Official髭男dism、レア曲満載のFC限定ライブ インディーズデビュー10周年、これからも続いていく音楽の旅路

まるで人間のように肉体も精神も変化していくのがバンドなのだな、とごく当然のことを、しかし明快にこの1年のOfficial髭男dism(以下、ヒゲダン)は証明した。昨年7月にZepp Hanedaで開催した「UNOFFICIAL」と銘打った初のFC限定ライブ『one-man live 2024 -UNOFFICIAL-』は休養明けの爆発しそうなエネルギーを湛え、その後、最新アルバム『Rejoice』を掲げて全国を回った『Official髭男dism Arena Tour 2024 - Rejoice -』を完遂。昨年のFCライブから1年9カ月。いま初のスタジアムライブを目前に控える彼らはこの日、インディーズデビュー10周年というトピックを携えつつ、これまでよりこれからのほうが長くなりそうな音楽の旅路を予感させてくれたと思う。
4月24日、神奈川・KT Zepp Yokohamaにて行われた『Official髭男dism one-man live 2025 -UNOFFICIAL-』。インディーズ時代の楽曲も含むレア選曲、いつも以上にメンバー間のフランクさが窺えるMC、この日から参加したコーラスメンバー。過去最多人数の総勢14名が勢揃いし、しかも大所帯のイメージとは相反するソフトな耳あたりの音響、さらにアンコールではリクエストをその場で募り披露。こう列挙するといかにもプレミアムライブらしさが際立つが、新曲リリースごとに高度な音楽的チャレンジを見せ、強力な音響の本編ツアーも、今回のような味わい深く、愛すべきレパートリーを耳にやさしい音像で届けるライブもおそらく彼らにとっては等しく重要なはず。筆者は2階席で観ていたのだが、親子席も設けられたそこでは会話できるぐらいの音量で、しかもそれが気にならなかった。海外のポップスだと通常の感覚だろう。圧倒するだけではない、ポップスとしての高度なライブのあり方だ。
おなじみMy Chemical Romanceの「Welcome To the Black Parade」がボリュームアップしながらエンディングを迎え、サポートメンバー、メンバーが凄まじい歓声で迎えられると、スターターは意外すぎたのか小笹大輔(Gt)が弾くイントロに「おおっ?」と声が上がった「Amazing」。続く「ペンディング・マシーン」ではシンセベースを弾いていた楢﨑誠(Ba/Sax)が途中からバリトンサックスを演奏。管の分厚いアンサンブルと3声のコーラスがAOR/ファンクテイストのこの曲の完成度を上げていく。働く男性のやるせなさと奮い立つ勇気を感じながら、メンバーだけの演奏で「コーヒーとシロップ」に繋いでいく。複雑に構築する曲ももちろん素晴らしいが、歌詞が素直に入ってくるメロディもヒゲダンの大きな強みであり、そのことを再認識する。
最初のMCで藤原聡(Vo/Key)は「先に言っとくけど今日のセットリストはかなり珍しいです。初めて来た人にはかなり特殊なセットリストです」という説明に、待ってましたとばかりに起きる歓声にファンの期待値が窺える。すでに100曲近いレパートリーを持ち、メジャーデビュー前の曲も広く聴かれているヒゲダンに向けられるリアクションとしてはもっともだ。
今のライブアレンジでさらにジャジーな味付けに進化した「バッドフォーミー」、小笹のスライドが映える「ビンテージ」、松浦匡希(Dr)のデッドなスネアサウンドに唸らされたネオソウルフレーバーの「Bedroom Talk」。どの曲も繊細なプレイがしっかり届くバランスのいい音像で、そのことでファンにとって共感度の高い歌詞、例えば「ビンテージ」の〈キレイとは傷跡がないことじゃない/傷さえ愛しいというキセキだ〉といったフレーズがダイレクトに響く。
演奏を終えると再び「と、いう感じなんだわ、今日は」と、藤原。たぶんファンは笑顔で頷いているはずだ。その後、比較的ユルいMCを展開。フロアに交通手段を訪ねたり、駐車場料金のばらつきがあることが発覚したり、遠く沖縄から足を運んだファンもいたりして、会場全体の空気が温まる。懐かしい曲の演奏に際して記憶力の高い小笹に羨望の眼差しが向けられ、藤原は学生でデビューした小笹を企業に就職していたとしてもきっと優秀だったはずだと言う。が、当の小笹は「ヒゲダンの中で優秀なだけ」だと断じて笑いが起きる。松浦が「(優秀さを)ちょっと分けてくれる?」と言うと、小笹が「(松浦の)穏やかさを分けてほしい」と返す。珍しくステージ上で仲のいいところを見せていると、藤原が「今日の雰囲気好きー」と、ファンの共感を呼ぶというスパイラルが起きていた。