KREVA、『Project K』に凝縮された時代の必然性 AI技術を駆使した制作、環境の変化を経た今の心境に迫る
『Project K』は“クリエイティビティ”を歌った作品に
――リリックを生成AIで書くというのはどうでした?
KREVA:「Forever Student」をアルバムにしようと思っていた時に「『Forever Student』というアルバムに収録されている曲、どんなのがありますか?」っていうプロンプトを書いて聞いてみたんだけど、全然使えるレベルではなかったですかね。ただ、ヒントにはなると思います。たとえば「IWAOU」の〈I Break Free and Celebrate!〉というのは生成AIが作ったフレーズなんですよ。「自由になって自分を祝う」ってなんだそれ、ヤバいなと思って、それをテーマにして歌詞を書きました。そういう使い方に関してもAIに助けられましたね。テーマがなかなかキャッチできなかった時に、AIが生成したフレーズがテーマになる。しかもそれをピッタリ歌詞にフィットした声ネタとして使える、そういうのもありました。
――トラックはどんどん作れるけれど、歌いたいことや歌うべきことを見つけること、それを精度高く射抜くことが難しいって、いつもインタビューで言っていますよね。それは生成AIを使うようになっても変わらない?
KREVA:変わらない。結局、みんなが検索しているもの、打ち込んでいるものの集合体だから、すごく長く丁寧に答えを出してくれるんだけど、薄い感じがするんですよね。心に届かないというか。韻に関しても俺が思っているレベルのものは出てこない。ただ、音楽を作ることに関しては、世の中にある音楽の“正解”をたくさん聴いてるからだと思うんだけど、すごい精度で出せるようになっていると思います。
――アルバムを聴いての印象なんですが、すごくラップ濃度の高いアルバムだなと思いました。これに関してはどういうイメージがあったんでしょうか。
KREVA:レコード会社のスタッフが「ラップのアルバムを聴きたい」という話をしてたのは、頭の片隅にあったと思います。ただ、そうしようと決めて曲を作っていたわけではないです。その時はあまり歌ってる感じの自分が好きじゃなかったというか、イメージが湧かなかった。ラップをした方が精度高くいいもの見せられるなという実感があったので、ラップが多くなってきたんじゃないかなと思います。
――リードトラックの「No Limit」はどのように生まれた曲でしょうか。
KREVA:だいぶ前からこの曲は持っていて。事務所を辞めた時に、スタジオごとなくなるから機材の整理をしようと思って、ずっと使っていなかったものを売る前に一応触っておくかと思って動かしてみたら、そこにめちゃくちゃいい音が入ってたので、そのプリセット音で作りました。結局、その機材は売らなかったです。
――リリックに関してはどうでしょうか。
KREVA:今回のアルバムはクリエイティビティのことを歌っているものがほとんどだと思うんですけど、「No Limit」に関してもそうですね。「スピード出していこうぜ」とかそういう話じゃなくて、自分の居場所とか作り方とか、「お前それでいいの?」っていうことについての話になってると思います。
――「口から今、心。」はどうですか?
KREVA:毎朝文章を書いてるんだけど、その時に“唸る”ってどうやって書くんだっけ? と筆が止まったことがあって。後で調べると“口+今+心”で“唸る”になるんだと気付いて。これは曲のテーマになるぞと思ったのがきっかけです。でも、思いついた感じのラップにフィットするトラックがなかったので、BACHLOGICにお願いして。そうしたら150曲ぐらい送られてきて驚きましたが、その中から選ばせてもらいました。
――この曲はまさに“唸っている”ボイスが入っているわけですが、これは最初のアイデアからあったんですね。
KREVA:そう。「口から今、心。」で唸ればフックになるなっていうのはありました。
――「IWAOU」はどうでしょうか。これもクリエイティビティについての曲ですね。
KREVA:そうですね。俺は音楽だけど、客商売とかに関しても当てはまるかもしれない。工夫してもっとよくしようみたいなことが、全体に言いたかったことなんじゃないかなと思いますね。
――「New Phase」はどのように作っていきましたか。
KREVA:これは歌詞を何回か直しましたね。トラックはAIで作ったサンプルのチョップフリップが上手くいったんだけど、言葉が出てくるまでが苦労した感じです。たとえば事務所から独立することのゴタゴタがあって歌詞を書いてるのに違うことを考えなきゃいけないとか、「よし、今から録るか」と思ったら母の病院から電話がかかってきて、お見舞いに行って、そこで余命はこれくらいだと告げられて、でもやっぱり歌詞を書きたい、どうすんだみたいなグラグラがあったりして。なかなか難しい部分があったんだけど、その都度ずっとスタジオに行って、ひたすら向き合って、自分から新しいフェーズに進んでいくっていう感じでしたね。