爆風スランプが再集結して伝える「IKIGAI」=“生きがい” 40年の道のりとこれからを全員で語る

爆風スランプが伝える「IKIGAI」

世界共通語化している“IKIGAI”は「現代の日本人に響くかもしれない」

爆風スランプ・サンプラザ中野くん(Vo)(撮影=池村隆司)
サンプラザ中野くん(Vo)

――そもそも中野さんのなかに「IKIGAI」というテーマがあった、というのは?

中野くん:私、この20年以上、健康に興味があって。健康モノでずっとネタを漁ってるんですけども、Netflixの『100まで生きる: ブルーゾーンと健康長寿の秘訣』っていうドキュメンタリーを去年観たんです。高齢者の多い場所を世界中からいくつかピックアップして、そこにジャーナリストが訪れて、どうしてこの地域は長生きできているんだろう、ということを探るもので、そのなかに沖縄があったんですね。沖縄の老人たちを取材してるんですけど、そこで出てきた言葉が「生きがい」なんですよ。そのアメリカ人のジャーナリストは、日本の沖縄には「生きがい」という言葉がある、と。いいものを食べるとか、いい空気を吸うとか、いい運動をしているとか、そういうことももちろん大事だけど、精神的な面で言うと「生きがい」というものが100歳超えの人たちの多い地域を支えている。精神も重要だ、と言いますか。

 そのなかで「IKIGAI」っていう言葉が、「MOTTAINAI」とか「KAWAII」のように世界共通語化している、と語られていて。そういえば「生きがい」って言葉、我々日本人もずいぶん長い間忘れてるような気がするなあ、と思って。やっぱり90年代ぐらいから――バブル崩壊後ですかね。お金を稼いで勝つか負けるか、みたいなことが……最近も、老後は2000万円以上の貯金が必要って言われていたじゃないですか。生きるためには金を稼ぐ、金を稼ぐことで生きていく、みたいな。そういう精神に日本は蝕まれていたけど、沖縄には「生きがい」を持って輝いている人たちがいるんだなあ、「生きがい」って現代の日本人に響くかもしれないぞ、と。特に中高年にね。我々のファンは当然中高年なので、中高年パワーに火を付けるには素晴らしい、いい言葉なんじゃないかなと思いました。

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末吉:この曲を作ってる時、私、イギリスのブライトンっていう街にいたんですけど。データ送って、「今日の昼間空いてるから作業する」ってメールしたら、河合さんがそのメールを見なかったの。「もう! 送ってこないから今日の昼間空いちゃったじゃん!」って思いながらも、煮詰まってるし、散歩しよう、と。で、散歩してたら「IKIGAI CAFE」っていう店があったの。

――えっ、ブライトンに?

末吉:ブライトンに。日本人がやってるのかなと思って入ったら、香港から移住してきた人で。「なんでこの名前にしたんですか?」って聞いたら、「沖縄の友達からこの言葉を聞いて、いいなあと思った」と。コーヒーとパンのお店なんだけど、「コーヒーとパンは僕の『生きがい』です」って。食べたら美味しくてさ、泣けてきちゃった。こんなことあるんだなあ、と思った。

――中野さんも「俺の生きがいってなんだっけ?」と考えたりしました?

中野くん:すごく考えましたね。コロナの時、歌えなくなって、で、どんどん声が出なくなっていくんですよね。日常的に歌ってないから。それで、そのあと、なんだか知らないけど、般若心経を唱えるようになって(笑)。

――突然ですね。

中野くん:それにはね、ひらめきがあったんですよ。「般若心経を唱えるといいことがあるぞ」っていう。それで、去年の1月から般若心経を唱えてるんですけど、そうしたらどんどん声が出るようになって、歌もどんどん進化して。「あ、俺はやっぱり、歌い続けることが『生きがい』だわ」って、納得して。(「IKIGAI」は)ラップですけども(笑)。

爆風スランプ・パッパラー河合(Gt)(撮影=池村隆司)
パッパラー河合(Gt)

――この歌詞の何がいいって、バランスが悪い。

中野くん:はははは!

――「私はあなたが好きなんです」「私は仕事が好きなんです」って、ワンコーラスずつ「生きがい」が歌われていく構成ですけど、最初の「あなたが好きなんです」の人は、これ、ほぼストーカーですよね。

中野くん:そのギリギリを狙ってますよね。

――「政治が好きなんです」という人が出てくるのも……今、政治を避けるじゃないですか、ミュージシャン。というか、有名人全般。

中野くん:避けますよね。

末吉:私はこれを聴いて「中野らしいなあ」と思いましたね。

中野くん:でもこの歌詞、政治の主義主張に関しては、ひとことも語ってないんですよね。ただ、日本も混迷を極めていて、世界的に混迷を極めているわけなんですけども。でも「戦争反対」って言うのも、受け取り方が極端に出ちゃうし、なんかいい感じの言い方はないかな、と思っていた時に、「あ、今、政治の時代がきているな」と思ったんですよ。日本における政治の時代って、70年安保、学生運動の時にみんなが蹴散らされて、次はシラケ世代になって以降、3S政策に乗せられて、「政治を語るなんてかっこ悪いですよ」みたいな感じになったんだけど、ついに今、政治の時代がきた、って思ったんです。それを4番にうまいことはめこめたなと。この歌詞、「生活と政治は分けない」って言っているだけなんですよね。自分のなかでこの言葉が出てきた時に、「なるほど!」と思いました。政治って、生活の上に成り立ってるもんだよね、という。それって当たり前というか、普通に考えてたことが言葉にできてよかったなと思いました。

爆風スランプ・ファンキー末吉(Dr)(撮影=池村隆司)
ファンキー末吉(Dr)

――河合さんはいかがですか?

河合:MVを観ると、みんなあきらかに老人になってる、じいさんバンドだなあとも思ったんだけど(笑)、観た人がみんな「かっこいい」って言ってくれるので。それは4人でやっているのがいいんだろうな、それがみんな嬉しいんだろうな、と思って。海外のバンドも、60歳を過ぎてもやってるじゃないですか。今はそうなんだろうな、60歳を過ぎた人がすごく元気で「まだまだやるよ!」って、そういう風があるんじゃないかな、と。少し前に、僕と中野で有吉(弘行)くんの番組(『有吉反省会』)に出た時に、「これから何したいですか?」と聞かれて。それで「売れたい」って言ったら、びっくりされた。「まだ売れたいのか!」みたいな。だから、人生長いってことですよね。

中野・末吉・和佐田:(笑)。

河合:まだまだ先があると。

――でも、プレイスタイルは変わってないですよね、みなさん。歳とともに枯れたりとか、キーが下がったりとか、手数が減ったりとか――。

末吉:それはないなあ。

和佐田:楽して効率よく音を出すという考え方は、楽器を弾くことに関しては一切してない。昔の自分に「かっこいいおっさんだな」って思われるように弾こう、っていう。末吉と一緒に、ハードロックのバンドをやってるんですけど――。

――はい、X.Y.Z.→Aですね(ボーカルはLOUDNESSの二井原実、ギターは筋肉少女帯の橘高文彦)。

和佐田:末吉がね、いまだにBPM170ぐらいの曲でツーバスを踏むんですよ。後半30分ぐらいずーっと。ハアハア言いながら、もう死ぬ間際ぐらいの――。

末吉:死にそうだね(笑)。

和佐田:その時にね、「ファンキー末吉は偉大なミュージシャンだ」というのは知ってるけど、このドラムを叩いてる時がいちばん偉大だな、と思って。「人間、こういうところに惚れるんだな」「理屈を越えたところで人を惹きつけるものがあるんだな」「バンドっていうのはそういうふうなものの集まりなんじゃないかな」と思ってね。それが今の爆風スランプからは出てるんではないかな、と。

爆風スランプ・バーベQ和佐田(Ba)(撮影=池村隆司)
バーベQ和佐田(Ba)

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