夜々、すべての夜に寄り添う美しき声はどこから生まれたのか? 川谷絵音アレンジのデビュー曲を語る
なんで私の曲って、こんなに切ない子ばかりなんだろう?
――夜々さんの場合、どんな感情から曲になることが多いですか?
夜々:私は結構ハッピー人間、ポジティブな人間だと自分で思っていたんですけど、デモをマネージャーさんやチームのスタッフさんたちに提出した時に、「夜々ちゃんが書いている曲の登場人物には、みんな幸せになってほしいなって思うよ」と言われたんです。それぐらい切ないらしくて。
――それは自覚がないんですか。
夜々:ないですね。だから、すごく元気な人間ではあるけれど、心は暗いのかなって、その時に思いました。心のなかの自分は幸せになりたいのかな、って。
――「Lonely Night」も、病んでるとまでは言わないけど、切ない感じじゃないですか。
夜々:そうですね。夜ってみんな考え込んじゃう時間帯だと思うんですけど、そんな人たちに寄り添えたらなと思って作った曲でもあって、私自身、「身に起きることは全部自分のためにある」と思うタイプの人間なので、基本的にハッピーなんですけど、たまに考えすぎて悲しくなっちゃう時もあって。そんな時に(「Lonely Night」は)生まれたのかなと思います。
――基本的にはハッピー人間である夜々さんにも、夜になって考えてしまうという別の側面があって。それを表現するのがこの“夜々”というプロジェクトというか、人格なのかなあって。「Lonely Night」のみを聴いた印象ではあるんですけど。
夜々:ああ、たしかに。これは本音なのかもしれないです。
――失礼ながら、今までお話を聞いていると、“夜々”というアーティストのイメージや曲のイメージと夜々さん本人のギャップがすごいんですよ。
夜々:よく言われます(笑)。
――それがすごくおもしろいんですけど。逆に聞きたいのは、なぜ表現の方向性がこうなったのかっていう。
夜々:そうですよね(笑)。自分のなかの一部でもあるのかな。自分のなかのもうひとりの自分がいるのかなとも思いましたし……なんで私の曲って、(登場人物が)こんなに切ない子ばかりなんだろう? でも、その時に経験したこととかに基づいて書いてたりもするので、みんなと同じように明るい時もあるし、悲しい時もあるから。そうやって寄り添えたらいいなと思って書きました。
――その時の感情や経験というものが、曲には結構刻まれている?
夜々:反映はされていると思います。
――自分で曲を書くようになって、最初にベーコンフランスの歌がウケた瞬間から、自分の作るメロディや言葉がちゃんと人に届くっていうことを実感してきたと思うんですけど――。
夜々:気持ちばかりではあるんですけど。
――そうやって自分の歌いたいことや書きたいこと、書いたものが人に伝わっていく体験はどうでしたか?
夜々:嬉しい気持ちもあるし、それこそ「寄り添いたい」という気持ちが大きいです。音楽って、心の栄養だと私は思っていて。私自身もいろんなアーティストさんの楽曲で助けられてきたから、私がそういう人になりたいし、「届けたいな」という気持ちで音楽はやりたいと思っているんです。だから、伝わっているというのは本当に心底幸せです。「感情をわかってほしい」「ちゃんと理解してほしい」っていう気持ちよりは、その人に合った寄り添い方ができたら、わたしはすごく幸せに思います。
川谷絵音「歌声の繊細な美しさを堪能してください」
――“夜々”という名前で、デビュー曲が「Lonely Night」で、どちらも“夜”にかかっていますが、この名前にはどんな思いを込めたんですか?
夜々:それに最近気づいたんです。「Lonely Night」だし、私の名前も“夜々”だし、「めっちゃ夜だ!」って。デビュー曲が決まってから気づいたことではあるんですけど、でもたしかに、私は夜が好きなんですよ。夜行性の部分もあって、夜に活動したりするのが好きで、夜の季節に沿った気温感もすごく好きだし、夜に考えたりするのも好きだから。私の音楽を通して、みんなのそういう夜に寄り添えたらいいなという気持ちを“夜々”という名前に込めました。
――今までも“夜”というのは、作るうえでも大事なものだったんですか?
夜々:タイトルに「Night」を付けたのは初めてですね。“夜々”という名前ではあるんですけど、私は太陽みたいな存在にも憧れていて、その意味も込めてるんです。
――「Lonely Night」は先ほど「作りたかった曲」とおっしゃっていましたけど、ということは、曲の全体のイメージみたいなものが最初にあって、そこから作っていったんですか?
夜々:そうです。自分の好きなコード進行で作っていったんですけど、こういうシティポップ調で、切ない旋律だけどテンポ感がある曲にしたいなと思っていました。ここ数年はシティポップやR&Bを好んで聴いてきたので、たぶんそれが影響しているんだと思います。
――「Lonely Night」はドラマの主題歌になっているわけですけど、その話を聞いた時はどう思いました?
夜々:本当にびっくりしました。メジャーで出させていただくことも自分にとっては奇跡のようなことだったので、そのうえドラマの主題歌も担当させていただけるとは、夢みたいな現実が起きてるな、って。正直「嘘なのかな?」と思うぐらいでした。
――そういうチャンスを掴めたのは、自身の音楽のどういう部分が届いたんだと思っています?
夜々:歌声に関して感想をいただけることが多いので、私なりに私の声でこの音楽が伝わればいいと思っていて。それがチャームポイントなのかな? 喋ってる声は低いんですけどね(笑)。
――うん。声自体に切なさが宿っている感じがするし、感情を丁寧になぞっていくような声だなと思います。
夜々:たぶん、年々声の出し方も変わってきているんですよね。学生時代にギター部で歌っていた時の歌声と今の歌声では、見てきたものとか感じてきたこと、出会ってきた人や環境によって変わってきていて。それも含めて成長していっているのかなと思います。
――今回アレンジを川谷絵音さんが手がけていますけど、川谷さんも「歌声の繊細な美しさを堪能してください」とコメントしていますね。
夜々:本当に嬉しいコメントをいただいて(笑)。これだけで、もう生きていけます。
――実際川谷さんにアレンジをお願いして、いかがでしたか?
夜々:普段から絵音さんの楽曲を聴いて育ってきたので、その方が私の「Lonely Night」に携わっていただけると聞いた時は本当に緊張しましたし、「どんな感じに曲が育つのかなあ?」って楽しみでした。ミーティングでお話をさせていただいたうえでアレンジができあがって、届いたものを聴いた時に、ひとり孤独にスタジオにこもって作った楽曲が「こんなにかっこよく、美しくなるんだ」と思って感動しました。アウトロのピアノの旋律で本当に食らってしまいまして。「この曲が喜んでいる!」と思って、本当に感無量でした。絵音さんに携わっていただけてよかったな、って。
――自分がイメージしていたものと比べてどうでした?
夜々:もう想像以上でしたね。絵音さんの要素が入った「Lonely Night」は、より一層切なくもなるし、そのぶん切なさのなかで寄り添えるというか、包み込んであげられるような楽曲になったのかなと思います。
――そもそもこの曲はどういう思いから、どういうきっかけで生まれた曲なんですか?
夜々:みんな、夜になると悲しくなったりとかしちゃうと思うんですよ。そんな時に、この曲を聴いて「明日もがんばろう」って思えたりとか、人それぞれいろんな生活リズムがあるなかで聴いていただける曲になればいいなと思って作りました。