日本と同じ感覚で“韓国ライブ”に行ける未来へ イープラス、現地企業との提携で見えたチケット販売の課題
見えてきた日韓人気ジャンル、課題だった“番号問題”も解決へ
ーー9月からトライアルを始めて、手応えとしてはいかがでしょうか。具体的に人気ジャンルなどは見えてきましたか?
横山:売れるものと、売れないものがはっきりしましたね。日本のお客様が求めるのは、やっぱりK-POPイベントと韓国ミュージカル。特にミュージカルは昔から根強いファンの方がいるのですが、もしかすると「日本のミュージカル公演の案内がイープラスから届くのと同じような感覚でチケットが買えるんだ」という気軽さがあるようです。決してチケット代は安くないですし、韓国で開催されるわけですから航空券やホテル代を含めると全く気軽ではないのですが、韓国ミュージカルのパフォーマンスレベルはニューヨークやロンドンに次ぐと言われるほど高く、いわゆる「推し」のリピートから、作品自体の熱狂的なファンとなり、キャストの組み合わせを楽しむ方もいらっしゃいます。ミュージカルや舞台俳優とK-POP人気グループのメンバーが同じラインでキャスティングされているのも韓国ミュージカルの特徴であり、そういうバラエティを楽しむという方がイープラスを利用してくださっている印象です。この2ジャンルは需要が大きいですし、これからも拡大の余地があると思います。また韓国での展覧会チケットの取り扱いもあるのですが、いま開催中の『ディズニー100年特別展』は韓国が“アジアで初開催”ということもあって好評です。逆に韓国のお客様からは、韓国アーティストや俳優の日本公演チケットは当然人気がありますし、先日NewJeansなどが出演した『Coke STUDIO LIVE 2024』への反応も良かったです。公演以外だと、大阪城公園で開催された『クラフトビアホリデイ2024 produced by YTE』を扱ってみたところ好評でした。
ーー先ほどグローバルサイトのお話が出ましたが、そもそも海外のチケットを購入しようとしたとき、言語の問題をクリアしても、“現地の電話番号がないと買えない”という問題が起きています。そうした問題の解決のために両社ともにグローバルサイトが存在していると認識していますが、グローバルサイトと今回の提携での販売の違いやメリットを伺いたいです。
横山:おっしゃる通り、日本のお客様が韓国のチケットをインターパークで買おうとする場合、インターパークの本体サイトでは住民登録番号がないと買えません。そのため人気公演は、海外の購入者用のグローバルページで販売されるようになりました。イープラスも通常の販売方法だと、日本の携帯電話番号は必須で海外向けの決済方法にも制限があるため、2016年にグローバルサイトを立ち上げ、一定数のチケットを販売しています。今回の締結後、トライアルで販売している公演については、日本のお客様は日本のイープラスで韓国のチケットを買えるため、複雑な登録の手間や番号がないなどの心配はいりません。今後扱う公演数を拡大していくことで、これまでお互いにあった複雑な問題が解決されるのではないかと思います。
ーーということは、既存のイープラスのグローバルサイトと、インターパークでの販売と並行されるということですね。
横山:はい。同じ日本の公演をインターパークでも売るし、イープラスのグローバルページでも売る場合もあると思います。ただ僕たちも、グローバルサイトでインバウンド販売はやっているものの、直接海外のお客様にリーチできていないという点が課題だったので、やはりインターパークをはじめ現地のパートナーを作っていかないと、本質的にインバウンドを達成するということには繋がらないと感じていました。今回は韓国のインターパークとの提携ですが、ほかの国も含めて、こうした関係づくりを進めていこうかなと思っています。
イベント開催、在庫共有システム……日韓エンタメをより身近にするための展望
ーー今、イープラスのグローバルサイトではどれぐらいの公演数を扱っていますか?
横山:2024年度は、第3四半期の途中で2,000公演弱となっておりますので、年間では2,000〜2,500公演程度になると見込んでおります。ちなみにインバウンドを売るかどうかは、興行主から希望をいただいて掲載をすることが基本ですが、インバウンドをやらない興行主も多いんですよね。これだけ海外からお客様がいらしているのでインバウンドを増やしたい思いはあっても、現場の対応が整わないという面もあり、実施可能な公演は限られているのが現状です。
ーーインバウンド促進のためには、並行して現場整備も必要ということですね。本提携での取り扱いは、トライアルとして10公演ほどということですが、常時どれくらいの公演数があればという目標はありますか。
横山:オペレーションをかなりアナログでやっているので、当分は20~30公演ほどが限界かと思います。今後システムが整備できたらあらゆる公演が扱えるようになると思うので、目下の目標として100公演ほど揃っていると良いですね。ただ日本と韓国の公演数を比較すると圧倒的に日本の方が多く、人口差もあり日本の購買力のほうが高いので、日本公演のインバウンドにより期待が高まると思われます。潜在的に拡大の余地があるのは2.5次元舞台など、日本のアニメ、漫画、ゲームをベースとしたコンテンツですね。いま日本のミュージカル市場規模で伸びているのは2.5次元ミュージカルですが、韓国で2.5次元ミュージカルってほとんど上演されていないんです。日本のアニメやゲーム文化は韓国の若者にも浸透しているので、2.5次元の作品を韓国へ持っていきたいという日本側の制作会社も多いものの、韓国とのビジネスに簡単に手を出せないから、今回の提携で何かできないかとご相談もいただくようになりました。日本特有のコンテンツを知ってもらえるチャンスなので、2.5次元作品は押していきたいと思っています。 もうひとつ、お酒など食のイベントは韓国の皆さんにもっと知っていただきたいですね。ビールだけでなく日本のウイスキーも人気ですし、食のイベントは言葉も必要ないですから。実際お酒イベントの主催側も、「インバウンド客を増やしたい」と皆さん口を揃えておっしゃられるので、ニーズにマッチしているかなと思っています。
ーー夢が広がりますね。また、インターパークには、トラベル事業の強みもあります。今回の提携において、チケット販売以外でどのようなサービスが生まれる予定でしょうか。
横山:インターパークは、エンタメ事業より旅行事業の方が売上規模が大きいです。いま彼らがもっとも力を入れているのが、趣味性の高い「スペシャルインタレストツアー」と言うもので、ウイスキーホリックとか、キャンプホリックとか“テーマ”を決めたパッケージツアーです。たとえばキャンプ好きの人たちに「『フジロック』(『FUJI ROCK FESTIVAL』)という唯一無二の場所でキャンプをしてみませんか」と打ち出すとします。「このアーティストが出ますよ」とプロモーションするのもありですが、“空間を体験する”という独特なものは来ないとわからないので、「すごいキャンプが体験できて、音楽も楽しめますよ」という切り口でお客様を連れてくる。旅行会社ならではのプランニングですよね。「日本へ行ったときに面白いイベントがありますよ」という情報を、航空券を買った人にプッシュ通知してみるという試みも始めています。インターパークは日本の旅行会社とは複数の提携があり、エンタメ分野でも公演ごとの契約は他社でもありますが、エンタメにおける会社単位での提携は今のところイープラスだけです。これを日本でできる会社はなかなかないでしょうし、インターパークが旅行事業をやっている強みだと思っています。
ーー今後、実現を目指したい展望があればおしえてください。
横山:お互いにチケットだけではなく、フェスティバルやコンサートやイベントも一緒に作っていければという話もしています。この話とは別になりますが、実は今回の提携を発表した瞬間から、韓国フェスのオーガナイザーやいろんな人たちから「会えませんか」という連絡をいただいています。逆にこういうチャンスも広がるんだと今回わかりました。日本と韓国のアーティストがお互いにそれぞれの国で活躍できる場を作ることに加え、お客様も動くことで旅行事業にも繋がります。人の流れを作ることは、今後もっと力を入れていきたいですね。さらにインターパークとのあいだで最終目的地として決めていた構想のひとつに、チケットの在庫共有システムがあります。通常チケットの在庫は、イベンターさんからイープラス、チケットぴあさん、ローソンチケットさんと販売数を振り分けられ、そのなかからさらにインターパーク用の在庫を出しているのが現状です。そうではなく在庫を一元化して、たとえばほかの国の旅行会社が、日本のこの公演を観たいお客様がいるからイープラスの在庫データから取っていけるというふうに、全てがシステムで繋がる世界をどう作れるか研究中です。その流通や宣伝販促に関してもそれぞれ得意な提携先がやるという、そういう流れを作っていかないと、無数のエンタメをお客様にリーチさせることは難しいと感じているので、相当ハードルは高いですが実現を目指していきたいと思っています。
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