藤原さくら×髙木麻穂「初恋のにおい」対談 “切なさ”を描き切った楽曲&アニメーション制作秘話

細かなキャラクター設定から作り上げた「初恋のにおい」の世界観

――あらためてどういう作品ができあがったと感じていらっしゃいますか?

藤原:本当にさすがのひと言なんですけど。私も恋愛でうまくいかなかったことや傷ついた経験があるなかで、「この作品を作ってよかった!」って思えたし。今、傷ついている子とか、ああいうことあったなって思っている子にも寄り添ってくれると思います。直接的に「大丈夫だよ」と言っているわけではないんですけど、仲間がいる気持ちになれる作品が作れた達成感はあって。麻穂さんが、「誰かが自分の恋愛の体験談をYouTubeのコメント欄に書いて、他の人がそれに対して『大丈夫だよ!』って返信してくれるような作品にしたい」と話していて。私もみんなが自分事として感じてくれるような作品にしたいと思っていました。実際に公開されたあとに、実際にコメント欄を見て「できてる!」って思いましたし、寄り添えていることが嬉しいですね。

――素晴らしい作品ができた、終わり! じゃなくて、届くべき人に届くところまでイメージされていたんですね。

髙木:今回、かなりターゲットを絞っていて。失恋した女性に刺さってほしいっていう。私も失恋した時に「Yahoo!知恵袋」で同じように失恋した人を探したりしたので(笑)。

藤原:わかるー(笑)!

髙木:そういう時に、こういうMVってすっと体のなかに入ってくるんじゃないかな、と。ひとりじゃないんだって思ってもらえたらベストだと思っていましたが、実際にコメント欄にも同じような体験をしている人が書き込んでくれているのを見て、そういう作品になったし、成功したのではないかなと思います。

――私も作品を拝見して、思い出が蘇るとともに、言葉にできない切なさというか、心がキュッとするような感覚を味わえたというか。髙木監督や藤原さんも、そういう感覚は作品を作る際や鑑賞する際に大切にされているんでしょうか?

藤原:本当にすごく大切にしています。ラジオで流す曲を選ぶ時も、自分の心が「おっ、いいな!」って震えたものを流したいと思っています。そういう感覚って、平坦に仕事をしていたら忘れちゃうかもしれないですけど、今回の麻穂さんとのお仕事は自分の心がいい意味で慣れないというか新しい刺激でした。ありがたいなあって思います。

髙木:私も、すごく大切にしていて。好きな人がいる女の子って、その人のために、表情ひとつにしても鏡の前で練習したりすると思うんです。生きていくなかでベストを尽くして作り上げたものを、好きな人に見てもらいたい。そういう健気なところに心がキュッとなるので、作品でも表現していきたいなあと。誰かをハッとさせることができたらいいなと思います。

#藤原さくら - “初恋のにおい”Music Short Video 1
#藤原さくら - “初恋のにおい”Music Short Video 2
#藤原さくら - “初恋のにおい”Music Short Video 3

――今作のなかで、具体的に心がキュッとしたところを挙げると〈マフラー〉だったんですね。マフラーは、最初から映像や歌詞に登場していたんですか?

髙木:そうですね。さくらさんに最初に絵をお見せした時点で、マフラーを巻いている海のシーンがあって。

藤原:巻いていたマフラーがフワッとするところもありました。

――髙木監督は、マフラーをどういったものとして登場させたんですか?

髙木:身に着けるもので、貸してもらえるもの。自分は手袋を貸してもらった記憶があるんですけど、手袋だとにおいを伝えるアイテムとしては絵にするとなると力不足だなと思ったのでマフラーにしました。寒い時にマフラーを巻いてもらうのってキュンポイントでもあるし、あるあるな話かなというところで採用しました。

――歌詞にも、〈マフラー〉を入れてほしいっていうリクエストはしたんですか?

髙木:それはしなかったんですけど、最初〈マフラーのにおいが〉というような歌詞をいただいて。でも、直接的な言い方は避けたいってお願いしたら〈マフラー ふふふふん〉という感じに変更していただいて(笑)。

――直接的な言い方は避けたいって、髙木監督の方向性もすごくわかるんですけれども、藤原さんとしては難題ですよね。

藤原:何回も何回も書き直して、いいとこ取りをしていきました(笑)。今お話ししていて思い出したんですけど、麻穂さんのお友達のお話で「『笑顔が好き』って言われたことが忘れられない」っていう。それを入れたいと言われていたので、最後に入れたんですよね。

――〈君が褒めてくれた笑顔/色褪せないでいて〉ですね。

藤原:そうです。

――映像でも女の子が、いろんな感情がこもっているような笑顔を見せていて。

藤原:ねえ。かわいいんですよ!

髙木:笑顔って、自然な笑顔だったり、作り笑いだったり、絵で表現するのは難しいんですけど、あの〈君が褒めてくれた笑顔〉の歌詞のところは、グッとくる笑顔の絵がないと成立しないと思ったので、試行錯誤しながら描きました。

――笑顔とも繋がりますけど、映像や歌詞において〈写真〉の使い方も印象的で。やっぱり初恋、もっと言えば思い出において、写真って密接に結びついているからなんでしょうか。

髙木:企画段階の時点で、主人公の女の子の彼氏がカメラマンを目指していて、TikTokとかに作品をあげているようなキャラクターっていうのは決まっていたんですよね。

――そこまで細かく設定があったんですね!

髙木:TikTokで“彼女がかわいすぎる”みたいなタグがついている、彼氏がスマホで撮ったような映像を繋げたものをよく見ていて。「こういうのは別れた後にどうなるんだろう?」とか思ってしまうんですけど(笑)、今の若い子はそういうことをするんだなあって、設定に取り入れた感じです。

――それを踏まえて、〈写真〉という言葉も歌詞に入っていったんですね。

藤原:そうですね。私も友達に、彼氏に撮ってもらった写真と友達に撮ってもらった写真では顔が違うっていう話をされたことがあったり。あとは、彼氏の写真を別れた後に消す派と消さない派っているじゃないですか。私は一切合切消す派なんですけど(笑)。でも、前に進みたいから消したいけど、見るたびに涙が止まらないという人もいて。そういう恋心と写真って、写真を撮る人が増えている今はより密接に関わっていると思います。

――では髙木監督、特に好きな歌詞のフレーズってどこですか?

髙木:いっぱいあるんですけど、〈1.2.3 で 深く吸って/きみといると 眠くなるなぁ〉は、“におい”とは直接言わず、彼のにおいで安心して眠くなるっていうのが伝わってきて、しかもさくらさんっぽい言い回しなので、特に好きですね。

藤原:嬉しい!

――藤原さんは、映像のなかで特に好きなシーンはどこになりますか?

藤原:たくさんありますね。でも、麻穂さんが好きと言ってくださっている歌詞のシーンって、リズムがわかりやすいワルツになって、どんどん場面が変わって、しんどい感じと楽しい感じが交互に現れるんです。それこそ、失恋した時って思考が「ウワーッ!」って乱れ撃ちになるから、その感じが伝わってきましたね。

――ふたりの相性のよさが今作から伝わりますし、また違った角度でコラボレーションしてほしくなります。気の早い話ですが、次にやるならどんな作品にしてみたいですか?

髙木:今回は私主導で自分の好きを詰め込んだので。今度はさくらさんの好きを優先した何かを作ってみたいですね。

――藤原さんは、どんな楽曲を髙木監督の映像で表現してもらいたいですか?

藤原:私は近しい人のことを歌う楽曲が多かったりするので、恋愛に限らず、人との関係を描いた楽曲で、また麻穂さんとご一緒できたら素敵ですね。

――藤原さんは、先日、耳と喉の不調のため歌唱活動休止を発表されました。今の心境と、ファンの方へのメッセージも伺えると嬉しいです。

藤原:私としては、休むことにネガティブな気持ちはひとつもなくって。一点集中で目の前のことに向き合っていると、「ああ、今日なんも食べていない!」とか気づいたら自分の体のことが疎かになることってあると思うんです。来年でデビュー10周年を迎えますし、ここまで突っ走ってきたから、今はいい意味でお休みすることがインプットになるんだろうなって思いました。最近、自分の体からのメッセージをちゃんと聞いてあげられる人間になりたいって感じているんですよ。「肩が凝っている」とか「お腹が痛い」とか、なんで自分ばっかりこんな目に遭わなきゃいけないんだって考えちゃうけど、「自分の体からお手紙が来ているんだから、ちゃんと読んであげよう」って。だから、今回休むという判断ができました。そして休む前に、こういう素敵な作品を発表できたのもよかったと思います。

――ありがとうございます。藤原さんのライブでまた歌を聴けるのを楽しみにしてます!
最後になりますが、藤原さんは、今作でデビューを飾った髙木監督に、これからどんな作品を生み出していってほしいですか?

藤原:期待しかしていないです。日本の宝としてこれからもいろいろな作品を作っていかれると思うんですけど、今回はMVだから4分半くらいの尺だったから、ちょっとずつ時間を延ばしていって、短編映画とか観たいですね。絶対かわいいものになると思う!

――髙木監督は、これからの藤原さんにどんな楽曲を期待していらっしゃいますか?

髙木:30歳とかになって、いろんな経験をして価値観も変わった、違う目線のさくらさんの楽曲も聴いてみたいですね。

■リリース情報
Digital Single『初恋のにおい』
配信中

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