LET ME KNOW、前例なき挑戦への意欲 UKロックやJ-POPを鮮やかに織り交ぜた“ノスタルジックモダン”に迫る
曖昧な心の輪郭を、淡く、優しくなぞるように。3ピースバンド LET ME KNOWの音楽には、聴き手それぞれの記憶や感情にそっと触れるような余白がある。ダンサブルな「偽愛とハイボール」で注目を集めた昨年から、彼らはSNS時代ならではの発信力を駆使しながら、等身大の表現を丁寧に積み重ねてきた。
新作『Svveet Pea』(4月23日リリース)に収められた3曲では、例えば「阿呆みたい」や「My ex, Bandman」のように、より私的で内省的なモチーフに踏み込んだ曲もある。恋愛の余韻や喪失感、すれ違いの気配を女性目線で描いた歌詞。ポストパンクやチルウェーブの空気を帯びたサウンド。すべてが“LET ME KNOWの現在”を静かに照らし出している。
「誰も歩いていない道を、自分たちなりに歩いていきたい」。そう語る彼らが見つめるのは、既存のどこにも属さない“自分たちだけの景色”。結成の経緯から、制作の裏側、SNSとの向き合い方、そして目指す未来まで。Matty(Vo)、Ken_M(Gt)、Lyo(Dr)の3人が言葉を重ねたインタビューをお届けする。(黒田隆憲)
洋楽/邦楽や年代問わず影響を受けた幅広いルーツ
──まず、結成の経緯を教えてください。
Lyo:僕とKen_Mは双子で、以前は同じバンドで活動していました。そのバンドが解散したあと、「またバンドをやりたいね」ということでボーカルを探し始めたんです。SNSでたくさんのボーカリストを見たのですが、なかなかピンとくる人がいなくて。そんな中で、たまたまMattyの動画が流れてきて「この人しかいない」と直感的に思いました。
Matty:もともと僕は、大学生の頃から歌っている動画を趣味でSNSに投稿していました。活動というほどではなかったんですけど、好きなタイミングで歌ってアップするような感じだったのをたまたま見つけてくれて。
Lyo:それでKen_MがInstagramのDMを通じてMattyに連絡を取ったところ、ちょうどMattyも「バンドをやりたい」と思っていたタイミングだったみたいで。そこから一気に話が進みました。
──ちなみにKen_MさんとLyoさんが以前やっていたバンドは、どんなスタイルだったんですか?
Lyo:一言でいうと、Coldplayに影響を受けたようなスケール感のあるサウンドを目指していました。今よりも、もう少し派手で壮大な雰囲気だったと思いますね。音楽性としてはかなり幅広くいろいろと試していました。僕たち自身の音楽の入り口はL'Arc〜en〜Cielで、そこから彼らの影響源であるUKのバンドを自然と聴くようになっていったんです。
Ken_M:UKロックにもいろんな形がありますけど、どちらかというと、僕はディストーションの効いた音よりも、クリーンなサウンドのほうが好みですね。The Smithsのジョニー・マーとか大好きでした。
──Mattyさんはどんな音楽を聴いて育ってきたんですか?
Matty:Oasisとかが好きですね。僕はブラジルとイタリアと日本のミックスで、ブラジルに3年くらい住んでいた時期があるのでポルトガル語の曲とかも聴くんですけど、ブラジル発祥のファンキっていうジャンルが好きです。日本の音楽も、松田聖子、サザンオールスターズ、岡村靖幸、Mr.Children、back number、Saucy Dog、優里とか……新旧問わずいろんなものを漁ってよく聴いてます。「今の生活のシーンには、この年代のサウンドが合うな」「今の感情にはこの音楽が合うな」みたいにシチュエーションごとにいろんな音楽を聴きますね。作詞は昔の日本の音楽からも影響を受けていると思います。
──松本隆さんとか、お好きだったりしますか。
Matty:好きですね。ちょうど昨日も「松本隆Works」(Spotifyのプレイリスト)を聴いてました。
リアルな体験とドリーミーなサウンドが絡んだ新境地
──では、今回の作品『Svveet Pea』についてお伺いします。本作は、これまでのLET ME KNOWの楽曲とはまた少し違った印象がありました。このあたりの音楽的な変化は、どのようにして訪れたのでしょうか。
Lyo:僕ら、去年はわりと立て続けに楽曲をリリースしていたんですけど、例えば「偽愛とハイボール」のような、ダンサブルで1980年代の香りが強い華やかな曲が多くて。その後も制作自体はずっと続けていて、次のリリースが2025年の春くらいになりそうだとわかった時に、季節感に合わせて少しゆったりした、チルっぽいものをやってみるのもいいんじゃないかと。そういう意味ではメンバー内で自然な流れで方向性が決まっていきましたね。
──なるほど。表題曲「Svveet Pea」の歌詞に〈春の風を/Stay,be with me/待つスイートピーの葉のように〉という一節がありますよね。先ほど松本隆さんの話も出ましたが、どこか松田聖子さんの「赤いスイートピー」を彷彿とさせるもので。これは意図的なオマージュだったのですか?
Matty:いや、特に意識していたわけではないですね。「赤いスイートピー」は僕もすごく好きな曲なので、もしかしたら無意識に刷り込まれていたのかもしれないけど。実際には、スイートピーの花言葉を調べていた時に思いついた歌詞です。「門出」「別離」「永遠の喜び」「優しい思い出」といった花言葉があって、そこから「待つ」というテーマを盛り込もうと。もう会えないけれど、心のどこかでまだ待ってしまう。時間が経つと、その思い出がどんどん美化され、「優しい思い出」に変わっていくような、そんな心の動きを描いた曲になっています。
──アレンジやサウンドプロダクションのリファレンスはありましたか?
Ken_M:「Svveet Pea」は、例えばBeach HouseやCocteau Twinsなどのドリームポップのような、浮遊感があって音の輪郭がぼやけているようなサウンドを目指しました。
──続く「阿呆みたい」は、まずタイトルが印象的です。
Lyo:この曲も、最初はMattyが弾き語りの状態で持ってきて。そこから僕とKen_Mがリファレンスを探したり、方向性を話し合ったりしながらアレンジを詰めていきました。
Matty:曲を作っていて最初に出てきたのが「I know 阿呆みたい」というフレーズで、そこから自然に世界観を広げていきました。韻の踏み方も、メロディに乗せる中で感覚的に出てきたもので、物語を練るというよりは、自分の実体験や友人から聞いた話など、“リアル”な感情をベースに書いていく感じでしたね。
──〈恋とは程遠い/愛とも違う気がする〉という歌詞も実体験から出てきたもの?
Matty:そうですね。女性目線で書いてはいますが、あくまでリアルな経験をベースにしています。もう恋人らしさは残ってないし、かといって“愛があるからこその距離”とも言えない。相手がもう、自分のことを好きじゃないと本当はわかっている、だけどそれをまだ認めたくなくて気持ちに蓋をしている。そんな感情を描いた曲です。
僕もそのタイプかもしれないですが、一直線に恋愛をする人って相手がもう冷めているのに気づかないふりをしてしまうことってあるじゃないですか。女の子の友達からも、「もう絶対好きじゃないとわかっているのに、それでも離れられない」みたいな恋愛の話をよく聞いていたので、そういう感情も取り入れました。
──〈私が私じゃなくなってく〉という一節も、その一つ?
Matty:そうです。「やめといたほうがいい」とわかっていても、結局離れられない。周りからも止められるけど、恋は盲目というか。2番の歌詞には、そういう心の崩れ方みたいなものを、自分なりにうまく込められたんじゃないかなと思っています。
──ギターの音色やシンセの質感もとても印象的でした。音作りの面で意識したことは?
Ken_M:音数は全体的に少なめに抑えていて、ギターはかなり意図的に作り込みました。使ったのはジャズマスターのリアピックアップで、あえて“痩せた”音にしたかったんです。そこに、フランジャーのようなモジュレーション系のエフェクターをうっすらかけて奥行きを出しています。シンセの音色はちょっと迷ったんですが、派手すぎると曲のイメージから外れてしまうので、パキッとしすぎない柔らかいトーンを意識しました。
Lyo:今回の3曲って、それぞれムードは違うんですけど、僕たちの根本にある“ノスタルジックモダン”というテーマと、感情の流れとしては地続きになっている。「阿呆みたい」は特に、今まで自分たちがあまり表現してこなかったポストパンクっぽいテイストに挑戦していて、新鮮さもありましたね。
──ライブでも定番曲の「My ex, Bandman」は、Mattyさんが学生時代に作ったそうですね。
Matty:2022年くらいに作った曲です。僕自身もまだバンドを始めてなかったので、「バンドマンって、こんな感じなのかな?」みたいな。いわゆるちょっとチャラめのバンドマンを想像しながら書きました(笑)。大学時代は友人5人とシェアハウスに住んでいたのですが、部屋も狭く古着の匂いが漂っていたりして。恋人と昼下がりにうたた寝したり、朝帰りして怒られたり……(笑)。そんな、なんでもない日常をベースにした曲です。
──ストーリーはフィクションだけど、描かれている情景や感情のディテールは、Mattyさん自身の記憶をコラージュのように散りばめているのですね。サウンドは全体的にローファイな質感というか、ざらついた手触りを感じます。
Ken_M:音作りにはかなり時間をかけました。3曲ともテープマシンを通して音にわずかな揺らぎを加え、ローファイな質感に仕上げています。「阿呆みたい」もそうですが、あえてラジカセで録ったみたいなデモテープ感のある音作りを目指しました。
Lyo:僕らは常に、いろんな年代の要素を混ぜることで新しい何かを生み出そうとしていて。その姿勢がまさに、「ノスタルジックモダン」というLET ME KNOWのコンセプトにも繋がっているんですよね。