峯田和伸のボーカリストとしての評価は？

ーー「名前を忘れたままのあの日の鼓動 feat.峯田和伸」（映画『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』主題歌）の峯田さんの歌も、このアルバムの大きな聴きどころだと思います。峯田さんとはこれまで接点がなかったのでは？

蔦谷：ないですね。デビューは峯田さんのほうが早いんですけど、同世代なんですよ。

ーー峯田さんの音楽はチェックしていた？

蔦谷：もちろんです。売れている人は全員気にしていたし（笑）、忸怩たる思いで見ていたので。何千人、何万人の前であれだけのエネルギーを出せる人はいないし、日本のロック史に残るシンガーの一人だなとずっと思っていました。あと、YUKIさんとコラボしてるじゃないですか。

ーー蔦谷さんと峯田さんはYUKIさんでつながっていた、と。

蔦谷：「名前を忘れたままのあの日の鼓動」のボーカルを峯田さんにお願いしたのは、上田慎一郎監督の意向もあったんですけどね。

ーー実際に一緒に曲を制作して、峯田さんのボーカリストとしてのすごさはどんなところにあると思いますか？

蔦谷：何よりもあの声ですね、やっぱり。あの声がないと、あれほどのパッションは表現できないと思うので。あとは声の出し方。たとえば他の人が峯田さんの歌い方を真似しても、ぜんぜんよくないと思うんですよ。忌野清志郎さんと同じで、同じような歌い方をしてもカッコ良くならないというか。ボーカリストというのは、世界で一つだけの楽器の演奏家なんだなと改めて実感したし、峯田さんはその完成形の一つだと思います。レコーディングもすごかったんですよ。仮歌は僕が歌ったんですけど、峯田さんは僕が歌ってることに気づかず、「この仮歌の人、いいじゃん」って言ってて（笑）。でも、いざレコーディングを始めたら、仮歌の影響はまったく受けず、完全に峯田さんの歌になっていたんです。メロディを変えて歌ってるところもあったけど、ほぼ全部OKを出しました。“Yeah！”というシャウトも入ってるんですけど、僕と峯田さんでは“Yeah！”をやってきた場数が違うというか（笑）、説得力がすごい。世界共通言語ではないですが、あれを聴けばどんな国の人、どんな部族の人も興奮するだろうなと思います。

ーー「クリエイター」は、蔦谷さんがボーカルを取っています。クリエイターを自称している人々、そして、蔦谷さん自身を批評したような楽曲ですね。

蔦谷：この曲のきっかけはいろいろあって。最初は確か、AIかな。ChatGPTって、こっちが指示を出せば簡単な文章を書いてくれるじゃないですか。それと似たようなことは音楽業界にもあったなと思ったんですよね。フワッとした指示を出しただけで、実際の作業は全部他の人に投げているのに、自分でやったということにしている人とか。そこからクリエイターに対する皮肉めいた曲を作ってみようかなと思って、Splice Sounds（サブスク型サンプル音源ダウンロードサービス）で取ってきたサンプルを切り貼りしてるうちに、「自分も同じことをやっているな」と思ったんですよね。誰かが作った音を並べるだけで、自分も一緒じゃんって。僕は自分のことをクリエイターと言ったことは一度もなくて、ただのミュージシャンだと思っているんですけど、自分自身も過去の音楽を組み合わせているだけかもな、と。なので「クリエイター」は、サンプルのコピペと編集だけで作ったんですよ。

ーー興味深いテーマだと思います。以前、韓国の作曲家が「坂本龍一さんの作品を盗作しているのではないか？」と指摘され、坂本さんが「全ての創作物は既存の芸術の影響を受けています。（責任の範囲内で）そこに自身の独創性を5%〜10％ほど加味するとしたら、それは素晴らしく立派で、感謝すべきことです。それが私の長年の考えです。」というコメントを発表したことがありました（※1）。

蔦谷：すべてに文脈がありますからね。音楽だけではなく、すべてのアートがそうなんじゃないかな。新しいことをやろうとするときも、それまでの文脈をもとにして、誰もやっていない場所を探るわけだから。

ーー確かに。「クリエイター」の後に、音楽創作の粋を極めた「アダルト feat. アヴちゃん from 女王蜂 & RYUHEI from BE:FIRST」が収められているのも面白いです。

蔦谷：「アダルト」は確かに高い技術を使って作っていますが、熱量としては「クリエイター」と変わらないと思っていて。もちろんアヴちゃんとRYUHEIがいたからできた曲ですね。

ーーそして「RE:interchange feat. KOHD」は作曲が“KERENMI／KOHD／葉上誠次郎”、編曲が“KERENMI／KOHD”、ミックスエンジニアはKOHD。3人の有機的なコラボレーションが実現した、本作を象徴する楽曲ですね。

蔦谷：KOHDが頑張ってくれました。冒頭の8小節のメロディを葉上が作っていて、ここのピアノで弾いて歌ったものをKOHDに送って。あとは「世界一カッコいいドロップを作ってくれ」とオファーしただけですね、僕からは。KOHDとはこの3年くらい一緒にたくさんの曲を作ってきたし、いろいろな現場を体験することで吸収してくれたものもかなりあると思っていて。これからのJ-POP界を背負う存在になってほしいなと思ってます。

ーーまさにフックアップですね。

蔦谷：そんなに偉そうなことは考えていないんですが、彼らの世代では見られない景色があると思うんですよね。たとえばいきなりJUJUさんのようなドームクラスのアーティストと仕事をすることは難しいじゃないですか。そういうきっかけを作れたらいいなという気持ちはあります。僕自身もそうだったんですよ。事務所の社長（agehasprings代表・玉井健二）に出会って、YUKIさんの楽曲コンペ（「JOY」）に参加して。その後は自分で切り開くしかないんですけどね。僕自身も「YUKIさんのあの曲、誰がやってるの？」というところでいろんなお話をいただいたので。プレイヤーは演奏が良くないとダメだし、作曲はいい曲を作るしかないですから。もちろん嫌なヤツとは仕事したくないだろうから、そこも気を付けてますけどね（笑）。

ーーもう1曲、「馥郁たる日々」について。この曲も蔦谷さんが歌っていますが、ボーカルが素晴らしいなと。

蔦谷：ありがとうございます。子供の頃から歌うのは好きで、ピッチを取ったりするのは得意だなと思ってたんですけどーーこれは自分の良いところでもあり、悪いところでもあるんですがーーあまりに客観視し過ぎていて、「人前で歌うレベルじゃない」と決めてしまってたんですよ。ただ、何人かに「歌ったほうがいい」みたいなことを言われたことがあって。米津玄師に（KERENMIの楽曲の参加を）オファーしたことがあって、飲みながら話しているときに「ソロをやるなら歌わなきゃダメですよ」と言われて、それがずっと自分のなかに残っていたんですよ。その1週間後くらいにMANNISH BOYSのレコーディングをやってたら、僕の仮歌を聴いた斉藤和義さんに「これは人前で歌わなきゃいけない声だよ」と言われて。和義さんに言われたら、自信になるじゃないですか。YUKIさんにも「歌ったほうがいい」みたいなことを言ってもらったことがあるんですけど、性格のせいか、「プロデューサーが人前で歌うってどうなんだ」と思ってしまって。ずっとやってなかったんで、今更って感じですけどね。

ーーしかも「馥郁たる日々」のメロディは歌謡、フォークを感じるところもあって。これも蔦谷さんのルーツなんでしょうか？

蔦谷：そうですね。歌謡曲のなかの「ここがいいな」と思う部分だったり、フォークやニューミュージックなどを含めて、自分が好きなところ、美しいと感じるところが集まっているのかなと。こういう側面をプロデュースワークでもたまに出すことがあるんですよ。たとえば赤い公園の「出鱈目」もそう。めちゃくちゃポップな曲ではなく、たくさんの人に受け入れられる曲ではないけど、「この曲を聴いて、命を救われる人は何人もいるだろうな」という曲だと思っているんですよ。そういう感情になれる瞬間を「馥郁たる日々」でも表現したかったんですよね。

ーーアルバム『interchange』によって、KERENMIの表現の幅も大きく広がったと思います。今後の活動ビジョンについても教えてもらえますか？

蔦谷：ライブをやりたいんですけど、なかなか実現しないですね（笑）。次のアルバムのことはまだそんなに考えてないんですけど、最近“熱力学第二法則”に興味があって。“すべては混沌に進む”ということを説明する法則なんですけど、もしかしたら人って、その法則に逆らっているのかもしれないなと思って。関係に歪が生じたり、仲が悪くなると、修復するために謝ったり、優しくするじゃないですか。

ーー混沌を回避しようとするというか。とても興味深いですが、それがどんな音楽になるのか……。

蔦谷：（笑）。そんなに難しく考えているわけではないんですけど、ギリシャの哲学者とかって、物理学や数学、音楽にも長けてたりするじゃないですか。そう思うと全部つながってるのかもしれないなと。あと、最近28年ぶりくらいにDJを始めたんですよ。CDが主流になってから一切触っていなかったんですけど、ちょっとやってみたくなって。KERENMIももうちょっと機動力を上げてやっていけたらいいなと思ってます。

■リリース情報
Full Album『interchange』
2024年11月20日（水）リリース
DL & Streamingはこちら：https://kerenmi.lnk.to/nwmak

商品形態：AL（スマプラ対応）
※通常盤一形態のみ
品番：RZCB-87157
価格：3,740円（税込）
発売はこちら：https://kerenmi.lnk.to/interchange_CD

＜収録曲＞
01. interchange
02. join my band feat. Skaai
03. TOKYO 君が everything feat. キタニタツヤ & クボタカイ 
04. border line feat. 梓川 
05. boy feat. asmi & imase
06. ふぞろい feat. Tani Yuuki & ひとみ from あたらよ
07. ケタタマ feat. Mori Calliope
08. 名前を忘れたままのあの日の鼓動 feat. 峯田和伸
09. クリエイター
10. アダルト feat. アヴちゃん from 女王蜂 & RYUHEI from BE:FIRST
11. おぼろ feat. 佐藤千亜妃
12. 世界 feat. Moto from Chilli Beans. & Who-ya Extended
13. RE:interchange feat. KOHD
14. 大人 feat. 谷絹茉優 from Chevon
15. 馥郁たる日々

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