RadioheadやROTH BART BARONと通ずる若き才能 山本大斗、時代を先取るジャンルレスな創作性

 福岡在住のシンガーソングライター・山本大斗が8月14日に新曲「バベル」を発表した。2023年1月に発表した「船出に祈り」から本格的な活動を開始した山本は、作詞・作曲・編曲からミックスまでを自ら行う現代的なクリエイター。EP『∞』を含め、これまでに発表した8曲はそのほとんどが各種ストリーミングサービスのプレイリスト入りを果たし、特にSpotifyの「RADAR: Early Noise」では常連となっていて、「バベル」のリリースタイミングでは初めてプレイリストカバーを獲得するなど、今後のさらなる活躍が予想される期待のニューカマーである。

山本大斗 - 船出に祈り/ Daito Yamamoto - Prayer for departure (Official Music Video)

 僕が彼の存在を初めて知ったのはソロアーティストとしてではなく、2019年から活動を開始し、現在もソロと並行して活動を続けているバンド・Art titleのボーカリストとしてだった。豊かな中低域を感じさせるその歌声は一聴して耳に残る魅力があり、僕が知った当時UKロックのテイストが強かった曲調は、同郷のThe Cigavettesを連想させ、個人的にもお気に入りのバンドの一つだった。

 しかし、シンガーソングライターとしての山本は、バンドの時とは一味も二味も異なる顔を見せている。楽曲の軸となっているのはアコギによる弾き語りで、先日オンエアされた『ALL GOOD FRIDAY』(J-WAVE)ではThe Beatles「Across The Universe」のカバーを披露していたように、まずはその歌声そのものが最大の魅力だが、そこにピアノやストリングス、ホーンセクションも交えた各曲のアンサンブルは、多彩な楽器に対する理解とアレンジ能力の高さを感じさせるもの。また、初期の楽曲は比較的フォーキーな印象が強かったが、徐々に音楽性の幅を広げ、近作ではインディR&B、ヒップホップ、ダンスミュージックなど、ビートの効いたトラックも増えていて、そのジャンルレスな嗜好性はやはりDAW世代のシンガーソングライターだと感じる。

 より具体的に各楽曲やリファレンスについて考察してみると、まず1曲目に発表された「船出に祈り」を聴いて僕がすぐに連想したのが、『OK Computer』〜『Kid A』期のRadiohead。実際に彼は、Radioheadとトム・ヨークのソロワークから影響を受けているそうで、YouTubeでは弾き語りによる「Last Flowers」のカバーも披露していたりと、その厭世的な世界観も含めてかなり親和性がある。また、当時のRadioheadに影響を受けていた『THE WORLD IS MINE』期のくるり、特に「ARMY」は直接的に「船出に祈り」のリファレンスになっているかもしれない。

山本大斗 - 18の息吹 (Official Visualizer)

 もう1組、山本の大きなインスピレーション源だと考えられるのがROTH BART BARON。フォーキーなメロディや管弦のアレンジに加え、コーラスワークやハーモニーからもその影響が感じられ、特に「18の息吹」の序盤は一瞬、三船雅也が歌っているようにも聴こえる。ときに厭世的、ときにニヒリスティックで、SF的とも童話的とも言える詩的な歌詞の世界観も、どこか通じるものがあると言えるかもしれない。Radiohead、くるり、ROTH BART BARONの3組は、いずれも生のアンサンブルとエレクトロニックミュージックの要素を持ち合わせ、時期ごとに、楽曲ごとに大きくスタイルを変えるのが共通点で、山本もまさにそういうアーティストだと言えよう。

 今年発表した「春を綴じる」と「デジタルノイズを走らせて」に関しては、どちらも4つ打ちを用いたダンスミュージック基調のポップソングになっていて、「春を綴じる」の合唱コーラスや、「デジタルノイズを走らせて」のラップ的なフロウなどからは、同時代的なグローバルポップに対する視座も感じられる。前述の『ALL GOOD FRIDAY』ではアリアナ・グランデ「thank u, next」のカバーも披露していたが、これが歌唱もトラックメイクもどちらも素晴らしい仕上がりで、音楽ファンからの支持を獲得しながら、マスへの発信力も併せ持ったシンガーソングライターであることを改めて感じさせた。

山本大斗 - 春を綴じる (Official Music Video)
デジタルノイズを走らせて

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