Adoが国立競技場で叶えた夢とは何だったのか? 歩んできた物語のすべてを詰め込んだ一夜を振り返る

 女性ソロアーティストとして初となる国立競技場でのワンマンライブ。そんな金字塔を打ち立てた『Ado SPECIAL LIVE 2024「心臓」』が、4月27日・28日の2日間にわたって開催された。Adoという歌い手の凄み、彼女がここまで歩んできた物語、彼女を支え続けてきたもの、すべてをとんでもないクオリティで詰め込んだライブは、世界でAdoにしか作れないエンターテインメントであり生き様だった。

 ステージ上に設置された横幅100mはあろうかという巨大なLEDスクリーンに脈打つ心臓のグラフィックが映し出される。そしてバンドが音を鳴らすなか、ステージ中央にせり上がってくる巨大なボックス。そして、ついにそのなかでAdoが歌い始めた。1曲目は「うっせぇわ」だ。激しく体を動かしながら歌うAdo。ステージでは七色の炎が噴き上がる。声に込められた力感が、このライブに懸ける彼女の思いを物語るようだ。そして、「Tot Musica」、「ラッキー・ブルート」、「ドメスティックでバイオレンス」……美しい映像をバックに、バラエティ豊かな楽曲が次々と繰り出されていく。寝転がったり、手を大きく動かしたり、その躍動するシルエットからは爆発的なエモーションと生命力が伝わってくる。

photo by 木村泰之

 ハイトーンを美しく響かせたり、凄みの効いたシャウトを轟かせたり、縦横無尽に表情を変えていく「愛して愛して愛して」の歌唱を終えるとAdoの入った檻のようなボックスがリフトで上昇。いちだんと高い場所からじっくりと歌われるのは「過学習」だ。それまでのような激しい動きを抑えながら、両手の動きだけで楽曲の感情を表現していくパフォーマンス。一転、オーディエンスの手拍子が鳴り響くなか「マザーランド」を披露すると、イントロから歓声が上がった「ギラギラ」へ。観客全員に配られたFreFlowⓇ(フリフラ/無線制御のライト)が生み出す光の波がアリーナに、スタンドに広がっていく。すでにボックスのなかに収まりきらない感情が、この広い国立競技場を席巻していくのが目に見えるようだ。

 そんななか、「永遠のあくる日」を終えると、突如、スタジアムの上空に心臓の絵が映し出された。LEDライトを搭載した無数のドローンが空を舞い、夜空にアートを作り出しているのだ。その絵は虹になったり、流れ星になったり、次々と形を変えながら観客を魅了する。そして最後にはAdoのシンボルである青いバラを形作ってみせた。花火やレーザーライトはまだ見たことがあるが、それを遥かに超えるスペクタクル。現実の夜空に浮かび上がる巨大なバラの花は、筆者の目にはリアルとバーチャルのあいだで生まれた、Adoという“声”を象徴するもののように映った。そのAdoを象徴する光景を経て歌われたのが「私は最強」。力強く自分自身を鼓舞するようなメッセージが、ウタではなくAdo自身の言葉として放たれる。この曲を境に、ライブはますます熱狂の度合いを高めていった。

photo by 石井亜希

 「レディメイド」で〈脳内!脳内!〉のシンガロングを巻き起こし、「クラクラ」ではコール&レスポンスを成立させ、それまでひたすら圧倒されるばかりだった場内の空気が明らかに変わっていく。そして「いばら」が鳴り響いた時、Adoのボックスが取り払われた。〈準備はいいか〉――。この曲に刻まれた言葉が、Adoが今生み出した叫びのように国立競技場を揺らし、ライブはクライマックスへと突入していった。左右に伸びた長い花道を歩きながら歌った「唱」でこの日いちばんと言っていい大歓声と歌声と手拍子を巻き起こし、「踊」で完全に国立競技場をひとつにしたAdoは「ありがとう!」と叫んだ。

 「みなさんこんばんは、Adoです!」とここでこの日最初のMCだ。4月1日のアメリカ・オースティン公演でワールドツアー『Wish』を完走したAdo。「世界でライブができたことは、素晴らしい経験になりました。その経験は今回のパフォーマンスにも活かせていたのではないかと思っています。初めて世界に行って、より日本が大好きになりました」と語り、喝采を浴びながら、「だからこそ、世界の多くの人にこの国の素晴らしい文化を知ってもらうべきではないのかと強く思ったのです」と続けたAdo。「人間が抱くすべての感情をお見せしたつもりです」というこの『心臓』は、たしかに世代も国境も超えて心を揺さぶる表現となっていた。そんな力強い言葉から歌われたのが、本編最後の曲「新時代」。Ado自身の決意が重なるような熱唱の余韻は、曲が終わったあともまったく薄れることはなかった。

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