ZIGGYが示した“挑戦者”としての矜持 新旧の魂を込めた『For Prayers』横浜公演の熱狂を振り返る

 10月30日の千葉LOOKを皮切りに、全国で17公演を開催するZIGGYの全国ツアー『ZIGGY TOUR 2024「For Prayers」』。この記事が掲載される頃には、12月13日のVeats Shibuya公演を残すのみとなったが、本稿ではツアー中盤に行われた11月11日の新横浜 NEW SIDE BEACH!!公演の模様をお届けする。

 今年結成40周年を迎え、10月23日にはその大きな節目を記念すべく制作されたニューアルバム『For Prayers』をリリースしたばかり。唯一のオリジナルメンバーである森重樹一(Vo)は筆者とのインタビューで「今度のツアーではニューアルバムから全曲披露するけど、もちろんみんなが聴きたい曲もやるし、『これを久しぶりにやるんだ!』と古いファンが喜んでくれるような曲もやりたい」と発言していたが、この日に新横浜 NEW SIDE BEACH!!で目撃したライブではその言葉に嘘偽りのないステージが展開された。

 定刻を過ぎた頃、会場の暗転と同時にSEが流れ始める。すると、オーディエンスのクラップに導かれるように、バンドメンバーのカトウタロウ(Gt)やCHARGEEEEEE…(Dr)、Toshi(Ba)、佐藤達哉(Key)がステージに登場。最後に森重が姿を現すと、アルバム同様に荘厳なシンセサイザーのメロディに続いて鋭いギターリフとともに「ROSARIO」からライブは勢いよくスタートした。CHARGEEEEEE…&Toshiが繰り出す激しくダイナミックなビートに乗せて、森重はハスキーで艶やかな歌声を響かせると、カトウや佐藤もコーラスで華を添えていく。その一方で、ギターソロではカトウがライトハンド奏法を用いた派手なプレイを披露し、満員の観客を魅了した。

森重樹一

 新曲で早くもオーディエンスを釘付けにすると、続く「LET'S DO IT WITH THE MUSIC」ではその勢いをさらにドライブさせていくことに。曲中、オーディエンスのシンガロングも加わり、フロアはより一体感を高めていく。また、曲後半のブレイクパートではCHARGEEEEEE…が椅子の上に立ち上がり、観客を煽る一幕も。間髪入れずに「翼があれば」へと繋げると、バンドは現在進行形のヘヴィサウンドでフロアを圧倒させてみせた。

カトウタロウ(Gt)
CHARGEEEEEE…(Dr)

 3曲終えると「月曜日からこんなに来てくれるとは」と、喜びの言葉を口にする森重。そんな中、CHARGEEEEEE…が前のめりで「イエーイ!」と煽る場面もあり、フロアの熱量は一気に高まる。微笑ましいやり取りを経て、妖艶さを振り撒く「涙の雨に打たれながら」でライブは再開。グルーヴィーなリズムに乗せて、ヘヴィさとメロディアスさを織り交ぜたサウンド、年齢を感じさせない森重のアグレッシヴなボーカルで独特の世界観を構築していく。かと思えば、続く「SWING, DRIVE, ROCK'N'ROLL」で再び空気を一変。軽やかなロックンロールサウンドで聴き手を高揚させていく。現在の正式メンバーは森重ひとりだが、曲中に用意された各パートの見せ場などからは森重の各メンバーへの信頼やリスペクトが随所から伝わるほか、MCでも彼らを褒め称える場面も多々あり、この布陣だからこそ“今のZIGGY”が成立しているのだと実感させられる。

Toshi(Ba)
佐藤達哉(Key)

 「真夜中のルート16」からはテレキャスターを抱えた森重も演奏に加わり、カトウとのツインギター編成で巧みなアンサンブルを見せていく。この日は多くの曲で森重がギターを弾いており、かつてのイメージに固執することなく、良曲の数々をベストな形でお届けすることに対するバンドのこだわりが感じられた。

 ライブ中盤では「BELIEF」や「何一つ思い通りに行かなくても」といった、最新作『For Prayers』の中でもソフト/ポップサイドに属する楽曲群を連発。そんな中に、今年リリース30周年を迎えたアルバム『BLOND 007』(1994年)からの「12月の風になりたい」を織り交ぜるなどして、改めてZIGGYというバンドの音楽的“懐の深さ”と各メンバーの表現力の幅広さを提示していた。「12月の風になりたい」ではサビでオーディエンスの大合唱も沸き起こり、会場の熱はより一層高まっていく。その熱気をさらに加速させたのが、久しぶりに演奏された「SWEET SURRENDER」だ。1989年リリースの3rdアルバム『NICE & EASY』に収録されたこのファンキーなナンバーは、かつてバンドのもうひとつの頭脳であった戸城憲夫(Ba)が作曲した1曲だが、「どの時代に誰が書いたものであろうと、ZIGGYの楽曲には違いない」という事実をここでも強く主張してくれることは、初期からのファンでもある筆者にとっても嬉しいサプライズだった。さらに、その後は立て続けに「I'M JUST A ROCK'N ROLLER」も繰り出され、古くからのファンは歓喜したのではないだろうか。

 森重が「今のZIGGYの基盤を築いた曲」と説明する「WONDERFUL FEELING」から、ライブも佳境に突入。初期の名曲に勝るとも劣らない、キャッチーで流麗なメロディが聴き手の琴線に触れるこの曲で、フロアの熱量が再び高まっていくと、ギターソロパートではメンバー5人が向き合い一丸となって音を奏でる場面も。こうしたシーンを目にするにつれ、今のZIGGYがこの5人である意味や必然性を再確認できたというファンも少なくないはずだ。さらに続く「また雨が降り出したみたいだ」でフロアを熱狂の渦に巻き込むと、再びギターを手にした森重の合図で「I'M GETTIN' BLUE」に突入。「また雨が降り出したみたいだ」で〈また雨が降り出したみたいだ/俺はどこへ行けばいいんだろう〉と迷いを吐露する主人公が、「I'M GETTIN' BLUE」〈どしゃぶりの雨が通り過ぎる頃には/捜してた言葉見つかるかもしれない〉で答えを手に入れようとする、この2曲を繋ぐストーリー性も森重樹一という詩人ならでは。しかも、前者は2023年、後者は1987年の楽曲という時系列も非常に興味深い。こうして「I'M GETTIN' BLUE」でクライマックスに突入したライブは、「DON'T STOP BELIEVING」「EASTSIDE WESTSIDE」で最高潮を迎えたところで一旦終了する。

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