BloodPop®「日本の音楽にはポテンシャルがある」 東京発グループ、f5veのプロデュースに情熱を注ぐ理由

 f5ve(ファイビー)というグループをご存知だろうか。E-girls/Happinessのメンバーとして活動していたKAEDE、SAYAKA、RURI、MIYUUの4人と、iScreamのRUIの5人で結成された東京発の異次元ドリームグループである。LDH JAPANと、世界的マネージメント会社のThree Six Zeroがタッグを組み、アメリカを拠点に世界進出を計画。コンセプチュアルな楽曲とMVが早くも国内外問わず話題を呼んでおり、ここから先の展開が期待される存在である。

 そんな彼女たちのエグゼクティブプロデューサーを務めるのが、Justin BieberやLady Gaga、Bring Me The Horizonから嵐やJUNG KOOK、最近では星街すいせいまで、さまざまな楽曲に携わってきたグラミー賞プロデューサー・BloodPop®だ。今回リアルサウンドでは、来日タイミングの彼に話を聞くことができた。ジャンルの垣根を越えたアーティストを手掛けるうえで大切にしていること、f5veをプロデュースするに至るまでの経緯や彼女たちの強み、さらには日本のポップカルチャーの魅力や発展について思うことなど、示唆に富む貴重なインタビューをお届けする。(編集部)

BloodPop®のプロデュース哲学

ーー音楽プロデューサーとしてのキャリアをスタートさせたきっかけについて教えてください。

BloodPop®:もともと僕はゲームデザイナー志望で、趣味として自分の曲をSoundCloudで公開していました。少しずつ人気が出てきてDJをする機会も増えたけど、バンクーバーでGrimesの初ライブに出演した頃はまだお客さんが1人しかいなかったな。その後、Charli XCXのデビューアルバムに自分の曲が採用された時、初めて音楽でお金を稼いだ実感があって。それをきっかけに、ゲームデザイナーよりもミュージシャンの方が向いているんじゃないかなと思うようになりました。ちなみにその時のギャラの300ドルは、全部サブウェイのサンドイッチに使いました(笑)。

 そこからGrimesのツアーに参加するようになって、初めて日本に来たのは、2012年にGrimesが『SUMMER SONIC』に初出演した時。GrimesとDiplo、Skrillex、TOKiMONSTAとカナダを横断するツアーにも参加しましたね。その縁でSkrillexのレーベルと正式に契約して、2016年頃まで一緒にたくさんの楽曲を制作しました。そのうちのひとつが僕にとって初のNo.1ヒット曲となったJustin Bieberの「Sorry」。それ以降、ポップスのアーティストだけでなく、ラッパーや映画の音楽も手掛けるようになりました。

Justin Bieber - Sorry (PURPOSE : The Movement)

ーーBloodPop®さんのプロデュース哲学や音楽制作アプローチの特徴を教えてください。

BloodPop®:プロデューサーとしてやりたいのは、そのアーティストが今一番輝ける姿にするということ。それは映画作りにすごく似ていると思う。ドキュメンタリー映画の監督がその人の人生が一番よく視聴者に伝わるようにするのと同じように、音楽をプロデュースしています。例えば、Lady Gagaと曲を作る時は、彼女と話す時間が8時間で、実際の楽曲制作は2時間ぐらい。そうすることで、彼女が今ファンに何を一番伝えたいのか、どうしたら一番伝わるのか、それとファンが何を求めているのかがすごく立体的に見えてくるんです。また、僕が作る曲自体も映画のように起承転結をすごく重要視しています。曲の序盤で全部出してしまうのではなく、少しずつ出していったり、ピークのところで意外な部分が出てきたり、そうやってストーリーを伝えることを心がけていますね。

ーーLady GagaやJustin Bieber、Vampire Weekend、Madonnaなど、世界的アーティストと仕事をされていますが最も印象に残っているエピソードを教えてください。

BloodPop®:エピソードが多すぎて選ぶのは難しいけど、ひとつ挙げるとすれば、Lady Gagaの『Chromatica』(2020年)というアルバムを全部プロデュースした時のことかな。リリースされた翌週からコロナ禍でロックダウンになり、みんなが家にいないといけなくなりましたよね。結果、収束するまでの期間はアルバムを深く聴き込んでもらえる絶好の機会になったし、そのおかげでアルバムの内容に共感する人が増えたのは、すごくユニークな経験だったと思う。

 僕が作る曲の中で最も意義のある体験だと思うのは、リスナーが曲として楽しむだけでなく、その人の人生の一部分になったことを実感できた時。そういう時に音楽をやっていてよかったなと思う。それで言うと、Lady Gagaの「Rain On Me」(Ariana Grandeとのコラボ曲)は、すごくネガティブな気持ちが蔓延していた時期に、聴く人にポジティブな気持ちを与えられたのではないかと思っています。

Lady Gaga, Ariana Grande - Rain On Me (Official Music Video)

ーーポップス、ロック、R&Bなど、様々なジャンルで活躍されていますが、ジャンルの垣根を越えて仕事をする上でどんなことを大切にしていますか?

BloodPop®:アーティストには音楽を通して伝えたいものが必ずある。それをコミュニケーションを取りながら見つけて、どう体現するのかを考えるプロセスは、どのジャンルの音楽制作でも共通しています。だから、アーティストが伝えたいことが全面に出る曲をプロデュースするという点さえブレなければ、それこそJustin BieberからBring Me The Horizonまで、あらゆるジャンルのアーティストの曲を作ることができるんです。

f5veで挑む日本のガールズグループの世界進出

f5ve

ーーf5veをプロデュースすることになった経緯を教えてください。

BloodPop®:僕が初めて買ったCDは宇多田ヒカルさんなんですけど、それくらい昔から日本の音楽カルチャーが大好きで。彼女の熱心なファンだったので、CDを親に日本から取り寄せてもらいました。宇多田さんの音楽を知ったのはゲームの『キングダム ハーツ』がきっかけ。そこから日本やアジアの音楽に興味が湧いて、J-POPを積極的に聴くようになりました。例えば、m-floやTERIYAKI BOYZ®もそうだし、CAPSULEや中田ヤスタカさんにもすごく影響を受けています。特に音楽を始めたばかりの頃は、CAPSULEにインスパイアされた曲をよく作っていました。あとはアニメの『フリクリ』をきっかけにthe pillowsのことも知りましたね。昔からJ-POPへのリスペクトは深かったし、インスパイアされてきたなかでも特にPerfumeが好きでした。

 そういった背景があるなか、2017年にヘッドフォンブランドの「Beats by Dre」が東京で開催したイベントにDJとして招待されたんです。その時の会食でVERBALさんに「もしかしてTERIYAKI BOYZ®の人ですか?」と声をかけたところから、VERBALさんとの親交が深まっていきました。f5veをプロデュースすることになったのは、彼女たちが所属するLDH JAPANでグローバルプロジェクトのお手伝いをしているVERBALさんつながりで、彼といろいろ話すなかで決まったことなんです。

ーーこのプロジェクトのどんなところにやりがいを感じていますか?

BloodPop®:僕がやりがいを一番感じているのは、日本のガールズグループが世界でどこまで活躍できるのか、それに直接関われること。アメリカではまだまだ日本の音楽やエンタメが活躍する場が少ないと思う。その大きな理由のひとつは、アジアのコンテンツという枠では、K-POPがあまりにもマーケットシェアを取りすぎているから。でも、日本の音楽はもっとそこに食い込んでいけるポテンシャルがあると思っています。

ーーf5veの音楽性や方向性、グローバル展開について、プロデューサーとして、具体的にどのようなビジョンをお持ちですか?

BloodPop®:まず、f5veのユニークなところは、これまでたくさんのガールズグループが出てきたけど、彼女たちの音楽性やビジュアルも含めたコンセプトは、これまで誰も見たことがないものになっているという点。もちろん、K-POPのように世界にムーブメントを巻き起こした日本のポップグループはまだいないから、f5veがグローバルに浸透するには時間がかかるとは思う。最近リリースした「Underground」は、歌詞が全部日本語なのにYouTubeのコメント欄には「K-POPの新しいアーティストが出てきた」というようなことも書かれています。海外の音楽ファンがまだその違いを理解できていないということですよね。でも、彼女たちの視点や生まれ育った環境、これまでの経験は本当にユニークだから、それをなるべく紡ぎ出して、世界の人々に紹介できるような形でパッケージしたいと思っています。

ーーf5veがこれから世界で活躍するためには、どんなことが求められていると思いますか?

BloodPop®:一番大事なのは素の自分をさらけ出すことではないでしょうか。彼女たちはすごく素敵なアーティストだし、日本の素敵なカルチャーを背負っている。だから、わざわざK-POPグループの真似をせず、そのままの自分たちを伝える。そういったオーセンティックなコンテンツを今のファンは求めているから、それを大事にしないといけないと考えています。

 普通の音楽レーベルだったら、海外に自国のアーティストを輸出したい場合、海外の有名アーティストとコラボさせたり、K-POPみたいに洗練されたMVを予算をかけて作ることをまず考えると思う。でも、それはf5veにとってはオーセンティックではない。それよりも彼女たちが普段、東京で生活して感じていることや自分たちのライフスタイルをそのまま曲にするほうがいいアプローチなのではないかと。今の世界中のエンタメファンは、そういったコンテンツを求めていると思います。

 例えば、アカデミー賞でミシェル・ヨーさんが主演した映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』は、制作予算で言えばマーベル映画の足元にも及ばないだろうけど、メッセージ性が強いし、それに共感した人がたくさんいる。エンタメファンの需要とすごくマッチングしていた作品だったんじゃないかな。

 それにこのムーブメントは音楽業界にも表れています。今は大手レコード会社がたくさん予算を使って作った曲が必ずNo.1になるわけではないですよね。無名のアーティストがTikTokで公開した曲にたくさんの人が共感して、それを元にみんながそれぞれ動画コンテンツを作り、バイラルすることでその曲がNo.1ヒットになる、そんな時代になりました。だから、f5veのプロデュースにしても、リアルな彼女たちのストーリーを描いて、それをファンに伝えていくことを重要視する戦略をとっています。

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