連載「lit!」第151回:≠ME、FRUITS ZIPPER、可憐なアイボリー……令和のアイドルが奏でるラブソングの現在形
Rain Tree「つまり」
2025年1月に秋元康プロデュースのもと楽曲「I L U」でデビューした17人組アイドルグループ・Rain Tree。そんな彼女たちが5月28日にリリースする2ndデジタルシングル曲「つまり」は、前作の幻想的な世界観を継承しながらも、より感情に寄り添ったラブソングへとフォーカスを移した作品だ。作曲・編曲は川口進が手がけており、サウンドも含めてRain Treeの“静かなる熱量”を映し出す構造となっている。この曲で描かれる愛は“支える愛”“見守る愛”であり、アイドルソングの中でも比較的珍しいスタンスを取っている。
Rain Treeが持つ魅力は、派手さではなく、丁寧に紡がれた世界観と、そこに込められた感情の“静かな強さ”にある。「つまり」ではより日常に根ざした優しさが前景化しており、グループの引き出しの多さと方向性の明確さが改めて浮き彫りとなった。「つまり」のような楽曲が、何気ない日々の中でふと耳に残り、聴く人の心にそっと寄り添い続けることこそ、Rain Treeというグループの核心なのではないだろうかと思う。
カラフルスクリーム「クロネッカーの青春の彩り」
関西発のアイドルグループとして、地元に根ざした活動を続けてきたカラフルスクリームが、2025年6月4日、徳間ジャパンからのメジャーデビューシングルとして放つのが『クロネッカーの青春の彩り』だ。
これまで“かわいさ”や“エモーショナルな衝動”を軸にライブパフォーマンスを磨き上げてきた彼女たちが、新たに提示したのは、「共に成長しながら問題を解いていく関係性」としての“愛”の形だった。タイトルに冠された「クロネッカー」は、19世紀の数学者レオポルト・クロネッカーに由来する。作詞を手がけた上田ゆう子は、〈Q&A〉〈Try & Try〉〈x, y, z〉〈グラフ〉といった数学用語を織り交ぜながら、恋愛や青春を“解き明かすべき未知の問題”として捉える歌詞を構築。これに正垣和則によるアグレッシブなエレクトロダンストラックが加わることで、知的かつ高揚感のあるサウンドスケープが完成した。メジャーデビューのタイミングでこのような挑戦的な楽曲を選んだ背景には、彼女たちが“唯一無二の立ち位置”を確立しようとする強い意志がうかがえる。
可憐なアイボリー『それは好きってこと / 恋のガイドブック』
2025年6月4日、可憐なアイボリーが満を持してメジャー1stシングル『それは好きってこと / 恋のガイドブック』をリリースする。サウンドプロデュースは、10代~20代を中心に圧倒的な支持を誇るクリエイターユニット・HoneyWorks。青春、恋、自己肯定感といったテーマを鮮やかにすくい取るその筆致は、今作でも健在だ。
「それは好きってこと」は、社会の中で浮かび上がる違和感や自己否定に揺れる若者の心をまっすぐにすくい上げる楽曲だ。もう一方の表題曲「恋のガイドブック」は、初恋の甘酸っぱさや“まだ名前のない感情”を描いたピュアなラブソング。〈心拍数が上がる/恋がつつく〉〈知りたいってこと/好きだってこと?〉というリリックには、恋の始まりに感じる些細な違和や戸惑いが繊細に織り込まれている。
この二曲に共通するのは、「誰かを好きになる前に、自分自身をどう肯定するか」という問いかけである。HoneyWorksが提示したこの二面性は、アイドルソングが抱えがちな“恋=他者依存”という構図から一歩踏み出し、現代のリスナーにとってリアルな感情に寄り添ってくれている。