桜田通『“Orbiting Satellite” Tour 2024』最終公演レポ&インタビュー 「明日が少しでも良くなるような何かを届けられたら」

 6月9日からスタートした、桜田通のライブツアー『Dori Sakurada “Orbiting Satellite” Tour 2024』。アーティストデビュー記念ツアーからおよそ1年ぶりとなる今回のツアーで、桜田は3カ月かけて全国11カ所のライブハウスをまわるという新たな試みにチャレンジした。8月26日にSpotify O-EASTで開催された最終公演のレポートと、終演後のインタビューをお届けしたい。(東谷好依)

 午後6時45分。心地よく冷えたフロアに熱気が溜まっていく。午後7時。開演予定時刻を過ぎ、一瞬の暗転。ステージ下手からバンドメンバーが登場すると、パラパラと打ち鳴らされていた拍手が次第に揃い、やがてクラップへ。そのリズムにつられるように、真っ白な衣装に身を包んだ桜田通がステージ上に姿を現した。

 歓声を背負ってスタートした1曲目は、桜田の主演映画『ラ』の挿入曲「キボウノリズム」。疾走感あふれるメロディが、観客をあっという間に非日常へと引き込んでいく。間髪入れず、2曲目の「NOISE」。フロアの熱気に応えるように、渡辺裕太(Gt)がギターを高く掲げ、後ろ手でかき鳴らす。3曲目「君だけのHERO」で「どおり」コールを全身に浴びると、桜田が笑顔でフロアを見渡した。

「ツアーファイナルを迎えるということで、最後まで素敵な時間を作っていきましょう。皆とはこれからも会えると思うけど、この同じ時間は戻ってこない。だから今日は1つ1つを大切に、皆の記憶に残るライブをしていきたいと思っています」

 そんなMCに続く4曲目は、前回のツアーで初披露した「Moon and Back」。〈笑われたっていい/As you like it/生き抜いて/ありのままでいい〉という、繊細ながらもまっすぐなリリックを、きらめくメロディが彩る。アーティストデビュー曲となった「MIRAI」から、エモーショナルな人気ナンバー「Brand New World」へ。幾何学的なレーザーの青色がフロアを満たし、宇宙空間さながらの幻想的な風景を創り出す。「終わりが来るのは悲しいけど、この限りある時間を楽しんでいきましょう」という言葉から「限りある日々」へとひと息に駆け抜けた桜田が、音楽に浸る喜びを全身で表現するかのように高く飛び跳ねた。

 「ちょっと前まで200人とか300人くらいのライブハウスでやっていたから……僕も今日は緊張してます。どうですか慎之助さん、この感じ」と、桜田が投げかけると、慎之助(Ba)も「僕もちょっと緊張してる。人多いよね」と小さく笑う。「3カ月のツアーの中で、いつからか、訪れた土地のお客さんの特徴みたいなものを感じるようになったんです。すごい盛り上げてくれるとか、ライブ慣れした人が多いとか。じゃあ今日はどうかっていうと、もう完全にオーラスの人たち!」という桜田の言葉に、フロアにも笑いが広がった。

 和んだムードのまま、「Let you know」を皮切りにバラードパートへ。スクリーンには、滲んで輪郭を失った街並み。それを背景に、リリックが小説のように綴られる。桜田の低く甘やかなささやきから、9曲目の「会いたい」。のびやかな歌声、隙間を縫うようにギターのメランコリーなサウンドが流れこんでくる。真夏の空気を一変させるチーム・ハンサム!の「White Serenade」、ポジティブなエネルギーに満ちたNCT 127のカバー「Sunny Road」へと続き、12曲目は桜田の主演ドラマ『コーヒー&バニラ』エンディングの「メランコリック」。休む間もなく、じんのカバー「チルドレンレコード」のイントロが奏でられると、フロアのあちこちから歓喜の叫びが上がった。桜田がライブ活動初期からカバーしてきたこの曲、久しぶりの披露を待っていたファンも多かっただろう。

「このツアー中、仕事で上手くいかないことや、悔しいこともあったけど、週末になれば皆と一緒に楽しい思い出を作れて、ライブができて良かったと思える日々を過ごしてきたんです。皆も今、何か立ち向かうことがあったり、嫌なことを抱えていたりするかもしれない。でも、今日はここに来られて良かったなって、ギリギリトントンくらいに思ってもらえたらいい。そんなライブを最後まで届けていきます」

 14曲目は今回のツアーに向けて書き下ろした新曲「I’m on way」。散りばめられた英詞と、アグレッシブなサウンドが新しい。「One Word」のラスト、鮮烈な赤を背景にバンドメンバーがシルエットになると、畳み掛けるように重低音が響く「FICTION」へ。そこから躍動感あふれる「あの空へ」と、息つく間もないセットリストがフロアのボルテージを高めていく。

 「これだけ長いツアーをしたのは初めてで、週末にライブがあることが当たり前になっていたというか。明日からこれがなくなると、どんな感じになるのかなと思っています。皆に大声で名前を呼んでもらえる機会も、なかなかないじゃないですか」ツアーの終わりを噛み締めるように、桜田が静かに語りかける。しかし、フロアのあちこちから「どおりー!」と呼ぶ声が響き渡ると「あ、大丈夫です。『君だけのHERO』で十分呼んでいただいたので!」とサラリと返すところが、なんとも桜田らしい。

「音楽を始めた頃、進む道を迷ったり、後悔したり、自分の中で消極的になってしまう瞬間がありました。でも、そんな自分を肯定したい気持ちもあって。いつも悩みや迷いをお手紙やコメントで教えてくれる皆に対しても、選んだその道は間違っていないよって、そんな思いを伝えたくて作った曲があります。精一杯、届くように歌います」

 桜田が選んだラストナンバーは「それでいい」。〈今、不確かな事/目には見えなくて/それでも目を凝らす事に価値がある〉と、過去も現在も変わらず届けたい思いを丁寧に歌い上げた。

 ライブ中盤、桜田は「アンコールは用意していない」と宣言した。全18曲を終え、次々とステージからはけていくバンドメンバー。その背中を見送りながら、ゆっくりとフロアを見渡す桜田に期待の目が集まる。「皆との時間が終わるのが惜しいので、今日はもう1曲やりたいと思います」と告げると、大きな歓声が広がった。

 「音楽を始めた頃、皆への気持ちをしっかり伝えられたと感じた曲を。その頃に伝えたかった思いを、今日も変わらない気持ちで歌えることが、本当に幸せです」そうつぶやいた後、マイクスタンドを両手で握り、たっぷりと息を吸い込んで。ボーカルとキーボードのみのシンプルな構成で届けられた本当のラストナンバー、「きっと今日より」に観客が聴き入る。

 桜田は今回のツアーグッズに、色とりどりの惑星を巡る夜汽車をレイアウトした。桜田自身が描くお茶目でシュールなキャラクター「どおりいぬ」も、車掌の制服に身を包み、誇らしげに敬礼している。3カ月間走り続けた夜汽車は、この夜、終着駅にたどり着いた。しかし、終わるということは、前に進むということだ。終着駅のその先でどんな“はじまり”が待っているのか、次の物語を楽しみにしていよう。

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