる。恋愛によって生まれる感情を、ポップで親しみやすい言葉に落とし込むそのスタイルは、かつての西野カナを彷彿とさせる部分もある。

浜野はるき - Princess GaL (Official Music Video)
浜野はるき - ギジコイ (Official Music Video)

 と、ここまで聞くと、よくいる流行りの女性アーティストのように思われるかもしれない。

 けれども、浜野はるきは決して一筋縄ではいかない。彼女の歌は、従来の恋愛ソングのフレームでは片づけられないからだ。恋の情感をポップに描く点では、前述した通り西野カナの系譜にはあるが、浜野はるきはそこに毒気をほんのりと織り交ぜることで、現代的な刹那性を表現している。

 SNS時代の恋愛とは、自己演出と承認欲求が交差する場だ。彼女の言葉選びやビジュアル演出には、そうした風景をどこか斜めから見るような、ひとひねりある視点が宿っている。その背景には、経歴も関係しているのだろう。キャバ嬢として働く現場を通じて得た言葉のリアリティ、視線の交わし方。そこには、水商売的なHIPHOPのリアリズムもある。ただしそれは、決して生々しさに寄りかかるものではなく、あくまでロールプレイ的に取り入れられている印象だ。つまり、“演じることで守る”という、夜の世界の処世術のようなもの。たとえば〈CuLってるの!/私狂ってるの♡/可愛さと狂気が取り柄なの〉といった一癖ある歌詞には、そんな演出の妙が光っている。

浜野はるき - CuL (Official Music Video)

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