BEGIN、武道館を“地元の公民館”のような親しみやすさに 一体感で包み込んだデビュー35周年公演ライブ
沖縄県・石垣島出身の3人組バンド、BEGINのデビュー35周年を記念した公演、『さにしゃんサンゴSHOW !! 』が3月30日、日本武道館で開催された。彼らが本会場でライブを開催するのは、2011年以来14年ぶりで、これが3回目となる。チケットは即完し、1万人の観客が集まった。直前の22日には大阪城ホール公演も開催されており、合わせて2万1000人が35周年を祝ったことになる。比嘉栄昇(Vo)、島袋優(Gt / Vo)、上地等(Key / Vo)というBEGINの3人がステージに登場すると、歓声と拍手とともに、指笛も鳴り響いた。指笛は沖縄の音楽には欠かせない表現で、エイサーや祝いの席で用いられているものだ。「今日は皆さんがBEGINです。皆さんを喜ばせるために、お祝いの宴を開きます」と比嘉が挨拶をして、ライブが始まった。
オープニングナンバーは盆マルシャのアレンジが施された「東京音頭」だった。盆マルシャとはBEGINが生み出した、盆踊りとブラジルのマルシャとを融合した音楽で、老若男女が踊りながら楽しめる点が特徴的だ。サポートメンバーのベース、ドラム、太鼓、さらに日本盆踊り協会のゆかた姿の踊り手12名も参加してのにぎやかな始まりとなった。比嘉の朗々とした歌声が会場内に明るい空気をもたらしていく。上地のアコーディオンが入ることで、懐かしくもノスタルジックな空気も漂った。「わっしょいわっしょい」という島袋のかけ声に乗って、観客が踊ったり、手拍子をしたりしていた。さらに渋谷ハチ公生誕100年を記念して制作された「渋谷百年総踊り」が演奏された。100年先の繁栄への思いが込められた歌は、35周年の祝いの宴にもぴったりだ。
お祭りのような盛り上がりから一転して、3人のみでの演奏で初期のナンバーと代表曲が披露された。上地のピアノと島袋のカズーで始まった「いつものように」では、観客も手拍子で参加。明るい曲調だが、かすかにせつなさが滲む。客席からリクエストの声がかかり、「春のゴンドラ」「声のおまもりください」など一部を即興で演奏する場面もあった。さらに“日本の歌百選”にもなっている「涙そうそう」が演奏され、繊細な歌声と丹念な演奏に聴き惚れた。間奏で拍手が起こると、「ここは日本武道館ですけど、地元の公民館だと思ってください」と比嘉。その言葉に説得力があったのは、彼らの歌が寄り添ってくれているように近くで響いてきたからだ。
中盤はバンドのメンバーも参加して、沖縄にちなんだ曲が6曲演奏された。比嘉が三線を弾きながら歌ったのは「三線の花」だ。島袋と上地が「イーヤーサーサー」と掛け声をかけている。生命力あふれる歌と演奏によって、こちらの体内にもエネルギーが満ちていくようだ。島袋が三線を弾きながら歌った「海の声」では、素朴で真っ直ぐな歌声に胸を揺さぶられた。トロピカルなコーラスが楽しい「砂糖てんぷら」、2本のウクレレとアコーディオンでの「アサイーボウル」、コール&レスポンスが起こった「笑顔のまんま」など、ヒューマンな歌と演奏を堪能した。沖縄音楽に加えて、ブルース、ロック、カントリー&ウェスタン、ハワイアン、サンバ、スカなど、BEGINの多彩なルーツミュージックもうかがえる。音楽への探究心が旺盛でありながら、難解にならず、老若男女、誰でもが楽しめる、親しみやすさを備えている点も、彼らの音楽の魅力だ。
「35年をどうやって祝おうかと考えた時に、歌を作るのがいいかなと考えたので、新曲を3曲やります」と比嘉。7年ぶりのアルバムを制作中であること、一昨年にツアースタッフが亡くなり、そのことを歌わないと先に進めないと思ったことなどのMCがあり、「太陽」「ただ雲になる」「ほなバイバイ~大阪マドロス女~」と、新曲3曲が披露された。「太陽」はタフさと温かさを備えた歌声と力強く刻まれるビートが印象的なナンバーだ。〈俺の太陽はお前の笑い顔さ〉というフレーズに胸を打たれた。
武道館がお祭りの会場のようになったのは「マルシャメドレー」だ。BEGINのオリジナル曲である「バルーン」で始まり、マルシャのアレンジが施された「365歩のマーチ」「上を向いて歩こう」「お祭りマンボ」「勝手にシンドバッド」「銀河鉄道999」などの名曲が次から次へとノンストップで繰り出されていく。ステージ上では宮城姉妹がサンバを披露し、客席では巨大なバルーンが跳びはね、比嘉、島袋、上地が順に歌い、比嘉の次男の健二朗がメインボーカルを取る場面もあった。ちなみにドラムは比嘉の長男の舜太朗だ。メドレーの最後は彼らのオリジナル曲の「ソウセイ」。どんどんテンポが上がり、〈流せ汗〉という歌詞どおりに、観客も踊りまくってのフィニッシュとなった。この歌の中に〈オリオンビール〉が登場することもあって、客席でオリオンビールの名前の入った提灯がたくさん揺れていた。全員が参加して一緒に作り上げたステージとなったのは、BEGINの音楽が人懐こくてフレンドリーだからだろう。