なきごと、言葉にできない感情を音楽にする意味 開けていく中でも変わらない“人”への眼差し
心の奥底の孤独を音楽にできた理由
――「グッナイダーリン・イマジナリーベイブ」で歌われている大人っぽさ/子供っぽさが同居してる感じって「ゆらゆら」にも通ずると思うんですけど、同じことを「安酒にロマンス」と「生活」にも感じました。孤独でどうしようもない夜に「安酒にロマンス」みたいな時間を過ごせたらいいだろうなと思いつつ、「生活」みたいな状況に陥ることもかなりリアルで。
水上:確かに、孤独のパラレルワールドみたいな。その聴き方もいいですね。「安酒にロマンス」で歌っているのは、社会で生きていく上で、やっぱり誰かがいてくれるだけで救われることがあるよなってことなんですけど、「生活」はそこから外れてきてしまって、視界が真っ暗になるくらいまで病んでいたりとか、大きな壁を作っているような状態の曲です。
――本当に音楽に救いを求めるリスナーは「生活」のような曲を欲しているんじゃないかと思うんです。この曲はどのようにしてできたのでしょうか。
水上:私、学生の頃に家に引きこもっていた時期があって。その時の素直な感情を歌にして出したかったんですけど、「それをやったところで誰も救われないよな」「何の意味もないよな」とずっと思っていて。要するに、ただ「辛いです」って言うだけの日記みたいなアウトプットだったら、自分が思うクリエイティブとは違ってきちゃうなと。でも学生の頃に比べたら曲を書く力は上がっていると思うので、今だったらできるかもしれないと思って、何とか形にしてみました。
――そう決断できたきっかけは何かあったんですか。
水上:最初にワンコーラスだけ作ってデモのリストの中にひっそり入れて、岡田に送っていたんですけど、その時「この曲めちゃくちゃ好き」「シングル(『素直になれたら』)に入れたい」と言ってくれて。私の中では、凶器になりかねない曲だと思っていたから、岡田に背中を押してもらって形にできたのかなと思います。アレンジ面でも、私の皮肉な性格からすると「雑多な音が入ると、逆にわかりやすすぎるんじゃないか」と思ってたんですけど、やっぱりアレンジャーさんがいてくれたことで、私の一貫性は守られつつも、いろいろな人に聴いてもらえるアレンジとして整合性が取れた気がするので。そこでも背中を押してもらいましたね。
――岡田さんがそこまで「生活」に惹かれたのはどうしてだったんでしょう?
岡田:えみりが描く曲の世界観って、大きく二分すると非現実的な曲、現実的な曲に分かれると思っていて。どちらも好きなんですけど、私は「強く思っているけど、上手く言葉にできないこと」を言葉にしてくれて、ムカムカして消化し切れなかった感情を胃薬のようにスッと溶け込ませてくれる曲が大好きなんです。「生活」はもうドンピシャで。気づいていなかったけど、〈息をすう息をはく〉、たったそれだけなのに難しい。私だけじゃないんだ、そうあってもいいんだと、肩の荷が降りて救いになりました。でも、最初にこの曲が好きだと思ったきっかけは、ひとりでうずくまっている時にぼそっと口ずさみたくなるようなサビのメロディで。聴き込むと、それ以上に歌詞も大切にしたくなる曲だなって思いました。
――「生活」は特に、岡田さんのギターが歌詞の繊細な感情を色づけしていくような感覚がありますよね。
岡田:私が弾くギターも、音に乗る感情を読み取ったものと、歌詞の感情を読み取ったものに二分されると思っていて。「安酒にロマンス」とかはメロディが伝えたいことを読み取って増幅するつもりで弾いているんですけど、「生活」では歌詞が伝えたいことを読み取って、その背景を埋めて感情をより立体的にするような気持ちで弾いていますね。
――水上さんとしては、引きこもっていた頃の自分に語りかけるような感覚もあるんでしょうか。
水上:というより、引きこもっていた時の自分の本音ですね。〈死にたい〉と〈消えたい〉は全然違うもので、〈死にたい〉は自分の命を終わらせることだと思うんですけど、〈消えたい〉は今まで生きてきたこと自体を消したい、自分の存在そのものを消したい……みたいなことなので。ただ、さっきも話したように「それを形にすることで何が生まれるんだろう?」とずっと思っていたんですけど、やっぱり岡田やファンの人の「言語化してくれたことで気持ちが救われた」みたいな声を聞くと、本音を入れ込むのもあながち悪いことではないのかもなと思って、思い切りぶつけてみました。
――形にする意味を疑っていた理由、もう少し詳しくお聞きしてもいいですか。
水上:そうですね……やっぱりSNS上でも指殺人と言えちゃうくらい、言葉って凶器じゃないですか。それゆえに、言葉の意味をメロディや演奏が広げていってくれると、いい方向だけでなく、悪い方向にも広がってしまうなと思っているんです。誰かを傷つける音楽はやりたくないし、最終的に救いになるかはさておき、望まぬ方向に行ってしまったら嫌だなと心から思っていて……凶器になる言葉を無意識に選んでしまっていたらと思うと、書くのがすごく怖いんですよ。だから言葉は慎重に選ばなきゃいけないなと思いますね。
あと「生活」という漢字って“いきいき”と読めるのが辛く思えてしまう時があって……生きていく活動としての生活だってことはわかってるんですけど、どうやっても心が乗らないタイミングって誰もが経験してきていると思うから、私なりの“生活”へのアンチテーゼみたいな歌詞になってますね。皮肉な性格だと思います。
――でも、周りの人に背中を押されたことで、なきごとの輪郭がもう一段階はっきりと見えてきたからこそ、曲にできたのかなって想像していました。きっとひとりだけでは形にできなかったし、いろんな人を巻き込むなきごとだからこその曲なのかなって思います。
水上:そうですね。周りの人たちがいたからこそ、安心して……というわけじゃないけど、書き切れたんだと思います。Dメロの部分も、アレンジャーさんに「構成的に足したいから、歌詞とメロディ作ってくれませんか」と言われて、後から足したんですよ。そこも周りの人の力があったからこその歌詞になっていると思います。けど、この歌詞を書いて、本当に3日間寝込みました。気持ちってぶり返すものじゃないですか。たぶん猫が風邪を引く時とかと同じで、免疫が下がると、1回摂取しちゃった悲しみが溢れてくるんですよね。けど、この曲を書く時はあえて心の免疫レベルを下げて、感情を引っ張り出したので、そこから立ち直るまでにすごく時間がかかりました。
――それだけの曲になっていますからね。心して聴きます。
水上:いや、でもそんなに……もちろん重たく聴いてもらっても構わないんですけど、「Dメロめっちゃ高くて歌うの大変そう!」とか、そういう聴き方でも嬉しいです(笑)。
――最後に、このアルバムができたことで、改めて実感しているのはどんなことでしょう?
岡田:えみりは人の感情を奥深くまで考える優しい子であると同時に、生きづらいこともあるんじゃないかなと思っているんですけど、いい意味で“水上えみり”としての芯は変わらず、いろんな側面から物事を捉えられるようになったのかなって、曲の世界観の振り幅が大きく広がったことによって感じました。
水上:私はこのアルバムを作る前、知り合いと話していた時に、なきごとの良さについてすごく語られまして。「なきごとってポップですごくいい曲を作るだけじゃなくて、なんかエモいよね」って。それで今までリリースしてきた曲たちをもう一度聴いた時に、確かにポップ感がありつつ、やっぱりロックに宿るエモさみたいなものが足されていて。メロディの運び方、アレンジを取ってみてもそうだし、そこがなきごとの強みなんだなとすごく思いました。自分の声って、しゃがれているロックボーカルではないじゃないですか。だけど岡田のギターが渋くて、20代半ばの女が弾くギターではない感じ(笑)。そういうところが、なきごとのポップさとエモさを作っているんだなと。そういう意味では改めて、なきごとらしさに向き合っていけた1枚だったのかなと思います。
◾️リリース情報
なきごと 2nd Full Album『ふたりでいたい。』
2024年7月31日(水)リリース
配信:https://nakigoto.lnk.to/Futarideitai
購入:https://nakigoto.lnk.to/nakigoto
【初回限定盤-スペシャルパッケージ盤-】
※TOWER RECORDS限定販売
販売価格:6,300円(税込)
封入内容:CD+DVD+[NOiD]タオル
品番:NOID-0042
【初回限定盤】
販売価格:4,500円(税込)
封入内容:CD+DVD
品番:NOID-0043
【通常盤】
販売価格:3,000円(税込)
封入内容:CDのみ
品番:NOID-0044
<CD>
1.sniper
2.グッナイダーリン・イマジナリーベイブ
3.またたび
4.マリッジブルー
5.ゆらゆら
6.退屈日和
7.安酒にロマンス
8.Hangover
9.終電
10.生活
<DVD>
『8th Digital Single “素直になれたら”Release Tour 2024』
2024.04.06@Zepp Shinjuku(TOKYO)公演 Live映像
1.憧れとレモンサワー
2.連れ去って、サラブレット
3.ユーモラル討論会
4.D.I.D.
5.マリッジブルー
6.知らない惑星
7.私は私なりの言葉でしか愛してると伝えることができない
8.グッナイダーリン・イマジナリーベイブ
9.Summer麺
10.のらりくらり
11.春中夢
12.退屈日和
13.ひとり暮らし
14.不幸維持法改定案
15.ハレモノ
16.メトロポリタン
17.終電
18.Oyasumi Tokyo
19.生活
20.深夜2時とハイボール
en1. Hangover
en2.シャーデンフロイデ