氷川きよしが刷新するジェンダーを超越したアーティスト像 KIINAとして貫く“セルフラブ”の意味
約1年8カ月の音楽活動休止を経て、昨年8月に音楽活動を再開。『NHK紅白歌合戦』への出場も話題を集めた歌手・氷川きよしが、再開後初のシングル『Party of Monsters』を6月4日にリリース。表題曲の「Party of Monsters/氷川きよし with t.komuro」(4月6日にデジタルリリース)は、4月から放送されているTVアニメ『ゲゲゲの鬼太郎 私の愛した歴代ゲゲゲ』エンディングテーマとしてだけでなく、氷川のラップや、環境や多様性の問題に斬り込んだ歌詞が話題になっている。
同曲は小室哲哉が作詞・作曲・プロデュースを務めたテクノチューンで、曲中では氷川がラップを繰り広げていることも話題だが、注目は小室が手がけた歌詞だろう。妖怪の目から見た人間の愚かさが綴られ、戦争や温暖化の問題など混迷を極める世界情勢やネットの問題、ジェンダーの問題など、さまざまなメッセージを歌詞に託している。小室はTM NETWORKのメンバーである木根尚登を介して氷川と交流があり、いいタイミングがあればお互いコラボがしたいと考えていたが、今作がそのタイミングだった。「Party of Monsters」の2番の歌詞には、〈魔界の宴は妖怪だらけさ 奇異な眼なんてどこにもないから 遊びにおいでよ〉と出てくる。氷川の別名義であるKIINAと重ねながら、文字通り世の中の奇異な眼に苦しんだ氷川の気持ちを代弁し、肯定してくれているように受け取ることができる。
こうした表現の面からもアーティスト性の高さをうかがい知ることができる氷川だが、自らの中からメッセージを生み出すことのできる、アーティストとしての才能を芽吹かせたのは、2020年にリリースした初のポップスアルバム『Papillon(パピヨン)-ボヘミアン・ラプソデイ-』に収録の「Never give up」で、kii名義で初の作詞にチャレンジしたことだ。同曲は、親交があったシンガーソングライター上田正樹が作曲を手がけた、ファンクテイストのR&Bナンバー。幼少時代の思いを重ねながら、〈自分を生きてゆこう〉〈声を出して叫ぼう〉〈強くなってゆこう〉と、コンプレックスを克服する強さや、恐れず自分自身のままで生きたいという願いを前向きに歌い上げている。
このアルバム『Papillon(パピヨン)』には、ジェンダーという呪縛からの解放を、オペラのように歌い上げたクイーンの名曲「ボヘミアン・ラプソディ」のカバーも収録されており、氷川が作詞した「Never give up」は、同曲へのアンサーであることが感じられる。両曲を続けて聴けば、彼が伝えようとする、自分自身のことやそこに込められたメッセージをより強く感じることができるだろう。また、表題曲の「Papillon(パピヨン)」では、さなぎが蝶へと成長する様子と、歌の主人公が愛を糧に光輝く様子を重ねて歌った。MVでは、まゆに囚われた氷川が、まゆを破って金色の衣装を身に纏って出てくるシーンが印象的だ。氷川の世界観が詰まった映像美も、アーティスト・氷川きよしのセンスと才能の賜物だ。