KERENMI=蔦谷好位置、次世代から受ける刺激とコラボに込められた願い 「昔の自分みたいな思いをさせたくない」

 音楽プロデューサー・蔦谷好位置の変名プロジェクトKERENMIから2作目のフルアルバム『interchange』が届けられた。

KERENMI - Full Album「interchange」Trailer

 前作『1』(2020年3月)以降にリリースされた楽曲「ふぞろい feat.Tani Yuuki & ひとみ from あたらよ」「TOKYO 君が everything feat. キタニタツヤ & クボタカイ」「boy feat. asmi & imase」「アダルト feat. アヴちゃん from 女王蜂 & RYUHEI from BE:FIRST」「ケタタマ feat. Mori Calliope」「おぼろ feat. 佐藤千亜妃」「世界 feat. Moto from Chilli Beans. & Who-ya Extended」、さらに先行配信曲「名前を忘れたままのあの日の鼓動 feat. 峯田和伸」と新録曲6曲やインタールードを含む全15曲を収録。新録曲にはSkaai、梓川、KOHD、谷絹茉優(from Chevon)がフィーチャーされ、蔦谷自身が歌唱した曲も収められるなど、音楽家、プロデューサーとしての多彩にして奥深い表現を堪能できる作品となっている。

 インタビューはプライベートスタジオで実施。本作『interchange』を軸にしながら、蔦谷の音楽観、制作のスタンスなどについて幅広く語ってもらった。(森朋之)

若い世代と定期的に交流する“もんじゃ焼き会”

蔦谷好位置

ーーインタビューに先がけて、蔦谷さんがお書きになったライナーノーツを読ませていただきました。これは一般にも公開されるんですか?

蔦谷好位置(以下、蔦谷):noteで読めるようにしたいと思ってます。作品の説明をするのも野暮かなと思いつつも、音楽的な角度みたいなものをわかりやすい言葉で伝えたいという気持ちもどこかにあって。ちょっとトライしてみようかなと思って書いたんですけど、知り合いに「文章が硬い」って言われました(笑)。

ーーものすごく詳細に書かれてますよね。アルバム、収録曲の背景が見えてくるし、作品への理解が深まる文章だと思います。

蔦谷:ありがとうございます。これが難しいところで、聴く人に委ねたいとも思うんですけどね(笑)。技術的な部分を評価してほしいみたいなことでもないんですが、こだわってきたところ、「これが美しいんだ」と信じてきたものがあって。それがバッチリ世間と合致していた時代はそんなにないと思っているんですよ。たまにしっかり合うこともあるんだけど、大半は上手くハマってない。それでも自分が感じている美しさ、カッコ良さを共有したいと思うんですよね、やっぱり。

ーー蔦谷さんは数多くのヒット曲を手がけていますし、自分が思うカッコよさ、美しさを多くの人を魅了する楽曲に結びつける術を持っていると思うのですが。

蔦谷:僕は若いときにバンド(CANNABIS)でデビューして、あまり上手くいかなくて。その後は作曲、プロデュースを長くやってきたんですが、自分がどうしたいかよりも、アーティストや楽曲がどう輝くかを考えてきたんですよ。子供の頃からいろんな曲を聴いて「こうしたらいいのに」と思うようなタイプだったんで(笑)、(プロデュースは)すごく向いてるとは思っていて。ただ、30代の中ごろに忙しすぎて身体を壊したときにーー「boy」のライナーノーツでも書いたんですがーー好きなように曲を作ってみようと思ったら、全然出来なかったんです。すっかり職業音楽家になっている自分を15歳くらいの自分が見たら「めちゃくちゃダサいな」って思うだろうなと。

ーー仕事になり過ぎていた?

蔦谷:そうかもしれないですね。音楽を始めたときは衝動の部分が大きかったし、それはたぶん今も変わらないはずだと思っていて。曲を作ったりアレンジしているときは、瞬間瞬間で“かっこいい”“美しい”という判断で進めているんですよ。後から理論的に説明できるんだけど、やっているときは理屈で考えているわけではない。今回のアルバムも、自分に正直にやろうと思いながら作ってましたね。

ーー前作『1』以上に蔦谷さんの作家性、音楽的なルーツ、感情の部分が強く出ているアルバムですよね。

蔦谷:良いのか悪いのかわかりませんが、そうなりましたね。きっかけはタカノシンヤだったんですよ。タカノはもともとFrascoというユニットのコンポーザーで、歌詞も面白くて。「一緒にやらない」と連絡したら、確か2021年の冬だったと思うんですけど、ここにきて30分くらいプレゼンしてくれたんですよ。「蔦谷さんに怒られるつもりで、いろいろ分析してみました」って話しているなかで、「ジャンルを往来し過ぎだから、一つのアルバムにまとめるとわかりづらいんじゃないですか」と言われて。確かにそうだなと思いつつ、「それも含めて俺だからな」みたいなやり取りをしているときに“インターチェンジ”というキーワードが出てきたんです。高速道路のインターチェンジにはいろんな地域の人が行き来しているし、トラックの運転手の方から家族連れ、恋人同士もいる。オムニバス的というか、いろんな人の思いが往来しているようなアルバムを作れたらいいなと。そこからいろんな人の人生を描いていくなかで、1曲か2曲、自分自身が考えていることも入ってきた感じですね。

ーーなるほど。今回のアルバムはタカノシンヤさん、KOHDさん、葉上誠次郎さんが制作に参加していますが、これはどうしてですか?

蔦谷:ずっと自分1人でやってきたんですよ、基本的に。今はアシスタント的にアレンジャーに入ってもらうことも増えましたけど、40代前半くらいまでは人に任せることができなくて、全部自分でやっていて。オーケストラの譜面なども自分で書いていたから、とにかく時間が足りなかったんです。でも、たまに他の人とやると、自分とは違う発想が出てくるのが面白かったんですよね。あとはそれなりにキャリアを重ねてきて、(若いアーティストの)フックアップみたいな気持ちもあって。今年はよく、もんじゃ焼きを食べに行ってたんですよ、かっこいい音を出している若い人たちと。

ーー下の世代のミュージシャンと交流を持つために?

蔦谷:はい。会ったこともない人にいきなりDMを送って、「もんじゃ焼きに行きませんか?」って。いきなり寿司とかおごられたら緊張しちゃいそうですけど、もんじゃ焼きなら平気かなって(笑)。もんじゃをつついているうちにフラットな関係になれるし、僕としても若手からいろんな情報を教えてもらってるんですよね。今はどんなビートが来ていて、どういうトラックメイカーがいいのかを聞いたり。今回のアルバムに参加してくれたKOHDは本当に才能があるし、しかしその才能がまだ世の中にそこまで知れ渡ってはいない。何かのきっかけになったらいいなという気持ちもあったし、あとは「昔の自分みたいな思いをさせたくない」というのもありました。これもライナーノーツに書いたんですが、40代前半くらいまで、ゴーストライターみたいなこともやってたんですよ。特に編曲家の地位は今もだいぶ低いし、そういうところにも目を向けてもらえたらなと。

ーー楽曲にフィーチャーされているアーティストも、若い世代が中心ですね。

蔦谷:そうですね。アルバムに入ってる配信曲のなかで最初に出したのは「ふぞろい feat. Tani Yuuki & ひとみ from あたらよ」なんですけど、ひとみさん、Tani Yuukiくんはスタッフの意見だったんです。レーベルを移籍してから出会った新しいスタッフなんですけど、2人が提案してくれて。その時点で20曲くらいストックがあって、「誰に歌ってもらおうかな」と考えている段階だったんですけどーー「大人」と「おぼろ」は昔からあったんですがーーひとみさん、Tani Yuukiくんを勧めてもらって、「この人たちと一緒にやるんだったら、どういう曲がいいだろう?」とすぐに新しい曲を作ったんです。その後の「boy feat. asmi & imase」「TOKYO 君が everything feat. キタニタツヤ & クボタカイ」も同じような流れでしたね。asmiさんは僕が「ぜひやりたいです」とお願いしたんですけど、imaseくんはスタッフの提案で。キタニくんは以前、僕のラジオにゲストで来てもらったことがあって、「彼にファンク要素が強い曲を歌ってもらったら、どうなるだろう?」という発想だったかな。もう一人ラップができる人が欲しいということになって、クボタカイくんにお願いしました。

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