三四少女、ポップミュージックにおける“削ぎ落とす”ことの美学 「“すごい”で止まってしまうなら意味ない」
関西を拠点に活動する4ピースバンド・三四少女(サンスーガール)が、1stアルバム『恋してる・コンティニュー』をリリースする。『マイナビ閃光ライオット2023』や『十代白書2024』といった10代限定のオーディションイベントで決勝進出を果たし、若手バンドシーンでその名をじわじわと広めている彼女たちにとって、このアルバムは、本人たち曰くバンドの「第一章」の幕引きと「第二章」の幕開けを飾る作品になったようだ。確かに、エネルギッシュでリズミカルな心地よさも感じさせるギターロックサウンドと、内省と遊び心が混ざり合った歌詞世界という、これまでの三四少女の個性とはまったく別の顔を見せるように、アルバムはエレクトロニックなインストゥルメンタルトラック「▶つづきから」で幕を開ける。この「つづき」で、きっと何かが起こるだろう……そんな予感に満ちている。
以下のインタビューでは、メンバー4人にバンド結成の経緯やアルバムの収録曲のバックグラウンドについて語ってもらった。バンドは「居場所」であり、「変身」の場であると語る4人の、ポップなビジュアルの内側にある様々な想いを感じてもらえるだろう。話を聞きながら、今を生きるうえで、とても本質的にバンドというコミュニティや音楽を求めた4人なのだと感じた。(天野史彬)
「ずっと何かと闘っているようなバンドになりたい」(川田)
ーー今、三四少女の音楽やMVなどに触れて「この世界観を作っているのは一体どんな人たちなんだろう?」と気になっている人は多いと思います。この度リリースされるアルバム『恋してる・コンティニュー』のジャケットもとてもインパクトがありますよね。ビジュアル面にも強いこだわりを感じます。
さっちゅー:メンバー全員服は好きなんですけど、その中でも、私は服飾の専門学校に通っていて。このジャケットも、私の衣装だけは専門の友達と一緒に自作したものなんです。こういうコンセプトや雰囲気はできるだけ自分たちで決めたくて、スタイリングの提案なんかはしています。『恋してる・コンティニュー』は、最初に(川田)羽撫子から「ジャケットのデザインは格ゲーみたいにしたい」という話が出ていて。それぞれのキャラを出せるような衣装にしたかったんです。
ーー「格ゲー」というアイデアはどのようにして出てきたんですか?
川田:闘っている人って、かっこいいなと思って。バンドで闘えるようになりたいと思ったんです。
ーー「バンドで闘う」ということは、川田さんにとってはどういうことなんですか?
川田:私たちは今まで『閃光ライオット』や『十代白書』のような10代限定のオーディションに出てきたんですけど、そういう賞レース的なものがなくなっても、ずっと何かと闘っているようなバンドになれたらいいなと思うんです。
ーー今は何と闘っていると言えますか?
川田:今は……自分自身ですかね(笑)。自分自身の生活と闘っています。今はみんな、バンド以外のこともそれぞれやっていて。そういう生活の中で、私にとってバンドは変身できる場所だし、みんなにとってもそういう場所なんじゃないかって、私は勝手に思っているんです。
ーー三四少女の結成は、元々はたみさんと川田さんがライブハウスで出会ったのがはじまりなんですよね。たみさんから川田さんに声を掛けたそうですが、たみさんはどういった経緯で川田さんとバンドを組もうと思われたんですか?
たみ:最初に羽撫子とライブハウスで会ったのは学生限定のイベントだったんですけど、羽撫子は高校生でKANA-BOONのコピバンをやっていて、自分はそのとき大学生で、弾き語りで出ていて。楽屋で僕がCody・Lee(李)の曲のフレーズを弾いていたら、羽撫子が反応してくれたんです。そのとき「話合うな」という感じがあって。それから後日、「『十代白書』に出たいな、でも自分も二十歳になっちゃったしな」と思っていて、自分がやっていたバンドに対しても「なんか違うな」と思っていたというのもあって、まだ10代だった羽撫子に声を掛けました。そもそも自分も友達が多いわけじゃなかったけど、その中でも数少ない、話も合うし馬も合う羽撫子がいたので、声を掛けようと思って。
ーー前のバンドには「なんか違う」と感じていたということですが、たみさんの中で三四少女に対して「やっていける」という手応えを感じた瞬間はありましたか?
たみ:三四少女は、バンドとしてはもちろんしっかりやっているけど、でも、これからもきっと友達の延長としてやっていくんだろな、と思っていて。そのくらい4人の間でいろんなことを話せるんですよね。バンドの話だけでギチギチになるわけじゃなく、くだらない話もできたりする。そこに居心地のよさを感じているんです。僕は、そんなに心に余裕があるタイプではないけど、このバンドにいるときは多少の余裕はできるし、自分を出したうえで深く考えなくてもいい……そんな居心地を感じていて。「心の居場所」として、このバンドはいい場所だなと感じています。
ーー先ほど川田さんがおっしゃった「変身できる場所」としてのバンドというのは、今たみさんがおっしゃったことと、少なからず重なる部分はあると思いますか?
川田:そうですね。みんながバンドをやるために集まったバンドだし、私にとってバンドは、普段とは違う感じの自分を出せる場所だなと思います。そういう部分が、私も心地がいいとは思っていますね。
ーーたみさんと川田さんが出会い、そのあとSNSを通じてさっちゅーさんとあんどりゅーさんが加入されるそうですが、さっちゅーさんとあんどりゅーさんの中にあったバンド加入への思いはどのようなものだったんですか?
さっちゅー:私はずっとバンドが好きだったんですけど、最初は「本格的なバンドじゃなくてもいいから、人生で1回くらいライブハウスで、バンドで演奏してみたいな」と思っていたくらいなんです。でも、実際バンドをやるようになって、楽しいなと思っています。私が高校生の頃に観に行っていたバンドの人たちって、インディーズで、今のうちらくらいの感じで活動をしていた人たちなので、「あの人たちの裏側ってこういう感じだったんだ」とか、いろんな気持ちになるし。私は今バンドとは別の仕事もしているんですけど、仕事が大変なときは「明日のライブが息抜きやな」と思えるし。もちろん、ライブも気合入れてやっているんですけどね(笑)。
一同:(笑)。
さっちゅー:仕事も好きなんですけど、仕事がしんどかったら「明日ライブだ」と思えば息抜きになるし、バンドがしんどくなったら「明日仕事やし。普通の人間っぽい生活もしてるし」となる。どっちもあるんですよね。確かなのは、ふたり(たみと川田)が言っていたように、バンドは居心地がいい。ひとつ、自分の居場所がある感じ。私もそんなに友達は多くはないけど、「ここ(バンド)だけは、絶対的な友達でいてくれるかな」という感じで(笑)、人生の安心材料になっています。