『湾岸ミッドナイト MAXIMUM TUNE』シリーズから辿るゲーム音楽の変遷 古代祐三が世界を驚かせ続ける理由

時代性を反映しながらも一貫している“トランスの高揚感”

 『湾岸ミッドナイト MAXIMUM TUNE』シリーズはアーケードゲームであり、数分ほどのプレイ時間の中で300km/hオーバーのスピード感に満ちたレースを楽しむ作品だ。同シリーズは初期からトランスを中心としたサウンドトラックで知られているが、一般的なトランスのように長い時間をかけてじっくりと場のムードを醸成しているような余裕はない。求められるのは開幕からクライマックスに突入し、その熱量をさらに高め続けていくような強烈な体験なのである。

 プレイした瞬間に極太のシンセサイザーの音色が鳴り響き、一瞬でピークタイムに突入する「Entry Maxi6RR PLUS」は、まさに本作を象徴する楽曲と言えるだろう。約2分半の間にありったけのドラマティックな展開が詰め込まれた強烈なサウンドは、普段トランスに慣れ親しんでいる人ほど、きっと新鮮に感じられるはずだ。「Maximum Overdrive」も、そのタイトルが象徴するように、まるで空一面に降り注ぐシンセサイザーの雨の中を一気に駆け抜けていくかのような、普段は味わえないほどの快楽性に満ちたトランスの名曲である。その中でも特に素晴らしいのが「Everynight, Everyday」で、約7分半という長尺曲でありながらも、イントロの時点からキャッチーなフックが炸裂しており、一瞬たりとも落ち着く瞬間がないほどに目まぐるしい楽曲展開を繰り広げていく。その目まぐるしさたるや、さっきまで美しいピアノの旋律に魅了されるトランスに浸っていたかと思えば、気がつけば強烈に歪んだキックが唸るハードスタイルに首を振っているほどで、常にクライマックスを更新しながらも、ジャンルの壁を自在に超えながらリスナーをその世界に引き込み続けるという、その手腕に圧倒されてしまう。

 また、一口に「トランス」と言っても、この20年でダンスミュージックのシーンが大きく変化したように、その音色選びや展開においても、しっかりと時代性が反映されているのが印象的だ。トランスのベテランアーティストとして知られるArmin Van BuurenやTiëstoがEDMムーブメントを経てそのスタイルを変化させていったように、古代の奏でるトランスもまた、EDM以降の鋭利に磨き上げられたサウンドへと変化している(「Entry Maxi6RR PLUS」は、まさにEDM系フェスティバルのオープニング楽曲的でもある)。過去のシリーズの楽曲もサウンドトラックとしてリリースされているため、本作と聴き比べてみることによって、楽曲の魅力はもちろん、トランスという音楽が辿ってきた変化についても楽しむことができるだろう。ゲーム音楽もまた、音楽シーンの変化による影響を強く受けているのだ。

 「音楽シーンの変化」といえば、『6RR PLUS』のサウンドトラックは、トランスをベースとしつつも、過去のシリーズ以上に幅広い音楽性を取り入れていることも大きな特徴の一つだろう。ポップミュージックとしても十分に楽しめるキャッチーな歌メロが印象的な女性ボーカル曲の「Moonlight Love」は、近年のCalvin Harris(特にEllie Gouldingを迎えた「Miracle」)の動きとも呼応しているように感じられるし、「Midnight Symphony」は80’sポップス直系のきらびやかなシンセサイザーの音色と程よい疾走感が心地いい。前作収録曲の日本語バージョンとなる「Starry Night [Future ver. - Japanese lyrics]」は生バンド編成によるフューチャーファンクで、日本語ボーカルによってシティポップ的な魅力がより一層際立っている。

 だが、そうした様々な音楽性を取り入れながらも、あくまで『湾岸ミッドナイト MAXIMUM TUNE』らしいトランスの高揚感や疾走感は担保しているというのが、本作や古代の凄みであり、ゲーム音楽というジャンルの面白さでもある。CD盤もリリースされた『湾岸ミッドナイト MAXIMUM TUNE 6RR & 6RR PLUS Original Sound Track』に収録されている前作『6RR』(2021年)の楽曲についても、R&Bポップス的な「Coming To You」やハイエナジーな「Happy Moment」など、当時のムードもしっかりと反映された名曲が詰まっているため、ぜひ併せてチェックしてみてほしい。

 「ゲーム音楽」というと、どうしても普段の生活で触れるような音楽とは別の世界のものであるように感じて、距離を取ってしまうという人も少なくないかもしれないが、古代がこれまでに辿ってきた歴史が示すように、それは音楽シーンの動きと呼応しながら、お互いに影響を与え合うことによって発展してきたものでもある。近年のダンスミュージックのトレンドの一つにもなっているトランスをベースとした『湾岸ミッドナイト MAXIMUM TUNE』のサウンドトラックは、まさにそのゲーム音楽というジャンルの面白さを感じられる作品であり、仮にゲームに馴染みがなかったとしても、単純に聴いていて最高にアガる名曲が詰まっている。今回のリリースをきっかけに、幅広いリスナーに古代祐三の音楽に触れてほしい。

※1:https://www.redbull.com/jp-ja/diggin-in-the-carts-episode-4-2017-15-04

『湾岸ミッドナイトMAXIMUM TUNE 6RR & 6RR PLUS Original Sound Track』

◾️リリース情報
古代祐三
『湾岸ミッドナイトMAXIMUM TUNE 6RR & 6RR PLUS Original Sound Track』
発売中/CD価格:¥2,750(税込)
配信:https://lnk.to/wangan6RRand6RRplus
購入:https://lnk.to/wangan6RRand6RRplus_CD
<トラックリスト>
01.Entry Maxi6RR
02.Midnight Wave
03.Coming To You
04.Happy Moment
05.Starry Night (Future ver.)
06.Entry Maxi6RR PLUS
07.Everynight, Everyday
08.Moonlight Love
09.Midnight Symphony
10.Maximum Overdrive
11.Starry Night [Future ver. - Japanese lyrics]*
12.Starry Night

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