連載『lit!』第125回:レディー・ガガ、ロゼ&ブルーノ・マーズ……大きなインパクトや衝撃もたらしたグローバルポップ5選

 最近はポップミュージックの新曲がリリースされると、楽曲はもちろんですが、YouTuberなどのリアクション動画を見るのも一緒に楽しむようになりました。今回のラインナップで紹介しているレディー・ガガ「Disease」は、楽曲のインパクトも相まってリアクション動画の盛り上がりも抜群。最近のお気に入りは(よほどのファンなのか)レディー・ガガの楽曲関連に特化した動画を投稿しているJOSENSE(https://www.youtube.com/@j.o.s.e..)。もはや絶叫マシンの実況映像と化した「Disease」のリアクション動画は一見の価値アリです。こうした一体感のある楽しみ方も、近年のポップミュージックにおける傾向の一つかもしれません。

Lady Gaga「Disease」

Lady Gaga - Disease (Official Music Video)

 Depeche Modeを想起させる硬質なシンセサイザーの音色が鳴り響いた瞬間、きっと多くのファンが歓喜の声をあげたのではないだろうか。先日公開されたコンサートフィルム『GAGA CHROMATICA BALL』のラストでも告知されていた「LG7(≒Lady Gaga 7th Album)」の幕開けを飾った「Disease」は、(少なくとも音の面では)ポップに振り切った前作から一転して、『The Fame Monster』から『Born This Way』の時期を彷彿とさせるダークな世界観を全面に出した衝撃的なシングルだ。レディー・ガガといえば、映画『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』やブルーノ・マーズとの「Die With A Smile」でも存分に発揮されていたオーセンティックな側面と、カッティング・エッジな側面の両方を併せ持つアーティストとして知られているが、「LG7」では、久しぶりに後者に振り切った作風が期待できそうである。

 インパクトに満ちているのは楽曲だけではなく、そのMVにおいても同様だ。ハロウィンらしい郊外を舞台としたホラーテイストに仕上げつつも、これまでの各作品におけるレディー・ガガ同士が壮絶な戦いを繰り広げるかのような展開は、「911」でも歌われていた〈My biggest enemy is me(最大の敵は自分自身)〉の投影でもあるだろう。セクシャルな光景を想起させつつも、同時にメンタルヘルスと向き合う姿を表現しているようにも思える「Disease」のリリックが示すように、前作『Chromatica』で描かれた痛みとの戦いは「LG7」へと引き継がれ、再び多くのファンに力を与えてくれるはずだ。

Rosé & Bruno Mars「APT.」

ROSÉ & Bruno Mars - APT. (Official Music Video)

 現在、各メンバーがソロ活動を展開中のBLACKPINK。以前のソロ期よりも、さらにそれぞれの個性を感じられるリリースが続いていてファンとしては楽しい限りだが、その中でも特に大きな話題となっているのが、前述の「Die With A Smile」が大ヒット中のブルーノ・マーズとタッグを組んだロゼ。今回の楽曲は12月6日に発売予定の1stソロアルバム『rosie』の先行シングルという位置付けであり、コラボ自体はもちろん、アルバム全体のムードを予想する上でも重要な楽曲なのだが、軽快なポップロックのトラックに合わせて〈apateu, apateu〉のコールをしているうちに、そうした考えもどこかへ飛んでいってしまう。

 それもそのはず。楽曲のモチーフとなっているのは韓国の若者の間で人気の飲み会ゲーム(アパトゥ・ゲーム)の掛け声であり、リリックで描かれるのは、パーティーの場で意中の相手を誘う姿だ。とにかく「APT.」は“軽薄である”ということを徹底しており、ロックファッションを身に纏ったブルーノとロゼが無邪気にはしゃぐMVからも、そのコンセプトは十分に伝わってくる。とはいえ、それは(タイトに引き締まったドラムに象徴されるように)ブルーノのスキルに丁寧に裏付けされた“軽さ”であり、だからこそ、あらゆるシーンの枠を超えて、誰もがこの曲に惹きつけられてしまうのではないだろうか。本楽曲は公開から僅か1週間でSpotify上で1億ストリーミング再生を達成するというヒットを記録しており、年末のパーティーにおいても、きっと大活躍することだろう。

Tyler, the Creator「Noid」

Noid

 今年の『Coachella Valley Music and Arts Festival』でも見事なヘッドライナーパフォーマンスを披露していたタイラー・ザ・クリエイターだが、10月18日に突如として7作目のニューアルバムについて発表した際には、ファンのみならず音楽シーン全体に大きな驚きを与えた。だが、それ以上に衝撃的だったのは、実際に10月28日にリリースされた『Chromakopia』の先行楽曲的な位置付けとなった「Noid」だった。ヘヴィなギターリフが牽引する重厚な同楽曲は、近年のYeatやトラヴィス・スコットのような重いトーンの楽曲が存在感を発揮しているヒップホップシーンの中でも特に鮮烈に響き渡っていた。

 そして、真に驚くべきは、印象的なギターリフやリズム、フックなど、楽曲のほとんどのパーツが1977年に発表されたNgozi Family「Nizakupanga Ngzo」のサンプリングによって構築されているということだろう。誰から見ても成功者であるはずのタイラーが(MV同様に)“Paranoid”に襲われる様子を描いた同楽曲においてザムロック(1970年代に生まれた、ザンビアのロックミュージック)を代表する「Nizakupanga Ngzo」を起用したのは、リリックはもちろん、当時の同国における反抗のエネルギーを自身に取り入れようとした想いの表れなのかもしれない(ザムロックのシーンは近隣諸国の経済的な混乱と、エイズの流行に巻き込まれたことによって終焉を迎えたが、おそらくタイラーはその文脈も踏まえた上でサンプリングしているのではないだろうか)。

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