15歳シンガーソングライター・Aogumo「曲名はまだないです」 ミニマムなフレーズで伝え切る言葉の才気

 2023年10月からTikTokに「#弾いてみた」動画を投稿し、活動をスタートさせたAogumo。アコースティックギターの手元が映っているだけで、ほとんど定点動画だが、スワイプする手が止まるほどの歌声が強みだ。手嶌葵の「森の小さなレストラン」をカバーした初投稿が2万回再生を突破しているのが、その証拠と言えるだろう。初投稿以降、彼女はマイペースで弾き語り動画を投稿。相対性理論、Aimer、コレサワ、マカロニえんぴつ、Vaundyや和ぬかなどボカロPアーティストなどをカバーしているが、どの曲も原曲のメロディを踏襲したシンプルな弾き語りながら、歌声だけでしっかり自分のものにしている。そんな彼女が2024年3月に初のオリジナル曲として投稿した「曲名はまだないです」は64万5000回再生を突破。この時点では、他のカバー動画の投稿と桁違いの再生数を叩き出している。これは、Aogumoが歌声で確実にファンを獲得していた結果だ。9月13日に「『曲名はまだないです』という曲です。」というコメントとともに投稿された同曲の弾き語り動画は11月25日現在468万8000回再生を超えているほか、コメントが3000件以上、いいねが24万以上と、リリース前から同曲の注目度が高かったことが窺える。

『曲名はまだないです』 - Aogumo

 その後音源としてリリースされたAogumoが作詞作曲を手掛けている「曲名はまだないです」のサウンドは、TikTokで最初に投稿されたアコースティックギターのサウンドから進化し、アコースティックギターを軸にしながらも、鍵盤も入ったバンドアンサンブルに仕上がっている。決して凝ったフレーズはないが、それぞれの楽器の良さを理解し、それを活かすバランス感覚がお見事。ストーリー性のあるサウンドレイヤーや、各楽器にしっかり“聴きどころ”を作っているところには熱心な音楽リスナーであること、加えてサウンドバランスには耳の良さが伝わってくる。

曲名はまだないです(弾き語りver.) - Aogumo

 「曲名はまだないです」は、細かく刻むメロディが転がるように聴く者に向かってくる1曲だ。サウンドの抜き差しと、Aogumoの言葉の発音のアプローチの多彩さ、抜群のリズム感で、途中からテンポが上がったように感じる迫力がある。特に驚くのは活舌の良さとリズム感で、フレーズの歌い出しがすべて気持ちいいくらいにジャスト。言葉を詰め込んだフレーズの後や、余裕を持たせてジャストで歌い始めるのだ。このジャスト感が、この楽曲に独特のグルーヴ感を出し、楽曲が持つスケールの大きさにつながっている。

 “曲”と“自分”をリンクさせ、〈消耗品でした。〉と言い切るような冷静な視点が光る歌詞は、〈もう好きなことさえ嫌いになりそうだ。〉と記すほど思い通りにならないことばかりの現実の中でも、ほんの小さな肯定から新たな欲求が生まれることを〈私が、/人間だからかな。〉と綴る。曲中にミニマムなフレーズで、現実の中で欲求が希望に変換できることをしっかり伝えているところに、言葉使いとしての才気も感じる。

 今回ピックアップしたAogumo、この秋に「Bunny Girl」でバズを起こしたAKASAKIなど、ティーンエイジャーのシンガーソングライターが結果を残している昨今。これはSNSが、オーディションとしての側面を持ち始めているのではなかろうか――そんなことを考えた今回のバイラルチャート分析だった。

※1:https://charts.spotify.com/charts/view/viral-jp-daily/2024-11-20

※記事初出時、本文に誤りがありました。以下訂正の上、お詫び申し上げます。(2024年12月6日18:40、リアルサウンド編集部)
誤:Aogumoが作詞曲と編曲を手掛けている「曲名はまだないです」
正:Aogumoが作詞作曲を手掛けている「曲名はまだないです」

Vaundy、藤井 風、YOASOBI、優里……“特殊なシチュエーション”でのパフォーマンスが引き出す新たな魅力

近年、アーティストが通常のライブ会場とは異なるシチュエーションで行うパフォーマンスが多く公開されている。Vaundy、藤井 風、…

斉藤和義、トリオ編成で挑んだ『青春58きっぷ』 三位一体のアンサンブルを紡いだ至極の夜に

斉藤和義がスリーピース編成で挑む全国ツアー『斉藤和義 ライブツアー 2024 “青春58きっぷ” ~Trio de Pon~』の…

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる