水瀬いのり「自分の思いは偽りなく伝えなきゃいけない」 等身大で向き合った前作と『heart bookmark』

水瀬いのり、今考える“好きな音楽”

手にしてきた宝物を抱えながら、また新しく自分のお気に入りを増やしていこう

水瀬いのり『heart bookmark』初回限定盤
『heart bookmark』初回限定盤

――そんな「アイオライト」と「スクラップアート」も経て、ハーフアルバム『heart bookmark』が完成しました。作品の位置づけとしては、どういう意味合いで作り始めたものなんですか?

水瀬:そもそも初めて聞く言葉だったから、「ハーフアルバムとは?」という感じでした(笑)。単純にフルアルバムを半分にしましたっていう、そのままの意味ですね。アーティストデビュー10周年を来年に控えていることもあって、チーム内で「フルアルバムを出すタイミングは今年じゃないよね」という話になりまして。

――きっと、普通は“ミニアルバム”という言い方をしますよね。

水瀬:そうですよね。でも、これはあくまで私のイメージですけど、“ミニ”だとちょっと小さすぎるというか(笑)。

――あはははは!

水瀬:“ミニサイズ”って言われるより”ハーフサイズ”と言われたほうが、なんかもうちょっと食べられそうな感じがしないですか(笑)?

――ああ、ピザ的な発想で。

水瀬:はい(笑)。ピザ的に、“ハーフ”のほうがもうひと切れ多く食べられそうかなって。お得感があるかなと思ってます。

――(笑)。ハーフアルバムに収録された新曲については、どんな方針で選曲していったのでしょうか。

水瀬:まず最初に、タイトルを決めることからこのアルバムは始まっていて。1stアルバム『Innocent flower』からずっとそうなんですけど、必ずアルバムタイトルを冠した楽曲を収録してきているんです。なので、タイトルを決めないと方向性が決まらないということで、『heart bookmark』という言葉を生み出すところから始めました。日本語に直すと「心の栞」という意味になるんですが、「これまでの活動で手にしてきた宝物を抱えながら、また新しく自分のお気に入りを増やしていこう」「心にブックマークを挟んでいこう」という思いを込めました。

――ということは、1曲目の「heart bookmark」がまず選曲としてはあったわけですか?

水瀬:順番で言うと「フラーグム」(テレビアニメ『アクロトリップ』オープニング主題歌)が最初なんですけど、それ以外の新曲に関しては一曲ごとにテーマや要件を設定して別々にコンペを行いました。それぞれの楽曲が独立した短編としても成立するようなイメージで……それをフルアルバムの想定で14、15曲集めてしまうとさすがにごちゃごちゃしすぎちゃうんですけど、半分の7曲くらいだったらオムニバス的に楽しめるかなと。なので既存曲の「アイオライト」や「スクラップアート」の世界観に寄せるのではなく、あえて意識せずに「あたたかいアルバムを作ろう」という感じで走り始めました。

――1曲目の「heart bookmark」は、柔らかくもリズミカルなソウルポップといった雰囲気ですね。先ほどのお話で言うと、“水瀬さんが今歌いたいもの”と“ライブで盛りあがる曲”のちょうど中間のようなイメージです。

水瀬:まさにそんな感じですね。「ラララ」を(ライブでは)みんなで一緒に歌いたいなって思っています。今回、ブラスを使った曲を作りたいなと思っていて。ソロで活動している以上、どうがんばってもボーカルは私しかいないので(笑)、なかなか大所帯感を出すのは難しいんですけど、そのぶん、ほかの楽器が歌うように自分を包み込んでくれる景色を音で作りたいなと思ったんです。それは最初に要望としてお伝えしたことでした。

――2曲目の「フラーグム」は、タイアップ曲でありながらも水瀬さんの今やりたい音楽にかなり近いですよね。

水瀬:そうなんです。でも自分から「こういう曲にしたい」と言ったわけではなくて、『アクロトリップ』制作チームの皆さんのイメージを白戸佑輔さんがうまく落とし込んでくれたんです。それがめちゃくちゃ私の曲になっていて、びっくりしました(笑)。でも、イントロなんかはすごく壮大で、こんなにかわいい曲なのに間奏でギターがギュイーン!って暴れていたり、組曲みたいに展開するんですよね。それが破綻することなく収まっているのは、さすがプロの仕事だなあと思います。

水瀬いのり「フラーグム」MUSIC VIDEO

――5曲目の「ほしとね、」はちょっとエレクトロ感があって、変化球のイメージです。

水瀬:電子音が使われていたり、ハモが本旋(メロディ)と同じくらい出ていたりもして、“声と音を楽しむ楽曲”という感じになっていますよね。パッと聴いた印象はかわいらしい楽曲だと思うんですけど、実は強めのビート感だったりするので「自分にこの縦ノリの感じが出せるかな?」という不安も最初はちょっとありました。しかも、ラップというかポエトリーリーディングのような表現にも挑戦していて、いろいろギャップを楽しんでもらえる一曲になったかなと思っています。

――6曲目の「グラデーション」はネオアコなどを彷彿とさせるような音像の、アコースティックなミディアムバラードになっています。

水瀬:これは本当に今の私が好きな温度感、テンション感の曲ですね。それでいて新しさもあって……作曲してくださった近藤世真さんとは初めましてだったんですけど、「Aメロ、Bメロ、Cメロと徐々に盛り上げていくのではなく、パートごとに強弱をつけない感じで」とディレクションをいただいたんです。どうしても歌っているとだんだん気持ちが盛り上がってきちゃうんですけど(笑)、それを極力抑えるという、お芝居に近い感覚のレコーディングでした。鼻歌で終わるのも含めて、「誰かに伝えたい」というよりも部屋を暗くして心の赴くままに口ずさんでいるようなイメージで歌いました。

――そして、ラストナンバーの「燈籠光柱」は、基本的にはラテンだと思うんですけど、いろんな国のトラッド要素がごちゃまぜになった不思議な味わいの一曲ですよね。

水瀬:世界のお祭りをぎゅっとしたみたいな感じですよね。祝祭感もありつつ、自分が乗り越えなくてはいけない先のゴールがぼんやり見えてくるようなイメージもあって。ただにぎやかなお祭りというだけじゃなくて、神秘的なものもすごく感じられる曲になったと思います。歌詞に〈祈り〉という言葉が使われていることもあって、この光の柱がこの先も続いていくんだろうなという意味も込めて、噛み締めるように歌いました。

 

――今おっしゃった〈祈り〉という歌詞には、やはり特別な思いがありますか?

水瀬:そうですね。この曲を作ってくださった栁舘周平さんにも「ついに〈祈り〉を使ってしまった」という思いがあったらしいです(笑)。禁忌とまではいかないけど、ちょっと奥の手みたいな。

――パンドラの箱的な。

水瀬:そうなんですよ(笑)! でも、私としてはすごくうれしいですし、昨年からライブでの声出しが解禁になったタイミングでまたこうして盛り上がれる楽曲を書いていただけて、すごく意味のある〈祈り〉になったなと思います。

――歌詞の面では、全般的に〈誰も味方がいない日も/味方になれるそんな歌を歌って〉(「heart bookmark」)や〈閉じた窓こじ開けて深呼吸した/そしたら自然に ルララ 歌になってた〉(「フラーグム」)、〈それぞれが寄り添えるような/曇りのない歌があれば〉(「ほしとね、」)のように、水瀬さんが歌を歌う理由みたいなものを匂わせるフレーズが目立つ印象がありました。

水瀬:なんでしょう……作家さんたちが思う私のイメージなんですかね?

――ご本人の希望でそうしたフレーズが入っているわけではないんですね。

水瀬:はい。でも、私はライブのMCでも「こういうものを届けたい」という気持ちを口に出して言うタイプなので、それが作家さんたちにも自然と伝わっているのかもしれないです。

――意図せずしてそうした共通点が生まれている、と。

水瀬:「heart bookmark」の歌詞なんかは、最初に読んだ時は本当にびっくりしました。自分が思っているよりも先のこと、答えの見つからないことがこの歌詞のなかで答え合わせみたいになっていて、「私はこれが言いたかったんだ!」と気づかされるというか。私よりも私のことを理解している人がいつの間にか周りにたくさんいてくれることがうれしいですね。それに応えられるように歌いたい、というモチベーションにもつながりました。

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