映秀。が観客を巻き込んで作り上げる一つの音楽 最新ツアー東京公演で感じたアーティストとしての信念

 今年1月に通算3枚目のアルバム『音の雨、言葉は傘、今から君と会う。』をリリースしたシンガーソングライターの映秀。が、アルバムを引っさげた東名阪クアトロツアー『映秀。CLUB QUATTRO TOUR “音の雨、言葉は傘、今から君と会う。”』のファイナル公演を、東京・SHIBUYA CLUB QUATTROにて開催した。「これまで以上に言葉を大切にした作品」とアルバムリリース時に行ったインタビューで話していただけあり、この日のライブも映秀。の持つ歌の力や言葉へのこだわりを最大限に活かしたシンプルかつダイナミックなパフォーマンスを、彼が全幅の信頼を置くサポートメンバーたちと共に繰り広げていた(※1)。

映秀。

 春の訪れを感じさせるような、うららかな週末。土曜日とはいえ、この日の開演は17時と割と早めの時間帯だったにも関わらず、会場となるSHIBUYA CLUB QUATTROのフロアにはたくさんのオーディエンスが駆けつけていた。定刻となり、暗転したステージにサポートメンバーの杉村謙心(Gt)、榎本響(Key)、山本修也(Ba)、山近拓音(Dr)が登場。遅れて映秀。が姿を現すと、フロアから大きな拍手と歓声が響き渡った。

 アコースティックギターを抱え、まずはアルバム『音の雨、言葉は傘、今から君と会う。』でも冒頭を飾る「まほうのことば」からこの日のライブはスタート。榎本のシンプルなピアノに導かれ、映秀。の柔らかな歌声がフロアを包み込むと、その場の空気が一変する。そしてその声を引き立てるよう音数を絞り込んだシンプルなバンドサウンドが、オーディエンスの心を徐々に温めていく。

 続く「涙のキセキ」は山近のタイトなドラムと、その上でドライブする山本のメロディックなベース、そしてエッジの効いた杉村のカッティングギターが心を弾ませるポップチューン。リズムに合わせ、フロアのあちこちで自然発生的にハンドクラップが鳴らされる。

「どうもこんにちは、映秀。です! 『音の雨、言葉は傘、今から君と会う。』にお越しくださり、本当にありがとうございます。今日はメンバー一同、『君』に会いに来ました。どうぞよろしく!」

 バンドのイントロに合わせ、映秀。がそう叫ぶと会場からは大きな歓声が上がる。そして披露したのは「ほどほどにぎゅっとして」。ワウを通したクラヴィネットのフレーズが印象的な、ジャクソン5やシュープリームスといったモータウンのアーティストをも彷彿とさせるソウルチューンだ。映秀。はギターを下ろし、ハンドマイクでステージを練り歩きながら、バンドのキメに合わせて全身でグルーヴを表現している。

 「あれ? なんか緊張してるんじゃないの? そんなのぜーんぶ吹っ飛ばして一緒に『音楽』しようぜ!」そうシャウトし「Boys & Girls」へ。まるでジェットコースターに乗ってあちこち振り回されているような、目まぐるしく展開していく曲構成が楽しい。映秀。も軽やかにステップを踏みながら、満面の笑みをオーディエンスに投げかけ歌い踊っている。その姿にオーディエンスの心も開かれていく。

 「改めまして映秀。です。今日は来てくれて本当にありがとう」と挨拶をすると、再び大きな拍手が湧き起こる。「今回のアルバムは、タイトルにある通り『言葉』を大切に作りました。1音1音に込めた言葉、思い、考えが、一つでも皆さんの心の中に残って帰ってくれたら嬉しいなと思うのと同時に、それがみんなの生活の『傘』になりますように。そんな思いで今日はライブをしたいと思います」

 そして演奏したのは2021年リリースの1stアルバム『第壱楽章』から「ハ茶メ茶オ茶メ」。クラシカルなピアノのイントロに導かれ、ハネるリズムとヒネリの効いたコード進行、その上で跳躍するメロディが印象的な、映秀。の持つ豊かな音楽性をぎっしり詰め込んだ楽曲だ。途中、山近のドラムが激しくバーストすると、フロアのあちこちからどよめきにも似た歓声が飛び交った。

 ラップのような、ポエトリーリーディングのような映秀。のフロウが印象的な「東京散歩」では、サビの掛け合いフレーズをシンガロング。途中でスウィングビートに切り替わり、ランニングベースに乗せ榎本のジャジーなピアノソロが繰り出されたかと思えば、後半では杉村の熱いギターソロが放たれるなど、バンドの見せ場も随所に散りばめられている。

 「昔の曲なんですけど、今回のツアーで初めて演奏します」そう映秀。が言い、榎本の弾くイントロのエレピが鳴り響くと悲鳴にも似た歓声が。トラックメイカー南雲ゆうきの楽曲に「フィーチャリング」という形で彼が参加した、2020年リリースの楽曲「僕等の秘密遊園地」だ。ラップとメロディのあわいをたゆたう平歌から、サビで抜けるようなファルセットボイスを聴かせると、フロアは一気にヒートアップ。続く「喝采」は、2021年リリースの2ndアルバム『第弐楽章 -青藍-』収録曲。KING CRIMSONばりのヘヴィなギターリフを軸に、大胆なリズムチェンジを繰り返すプログレッシブなアンサンブルに圧倒される。

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