Ado「こんな私が夢を叶えられたんだから、きっと未来は大丈夫」 世界ツアー開幕、残された祈りへの挑戦
4月27日、さいたまスーパーアリーナで行われたAdoによるワンマンライブ。『Ado JAPAN TOUR 2024「モナ・リザの横顔」』以来となる単独公演だが、知ってのとおり今回は“ただの”ワンマンライブではない。全世界30都市以上、動員予定数は50万人超え、日本人アーティストとして過去最大規模となる2度目の世界ツアー『Ado WORLD TOUR 2025 “Hibana”』のキックオフという、大きな意味を持つ2日間なのだ。
本編最後のMCで「行ってきます!」と力強く告げるAdoに送られた歓声と拍手も、まるでサッカーのサポーターがチームに届けるエールのようだった。そう、これはAdoとAdoのファンによる巨大な“壮行会”。『モナ・リザの横顔』では、むしろAdo自身のパーソナリティや物語に焦点を当てることでアーティストとして新たな一歩を踏み出した彼女だが、今回さいたまスーパーアリーナで見せたのは、多くの“同志”からの期待を背に戦いに挑んでいく、タフなファイターとしての一面だった。
初めてライブを行う場所が多くブッキングされたツアーにふさわしく、さいたま(日本)公演ではステージセットから演出、そしてセットリストに至るまで、すべてがAdoがどこからきてどこに向かうのかをはっきりと指し示すものだった。たとえば、今回のステージはパソコンとスマートフォンがモチーフ。巨大なラップトップが開き、ステージが現れるという演出は圧巻だった。のちのMCで自身が語っていた通り、Adoの出発点は狭いクローゼットのなかで開いたラップトップの画面が放つ光だった。そこから始まった彼女の歌声はインターネットを通じて世界中に響き渡り、これほどの景色を生み出すところまできたのである。そこに込められた自負とプライドと決意を、そのステージセットは象徴していたように思う。
さいたま(日本)公演でのセットリストも同様だ。何せ、1曲目がいきなり「うっせぇわ」なのである。『モナ・リザの横顔』ではあえてセットリストから外していたであろうこの曲から始めるということが、このライブの性格を物語っている。だが驚いたのは、その曲順だけではない。バンドのソリッドなサウンドに乗せて歌い出したAdoの声がとんでもない迫力だったのだ。どこまでも前のめりで力のこもったその声は、これまで観てきたAdoとは明らかに違っているように聞こえてきた。「うまく歌う」とか「正しく歌う」とかとはまったく別のベクトルで、ひたすら感情を解放していくような歌だ。それは、続く「ラッキー・ブルート」でも同じ。Adoの歌に感化されるように、客席からも大声量のシンガロングが巻き起こる。巨大なボックスのなかで寝そべったり、かと思えば走り回ったり。当然シルエットではあるが、めちゃくちゃアグレッシブにパフォーマンスしていることはその躍動っぷりから伝わってくる。一転、「ギラギラ」で蝶のように舞いながら深みのある歌を届けたのも束の間、「Adoです。みなさん、ようこそ!」という挨拶から突入した「唱」では再び野性的なパフォーマンスを見せつける。ステージ左右のスマホ型のLEDビジョンにAdoの姿をとらえた映像が映し出されると、客席の熱狂はさらに高まっていくのだった。
てにをはによる美しいメロディが強烈に印象に残る「エルフ」では、MVを彷彿とさせるクジャクの羽根のモチーフがスクリーンいっぱいに広がり、「Value」では煌めく水面の映像をバックにスケールの大きな歌が響き渡る。曲ごとに景色を変えながらも、それを貫くAdoの歌声はまったくブレることがない。強い意思に裏打ちされた“Ado”という一本の芯でさまざまなサウンドを貫いていくような、頼もしい歌だ。その芯があるからこそ、Adoは挑み続けることができる――それを教えてくれるようにここで鳴り響いたのが、「Stay Gold」である。アニメ『BEYBLADE X』(テレビ東京系)のエンディングテーマとして、イギリスのハウスDJ/プロデューサー、ジャックス・ジョーンズとのコラボで生まれた楽曲だ。アニメのエンディングでは日本語詞の部分が採用されているが、この曲の大半は英語詞。Adoにとって初めての挑戦である。高揚感のあるトラックと伸びやかな歌声にさいたまスーパーアリーナは祝祭のようなムードに包まれた。
その後、映画『ONE PIECE FILM RED』でウタとして歌った「ウタカタララバイ」や『Adoの歌ってみたアルバム』でカバーしたボカロP・きくおの楽曲「愛して愛して愛して」と、Adoのキャリアを総括するような楽曲が続き、ライブは早くも終盤へ。叫びのような歌が楽曲の魅力を最大限にブーストさせる「逆光」で再び会場のボルテージをぶち上げると、ここでAdoが歌い出した曲に客席がどよめいた。満月の映像を背負って歌われるその曲は「ザネリ」。オリジナルはてにをはが2021年に発表したボカロ曲であり、Adoはこの曲をカバーし、2022年8月にこのさいたまスーパーアリーナで行われた『Ado 2ndライブ「カムパネルラ」』でも歌っていたのである。そんな「ザネリ」を終え、スクリーンにはAdoの足元が映し出される。そこにあるのは巨大なキーボード。Adoが次々とキーを踏むと、画面には「hibana」とこのツアーのタイトルが入力される。続けてスペースバーを踏むと、「hibana」はカタカナに変換された。「ヒバナ」。そして歌われるのはDECO*27の「ヒバナ」のカバーである。ツアー開始前日に突如この曲の“歌ってみた”動画がアップされてファンに驚きを与えていたのは、ここで歌うためだったのである。ここにきての“歌ってみた”2連発は、「この文化を世界に伝えていく」というAdoの決意表明だろう。そのメラメラと燃える決意が、この日のライブをこれほどまでに前のめりなものにしていたのかもしれない。