『テレ東音楽祭』大森時生が語る演出の核心 過去と現在を等価に並べる独自の視点、名曲と“出会い直す”歌番組に

今年6月28日、およそ4時間半にわたって生放送された『テレ東音楽祭2026夏』(テレ東系)が大きな反響を呼んだ。昭和・平成の名曲、伝説的アーティスト、記憶を呼び起こすドラマソング、そしてテレビ東京ならではの大胆な演出──SNSでは放送中から「テレ東にしかできない」「他局の音楽番組とは違う」といった声が相次ぎ、音楽特番のあり方そのものをめぐる議論も広がった。
今回、その番組づくりの中核を担ったのが、総合演出を務めた大森時生だ。2019年にテレビ東京へ入社し、『イシナガキクエを探しています』などのフェイクドキュメンタリー、展覧会『行方不明展』『恐怖心展』などを手がけてきた気鋭の制作者である。音楽番組を専門に作ってきたわけではない大森は、なぜ『テレ東音楽祭』でこれほど強いインパクトを残すことができたのか。そこには、過去と現在、メジャーとマイナー、懐かしさと新しさを等価に並べる独自の視点があった。(黒田隆憲)
最新音楽ショーではない、フラットな音楽番組を
──まず、大森さんがテレビ東京に入社された経緯から聞かせてもらえますか?
大森時生(以下、大森):実を言うと、最初はテレビ局で働くつもりはなかったんです。父親の仕事の影響もあって、就活の時も周りにはコンサルや商社のような企業を受ける人が多く、自分もそういう会社を見ていました。ただ、その頃たまたまテレビで『ハイパー ハードボイルド グルメリポート』というドキュメンタリー番組や、『山田孝之の東京都北区赤羽』のようなドラマを観て、すごく面白いなと思ったんです。
大学時代は時間があったので、テレビや映画もよく観ていたし、ものづくりやコンテンツには興味がありました。でも、映画サークルに入っていたわけでもないし、自分がそれを仕事にするイメージは特になかったんですよね。とりあえず「テレ東だけは受けてみようかな」と。就活のタイミングとしても、テレ東は他のテレビ局より少し遅かったので間に合ったというのもあって。それで、たまたまというか、なんとか入社できたという感じですね。
──これまでどのような番組を担当されてきたのでしょうか。
大森:入社してからは、ずっとバラエティを作る部署にいます。その中でフェイクドキュメンタリーを作ることが多かったですね。その一方で、『バカリズムのちょっとバカりハカってみた!』のようなゴールデン番組も担当しています。『テレ東音楽祭』には、入社2、3年目くらいから関わっています。当時は演出というより制作進行に近い立場でしたが、昨年から演出を担当するようになり、今年は構成やVTRなどの演出を行うようになったという感じです。歌撮りやそういった面は別で演出の方に入っていただき、協力しながら番組を制作しています。
──普段、音楽番組とは少し異なる畑にいるからこそ活かせた“強み”はどのような部分だったと思いますか?
大森:いろいろな歌番組を観ていると、もちろん番組ごとに特色はありますが、今届けたいアーティストや楽曲を紹介する“最新音楽ショー”としての役割が大きいように感じます。それは音楽業界にとって欠かせない、とても大切な役割です。一方で僕は、歌番組には世代もジャンルも知名度も異なる音楽が同じ場所に集まり、それぞれの魅力が一堂に会している面白さもあると思っているんです。
──というと?
大森:たとえば村上隆さんは、2000年前後に“スーパーフラット”という概念を提唱しました。日本美術に連なる平面的な表現を、浮世絵からマンガやアニメまで接続すると同時に、現代美術とサブカルチャー、芸術と商品とのあいだにある境界や序列そのものを問い直し、それらを同じ平面に並べてみせた。僕は、歌番組にもそれに近い役割があると思っています。最新のヒット曲も、何十年も前の曲も、同じ歌番組のステージに立てば、すべてが“音楽”として視聴者の前に現れる。新しいか古いか、いま売れているかどうかではなく、その瞬間にどれだけ人の心を動かすか。歌番組は、音楽をそうやって一度フラットに並べ直せる場所なんじゃないかと思うんです。
──それは、フェイクドキュメンタリーを作ってきた大森さんの感覚ともつながりますか?
大森:作っているときに意識していたわけではありませんが、言われてみれば近い部分はあるかもしれません(笑)。フェイクドキュメンタリーでは、現実と虚構を分けている境界を揺らすことで、観る人に「これは何なんだろう」と能動的に受け取ってもらう。今回の『テレ東音楽祭』でも、過去と現在、ジャンルや評価といった既存の区分をいったん外して、さまざまな音楽が思いがけず接続する状態を作りたいと考えていました。既存の境界を揺らし、観る人の中で新しいつながりや文脈を生み出すという意味では、フェイクドキュメンタリーと共通しているのかもしれません。
いわゆる懐メロ番組や、80年代、90年代の時代を生きた視聴者向けに振りきった内容にするということとも少し違います。すべてが均質に、同じ場所に存在しているような感覚。そこが、今回目指したところです。
──ネットやYouTubeによって、過去の音楽も現在の音楽もフラットに触れられる環境になっています。視聴者側にも、そうした感覚が浸透しているからこそ受け入れられた部分もあるのではないかと思いました。
大森:それはあると思いますね。テレビ局の人間——僕も含めて——みんな若者のことを結構舐めてしまいがちだと思うんです。「若者は最新の音楽じゃないと喜ばない」みたいな。でも、僕はそうではないと思っています。
たとえば、松原みきさんの「真夜中のドア~Stay With Me」やORIGINAL LOVEの「接吻」がTikTokでバズることもそうですが、若い世代の中にも、いいものはいい、響くものは響くという感覚がある。80年代、90年代の曲であっても、いいものはいいし、響かなければ響かない。それは変わらないんじゃないかと思います。
──大森さんご自身の音楽体験としては、どのようなものが大きかったのでしょうか。
大森:学生時代からヴェイパーウェーブというジャンルがすごく好きでした。Macintosh Plusから始まって、Saint Pepsiや猫 シ Corp.、2814、Nmesh、豊平区民などをずっと聴いていましたね。식료품groceriesやt e l e p a t h テレパシー能力者も好きでした。ヴェイパーウェーブの何が好きかというと、ショッピングモールのBGMや古いアニメのサンプリング、ペプシやフォードのCMのような、過去の記憶に結びつく素材を使って、架空の郷愁のようなものを作るところ。たとえば식료품groceriesは架空のスーパーマーケットを丸ごと一枚のアルバムにしている。本来は自分の記憶ではないはずなのに、なぜか懐かしく感じる。過去をそのまま再現するのではなく、断片を拾い集めて、別の記憶として編集し直す。その感覚が、当時の自分のムードにすごく合っていました。
──そのサンプリングやディグの感覚が、今回の『テレ東音楽祭』にも色濃く反映されているように感じました。
大森:そう思います。たとえば、売上枚数やYouTubeの再生数、懐かしのコンテンツをまとめたサイトなどを見ながら、自分の中で「これはいい」「これは面白い」と思えるものをチョイスしていったんですよ。単にその世代で売れていたものやヒットしたものを集めたわけではありません。まず自分の目で見て、いいと思えるかどうか。その上で、当時をリアルタイムで知っている会社の上司にも見てもらい、どんな記憶や感情が呼び起こされるのかを確かめる。つまり、当時のヒットの大きさと、現在の自分の感覚、そしてその時代を知る人の記憶。その三つを重ねながら選んでいったんです。単なる懐メロの総集編ではなく、過去の音楽を現在の視点でディグし直したことが、結果的に今回の番組のカラーになったのだと思います。
──40代、50代だけで作っていたら、逆に若い世代には届きにくかったかもしれませんね。大森さん独自の視点が入ったことで、令和の今やる意味が生まれたように感じます。
大森:もちろんそれは、いろんな方の協力があってこそできたことです。ただ、亜蘭知子さんや、泰葉さん、松原みきさんや大貫妙子さんのように、当時から知られてはいたけれど、今の方がより評価が高いように感じる存在もいる。リバイバルと言われるけれど、実は新たにディグされている存在でもあると思っていて。音楽は、時代の変化によって急に復権することがあり得る。それがすごく面白い。『テレ東音楽祭』が、そんな“出会い直し”のきっかけになればいいなと思っていましたね。



















