TOSH、コロナ禍の試行錯誤を乗り越え新フェーズへ 新曲「LET IT GO」で描いた執着しない前向きな別れ

TOSH、コロナ禍以降の新フェーズ

 グローバルポップ的な志向を掲げた沖縄発のシンガーソングライター TOSHが、新曲「LET IT GO」をリリースした。

 これまでに1st EP『IN MY ROOM.』(2020年)、2nd EP『Something's Wrong』(2022年)の2枚のEPを発表。70'sのロックを基盤に、R&B、インディーポップ、エレクトロなどを取り入れた音楽性によって早耳の音楽リスナーの注目を集めた。

 新曲「LET IT GO」はSatoshi Ananをプロデューサー・エンジニアとして迎えたエレクトロポップ。新たなフェーズに突入したTOSHに、これまでのキャリアと新曲の制作、今後の活動ビジョンなどについて聞いた。(森朋之)

モンゴル、韓国、台湾……アジア圏でのライブ経験から得た成長

TOSH
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ーーまずはTOSHさんのこれまでのキャリアについて聞かせてください。1st EP『IN MY ROOM.』のリリースが2020年。今振り返ってみると、TOSHさんにとってどんな作品ですか?

TOSH:今回の「LET IT GO」とはかなり違う印象があると思いますね。もともとジャンルを縛るつもりもなかったし、『IN MY ROOM.』もその頃に「いいな」と思っていたことをやった感じです。手持ちにあった機材、iPadとGarageBandだけで作ったんですけど、そのなかで自分がどれだけやれるか試行錯誤して。完全に自分の部屋のなかで完結した制作だったので、タイトルも「IN MY ROOM」なんですよ。CDに関しては完全受注制作で、沖縄にある桜坂劇場に協力してもらいながら作りました。

ーーもちろんTOSHとしての音楽性を提示する作品でもあったわけですよね?

TOSH:そうですね。毎年、沖縄でショーケースイベントが行われていて。以前、桜坂劇場の支配人をやっていた野田隆司さんを中心に開催していたイベントが、ちょうどEPのリリース時期と重なっていたんです。海外の人にアプローチできる場でもあるし、そこにぶつけたいという気持ちもあったんですよね。東京はもちろん、海外にもアピールできたらいいなと。そのイベントには世界各国のイベンターやキュレーターが集まるんですよ。今は「Music Lane」(音楽ショーケースフェスティバル『Music Lane Festival Okinawa 2024 / Trans Asia Music Meeting』)という名前になってるんですけど、沖縄ローカルでありながら、すごく海外に開かれている感じがあって。

TOSH

ーー『SXSW』(米テキサス州オースティンで行われているカルチャー、テクノロジーの祭典)のようなイベントなんですね。『IN MY ROOM.』の楽曲は有力なプレイリストに入ったり、多くのリスナーに届きました。それは自信になったのでは?

TOSH:多少は自信になりましたし、サブスクのおかげで海外のリスナーとの距離感もだいぶ近くなったと思います。ただ、その直後にコロナ禍になってしまって、正直どうやって活動していいかわからなくて。東京でのライブのオファーもあったんですけど、キャンセルになることが続いたり。試行錯誤を続けるなかで制作したのが、(2nd EP)『Something's Wrong』(2022年)ですね。

ーー制作の環境も大きく変わったそうですね。

TOSH:はい。GarageBandからLogic Proに替えたんですが、それだけでだいぶ音の幅が広がって、やりたい方向性が見えてきて。『IN MY ROOM.』はシンガーとしての作品という感じがあったんですけど、『Something's Wrong』では自分のルーツであるロックを大事にしつつ、そこから派生していけそうだなという手ごたえがあったんですよね。もともとは70年代ロックが好きで、いちばん最初にギターでコピーしたのがLed Zeppelinの「Stairway to Heaven(天国への階段)」だったので。いちばんリスペクトしているのはデヴィッド・ボウイですね。時期によってバンドのメンバーも変えて、そのときどきのサウンドを表現していたじゃないですか。自分もそういうふうになれたらいいなと思いますね。見た目は派手でキャッチーなんだけど、音楽的にはすごく攻めていて。その表現の仕方もすごいし、いま聴いてもめちゃくちゃ新鮮なんですよね。

ーー2023年は新作のリリースがありませんでしたが、TOSHさんにとってはどんな1年でしたか?

TOSH:『Something's Wrong』をリリースした後、いろんなところ(レーベル、事務所)から声をかけてもらったんですよ。自分的にも個人で活動することに限界を感じていて。表現の幅を広げることもそうだし、海外でのライブを増やしたいという気持ちも強かったので、それをしっかり腰を据えてやれる環境を作りたかったというか。そういう模索をしながら活動していたのが去年ですね。

ーー実際、海外での活動も増えましたよね。最初の海外公演はどこだったんですか?

TOSH:モンゴルの『PLAYTIME FESTIVAL』というフェスです。“モンゴル中のイケてる人たちが集まる4日間”という感じで、すごく楽しみにしてたんですけど、俺の出番の日が大雨でライブができなくなったんですよ。でも、サポートしてくれた桜坂劇場の人たちや現地のスタッフのおかげで、ウランバートルのクラブを押さえてくれて。韓国のAnimal Diversというバンドと一緒にライブをやったんです。SNSでキャッチしてくれたお客さんがかなり集まってくれて、めちゃくちゃ盛り上がって。

my first time in Mongolia

ーーすごい。そういうハプニングは楽しめるタイプ?

TOSH:だいぶ楽しめますね(笑)。というか、そういうことばっかりなんですよ。何かにトライするたびに思いもよらぬことが起きるんだけど、それが面白いことにつながるというか。

ーーなるほど。韓国、台湾でもライブがありました。

TOSH:韓国は弘大(ホンデ/サブカル、アート、音楽が盛んな地域としても知られる)の都市型サーキットフェスに出させてもらって。そのほかに韓国のバンドと対バンしたり、沖縄のバンド HOMEと向こうのライブハウスでイベントもやりました。知らないバンドでも良ければ盛り上がってくれる感じで、すごく良い反応でしたね。台湾は『LUCfest(ラック・フェスト)』というショーケースライブですね。台南という古都で行われているイベントだったんですけど、けっこうプッシュしてもらって、お客さんもたくさん来てくれて。台湾ではコライティング・キャンプにも参加しました。中華圏とかヨーロッパのアーティストが集まって、初めて会った人たちと曲を作って。違う組み合わせで3日間やったんですが、だいぶ鍛えられたし、「もっと自信持っていいんだな」と思いましたね。

ーーそれも貴重な体験ですよね。制作も続けていたんですか?

TOSH:そうですね。今年中にEPを出したくて、それに向けて制作をしていて。デモを作って、それをブラッシュアップしていく作業をずっとやっていました。いろんなタイプの曲を作りたいと思っていたんですけど、シンセを使った曲が多めだったかもしれないですね。それもLogic Proで作り始めた影響だと思うんですけど、エレクトロ色が強くなっているというか。自分のなかで「エレポップが2024年にマッチしそうだな」という感覚もあったので。まあ、やりたいことはたくさんあるんですけどね。基本、スランプだったり作れなくなることがないんですよ。ずっと沖縄でやってるからかもしれないけど。

ーー沖縄にいるとインスピレーションが沸くんですか?

TOSH:0から1を作りやすいというか。生まれも育ちも沖縄だからかもしれないけど、東京で制作するイメージができないんですよ(笑)。やってみたら違うのかもしれないし、この先どうなるかわからないですけどね。

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